99.その褒め言葉、訳判んないから!
脱衣場のマッサージチェアで十分くらい揉まれると生まれ変わった気分になった。
同型機が僕の部屋にもあるんだけど温泉から上がった直後というのがいい。
本当は浴衣で揉まれたいんだがさすがに無理だ。
温泉宿じゃないんだし(笑)。
時計を見たら午後2時過ぎ。
いつの間に。
慌ててお風呂を出て自分の部屋に帰る。
その間、誰にも会わなかった。
人払いされているのかも。
(むしろ矢代大地に構ってられないんだろうな)
無聊椰東湖が言ってきた。
ああ、そうか。
「お客さん」が来るから。
(当たり前だ。
少なくとも警戒体制には入っているはずだ。
最悪の場合は矢代大地を担いで装甲四輪駆動車で脱出だぞ?
それ以外の人たちは遅滞戦闘だ)
怖い事言わないでよ!
でも矢代邸ってそのために作られたような施設だからなあ。
財力誇示のハッタリだけなら要塞である必要ってないもんな。
まあいいや。
僕が気にする必要はないよね。
自分の部屋でテレビみたりしているうちに時間が迫ってきたので着替える。
信楽さんには自由でいいと言われたけど、さすがに部屋着じゃ駄目でしょう。
かといって背広は僕が堅苦しくて嫌だ。
というわけでタートルネックのセーターにスラックスで行く事にする。
もちろん高級品で、僕はよく知らないけど量販店やネット通販で買えるようなものじゃないみたい。
だってぴったり合っているんだよ。
多分、注文だろうな。
僕は知らないけど(泣)。
ところでこの矢代邸に連れてこられた時は玄関でスリッパを履かされたけど、さすがに今は靴だ。
といっても上履きで、外出するときには履き替えるんだけどね。
一見革に見えるけど柔らかい材質で出来た室内靴を用意して貰った。
履き心地はスニーカーに近い。
底もゴムなので歩くのが楽なのはいい。
僕、革靴が苦手なんだよね。
サラリーマンがそんなこと言っていたらやってけないけど。
でも僕はサラリーマンじゃないからいいんだよ。
(まあ経営者だからな。
IT企業のCEOがTシャツにジーンズで記者会見に出ても何も言われないのと同じだ。
矢代大地が何着ていようが誰も気にしないだろうよ)
無聊椰東湖の皮肉って判りにくいよね。
まあ僕は記者会見とかしないからいいけど。
身支度を調えて居間の中央で言ってみた。
「碧さん、どう?」
『大地さんの秘書の碧です!
いいと思います』
一言多いけどもういいよ。
それにしても「いい」って事はやっぱり僕を見ているわけね。
自分の部屋なのに(泣)。
『ストーカーではありません。
碧はあくまで主である大地さんの安全のために』
「うん、それはいいから。
ということでそろそろ行ってもいいかな」
『そうですね。
お約束の時刻までは15分ほどありますが、皆さんもう集まっていらっしゃいますからいいのでは』
何と。
お客さん、もう来てるの?
「待たせたらヤバくない?」
『まだ全員集合なさっておられないので。
応接室でおもてなししています』
碧さんが何げなく言った。
ん?
「全員って。
バラバラで来ているの?」
『はい。
何分、所属組織や国籍も違う方々ですので。
お付きの方が牽制しあっていて少し混乱しています。
控え室を複数用意してありますから別々に待機して頂く予定です』
どういうこと?
お見合いじゃなくて会見の相手って一人じゃなかったの?
まあいいや。
行ってみれば判るだろうし。
「とりあえずその控え室とやらに行くから」
『イエス、マイマスター』
抑揚のない声で応える碧さん。
口調も変えている。
何かファティマごっこが気に入ったみたいで時々遊ぶんだよね。
僕と二人だけの時だけだからいいけど。
僕はスマホを持って部屋を出た。
碧さんの案内で連れて行かれた場所は知らない部屋だった。
一応応接室らしいソファーなんかもあるけどあまり広くない。
「ダイチ様」
「お疲れですぅ」
「いよいよです」
「心配するでない。
万事順調じゃ」
皆さんが揃っていた。
比和さんは定番の女性用スーツだ。
美女の上にスタイルが良くて巨乳なのでちょっと間違えたらあっち方面の映画女優に見えかねないけど視線が鋭すぎて誤解しようがない。
もっとも僕を見ると一気に緩むんだよね。
落差が酷い。
信楽さんも一応、女性用スーツで正装していた。
でもやっぱり就活中の女子学生にしか見えないんだよなあ(泣)。
可愛いんだけど。
隣のパティちゃんの方が年上に見えたりして。
そのパティちゃんは何とブレザー姿だった。
下はスカートで、お洒落だけどどっかの高校の制服?
「新設の宝神総合大学付属高校の制服です。
出来てきたので着てみました」
学生服着ていても信楽さんより年上に見えるって。
いやパティちゃんが老けているんじゃなくて信楽さんが(泣)。
そして静村さん、いや静姫様は何と着物だった。
といっても振り袖じゃなくて地味な和服だ。
それでも異彩を放っている。
「静村さん、じゃなくて静姫様。
着物なんか持ってたんだ」
思わず聞いてしまった。
「静香はもともとこういう服が好きでな。
人前では洋服で通していたが寛ぐ時は大抵こういった服だ」
静姫様が我関せずで言うけどそれって静村さんの意志を無視してない?
「……私は嫌だったんですが静姫がどうしてもと」
「そんなことはしていない。
静香もノリノリだったじゃろうが」
「本気だとは思わなかったのよ!」
一人芝居を始めてしまった。
静村さんと静姫様は同一人物ではあるんだけど人格が相当違うからね。
僕が見たところでは完全な二重人格というわけじゃないみたいなんだけど。
どっちが強いという事もなくて、ただ破天荒で強引な静姫様に静村さんが振り回されているというか。
「ダイチ様、ステキです」
「確かにですぅ。
矢代グループを率いるカリスマに見えますぅ」
「さすがです」
残りの3人が褒め殺しに来ていた。
静村劇場はもう見飽きているので関心がないみたい。
「これで大丈夫かな?」
「最高です!」
「確かにですぅ。
地味で派手で総帥らしいですぅ」
その褒め言葉、訳判んないから!




