動物の気持ちにはなれないけれども。
家族が居ました。
兄弟は沢山いました。
生活は楽ではありませんでした。
明日食べるものもあるかすら危うかったです。
家なんて立派なものはなくて雨や風を凌ぐのはせいぜい落ちている小さな段ボール。
家族は多かったのでぎゅうぎゅうになって雨風を凌ぎました。
冬はとても大変でした。
食べるものはなかなか手に入らなかったし、防寒具も全員分ありませんでした。
ある日上の兄弟と両親が私たちを養うために出稼ぎに行きました。
「すぐに帰ってくるからね」
1日過ぎても1ヶ月過ぎても誰も帰って来ませんでした。
私は上の兄弟と両親の死を悟りました。
これからは私が妹達を守らなくてはと思いました。
毎日妹達の食べ物を探しに行きました。
探しに行った先で私達のような暮らしをしている人達がいました。
私達人間が生き残るには二種類、方法があります。
他種の生物に飼われるか、野良として生きるか。
飼われたとしても大人になるにつれて捨てられる未来もゼロではない。
暴力を受けることもあります。
私達が言葉を理解していないと思っているのか、罵詈雑言を吐き捨てる飼い主もいます。
飼われると私達は首に輪っかをつけられます。歩くと音が鳴るものもあります。
飼われたら幸せに暮らせるかわからない。
でも、親切な方に飼われると裕福な暮らしができると思います。
…そのかわり家族とは離れ離れになってしまうかもしれない。
だから私は他種の生物に見つからないように身を潜めて生きています。
でもダメでした。
見つかってしまったのです。
妹達は無事です。
見つからずに逃げ切る事ができました。
私は今、輪っかをつけられてます。
紐で引っ張られています。
叫んでもお構いなしに。
箱に入れられて車で運ばれてました。
着いた建物の中には震えている人間がいました。
「ここはどこなの?」
尋ねると結花という少女は言いました。
「私達野良の人間の死に場所よ」
もう私は家族とは生きて会えないことを悟りました。
私を連れてきた生物達が喋っているのを聞いてわかりました。
私は明日死ぬのだと。
恐怖です。
死というものは経験した事がありません。
死んだらどうなるのか、わかりません。
怖いです。
怖い。
死ぬ前に会いたかったな…
目を閉じると家族がそこにいました。
どんなに貧しくてもよかった。
家族と一緒にいられるなら。
でも今度生まれてくるときは誰も殺されない平和な世界で笑って生きたい。
時間です。
私は別室に連れてかれました。
他の人間達もいます。
ドアは閉められ、ガラス越しで私達を連れてきた生物の口が動きました。
「ごめんね」
そこから覚えていることはあまりありません。
息が苦しくて、呼吸ができなくなってきた事が私の最期の記憶です。