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彼女の罪、彼の罪  作者: はるあき/東西
2/5

行方不明

 ある日、王宮の雇い入れたばかりの下女が二人姿を消した。辛い下女の仕事に逃げ出す者がいることはよくあることだった。二人は仲が良かったため、二人で逃げたのだろうと思われた。気に止める者は少なく事件性もないものとされた。


 その十日後、今度は四人いなくなった。下女ばかりではなく侍女見習いが一人混ざっていた。侍女見習いは良家の娘で流石に調べなければならないということになり、家に戻っていないか確認することになった。だが、最初に失踪した二人を含め、誰一人と家に戻ってなく連絡さえもないという。家族は捜索願いを街の警備に届け出た。


 その更に十日後は八人、だか、次の十日後には王宮からは行方不明者は出なかった。偶然なのか街で子女の所在不明が相次いだ。その数二十件。うち二人は誘拐と分かり無事保護できたが、後の十八人については何の手掛かりも掴めていなかった。


 次の十日後には、王宮から三人の行方不明者と孤児院が一つ焼失した。住み込みのシスター合わせて三十六人が死亡した。


 次の十日後には、王宮から五人、街からは十人、孤児院が二つ焼失した。


 運良く燃え盛る孤児院から逃げ延びた少年がいた。

 街の衛兵の詰所にある一室で保護された少年から話を聞いていた。行方不明者の捜索担当となったテムもその場にいた。


「夜中に目が覚めたら、キレイな女の人がいたんだ。その人が触るとみんな枯れ木のように茶色く細くなってた」


 その子は偶然カーテンの真下で寝ていて、その女性に気付かれなかったそうだ。


「もう一人女の人がいて、数を数えてた。ちょうど()()()()になりましたから帰りましょう、て」


 六十四? テムは首を傾げた。なんで数を数える必要があるのかと。


「女の人たちが出て、ホッとしてたら火が出て。みんな起こしたけど、起きなくて…」

「その、茶色くなった子は…」


 聞くのは酷かもしれない。けれど彼らも仕事だった。


「声をかけたよ! けど、ほんとに木みたいに固くなってて…、揺すったらボキッて腕が折れて…」


 泣きそうな顔は思い出した恐怖で引き攣っていた。同じ孤児院の仲間の体がそんなことになったのを怖いと感じないわけがない。助けようと揺り起こしていて折れたなんて、トラウマにならないといいが。

 茶色く細く木のように固い。焼失した孤児院から出てきた遺体はほとんどのものが()()()になっていた。生身で焼ける時は、焼けた肉片がくっついていても可笑しくないのに。


「なあ、みんなが食べて、君が食べなかったものは無かったかい?」

「あっ、昼間、聖女様が来てお菓子を。俺、たまに体が痒くなるお菓子があるんだよ。それ、ちょっと噛っただけでモゾモゾときたから…、ライに、ライにあげたんだ…」


 生き残ったのはこの子一人。貰ったお菓子を食べた子供は枯れ木のようになったか、焼け死んだのだろう。

 ポタリと少年のズボンが濡れる。


「ヨシヨシ、よく頑張った」

「怖かったな」

「辛かったな」

「敵はちゃんととってやる」


 聞き取りを行っていた兵士の一人が優しく少年を抱く。

 少年はしがみついて、大声で泣き出した。



 事務室に戻る途中、テムは警備隊長のケインに呼び止められた。ケインはテムより少し年上の青年だ。茶色の髪と青い瞳をしている。前警備隊長の指名でその跡を継いだばかりだった。だが、その腕は一流で警備兵の中でケインに敵う者は誰もいなかった。


「テム、どう思う?」


 人気のない通路で声を潜めて話す。公では話せない。


「聖女の差し入れが気になりますね」

「ああ、それに眠り粉が入っていたとしたら」


 ケイン隊長はめんどくさーと顔をしかめた。

 聖女の扱いは難しい。国と神殿が関わってくるため、疑わしいからと簡単に調べられない。


「それから、数を数えていたのが気になって」

「六十四か?」

「ええ、クリスタ様も人の数に気を付けるように仰ったので」

「クリスタ様が?」

「王宮を出られる時に…」

「そうか、被害者の数に何かあるのか?」


 ケイン隊長は話を止めた。人が近づいて来る気配かある。話はここまでだ。


「何か気が付いたら教えてくれ」


 二人は反対方向に歩き出した。



 テムは紙に数を書き出した。こういう場合は一覧表にしたほうが分かりやすい。


  初日   二人 

  十日後  四人 

 二十日後  八人 

 三十日後 十八人 


 二十日後までは数が二倍になっている。偶然? 


  初日    二人(二) 王宮二人不明

  十日後   四人(四) 王宮四人不明

 二十日後   八人(八) 王宮八人不明

 三十日後  十八人(十六) 街二十人不明・内二人保護

 四十日後 三十九人(三十二) 王宮三人不明、孤児院三十六人焼死

 五十日後 七十二人(六十四) 王宮五人不明、街十人不明、孤児院六十二人焼死

 六十日後は? ???人(百二十八)


 テムはペンが震えるのを抑えられなかった。

 二倍の数より多い人が死んでいる。これはただの偶然か? 十日おきに()()()()()以上の死人が出ているのは。まだ憶測だ。憶測にすぎない。けれど、九日後、百三十人くらいの場所に行くとしたら?


 テムは紙を筒状に丸めるとケイン隊長の所に急いだ。


「ケイン隊長、九日後、聖女は何処に行かれますか?」


 嫌な予感がする。次は百二十八人。その数だと小さな集落が必要だ。

 ケイン隊長の机の上に丸めた紙を広げる。


「王后様に同行して、外れにあるマナタ地区に行かれる予定だが」


 マナタ地区は二百八十人くらい。多すぎる人数だ。ただの偶然だったか?

 食い入るように紙を見ていたケイン隊長が頭をボリボリと掻く。


「あの少年は老シスターには何もしなかったと言っていたな」


 テムはハッとした。城で行方不明になっている者たちは皆若い娘たちだ。


「狙われるのが若い娘か子供だとしたら?」


 テムの背中に冷たい汗が流れる。老人や成人男性を除いたら、マナタ地区の子女は百三十人くらいだろう。


「連れてく侍女たちを入れたら()()()()()()()()な」


 ケイン隊長は紙をまた丸めるとガタッと音を立てて立ち上がった。


「王んとこ、行くぞ」


 足早に歩くケイン隊長に慌ててテムは付いていった。

誤字脱字報告、ありがとうございます

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