91.武家の娘さんたちだった(泣)。
比和さんは残りのダーツを全部、あっさり的に命中させた。
最後のダーツなんか中心に突き立ったダーツに弾かれて落ちたくらいで。
百発百中か。
「前世でこういうのやってたの?」
ダーツを回収しながら聞いたら恥ずかしげに言い訳された。
「王宮に勤める前は辺境の土地で生活していました。
畑作などには向かない場所でしたので食料や生活用品を自給するために狩りは必須で」
「村人なのに?」
まさかダンジョンの中に村があったんじゃないよね?
平凡な村人なんだけど近所に魔王城があって勇者より強いとか。
「村人、というよりは現住民です。
狩猟民族だったんですよ。
老若男女全員が狩人でした」
比和さんは僕からダーツを受け取るとごく自然なポーズで投擲した。
一度に全部。
すべてのダーツが綺麗に円を描いて的に突き立った。
プロ級、いやもっと上じゃない?
「先ほども言いましたが私はあまりこういった武器は好みません。
威力が小さすぎて急所に命中しない限り、突進してくる獲物を止められませんから」
比和さんは何でもない風に言うけど、それってイノシシとかそういう獲物だよね?
「弓が得意だったの?」
「主武器でした。
私は女性体でしたので接近戦には向きません。
遠距離で獲物を叩くのがセオリーですので」
比和さんって弓兵だったと。
つまり武装メイドとかいう以前に戦士だったわけね。
ただしそれは対人? 戦じゃなくて野生動物相手。
もっと危険かも。
まあいいや。
「ダーツやる?
比和さんには簡単過ぎるみたいだけど」
「私にとってこれは遊びではないです。
やっていて楽しいというわけでもありませんし。
外したら命の危険がありましたから」
何というハードな人生だったんだ(泣)。
でもそれって前世だよね。
「今は獲物を狩る必要ってないのでは」
「用心に越したことはありません。
それに随分実力が落ちています。
もちろん体力も技術も前世とは違いますが」
比和さんは不満そうだった。
まあ、確かに前世で得意だったからと言って今の身体が同じ技を使えるわけじゃないのは当然だ。
前世勇者でも日本ではただの高校生みたいなもので。
でもさっきの腕でまだまだなのか。
ダーツの世界選手権で優勝出来そうなのに。
「でも逆に言うと今の身体でよくダーツを使えるね?
練習もしてないんでしょう?」
聞いたら比和さんはちょっと恥じらいながら言った。
「実は……覚醒してから前世の技術や能力を再現させています。
幸いにして今の身体も前世と同じくらいの性能があるようですので。
メイドの技能は自分の知識を元に一から鍛え直しました」
それでか!
よく考えたら比和さんって前世が王宮メイドで妖精だとは言っても現代日本ではただの女子高校生だったんだよ。
なのに厨二病を発症してから数ヶ月で清掃の仕事をこなしていた。
半年後くらいには会社を立ち上げていたもんね。
つまり比和さん、というよりは厨二病のみんなって前世の知識を元に現在の肉体と技能をパワーアップさせていたわけか。
元々無意識だろうけど、みんな前世の職業に近いようなスポーツをやっていたらしいし。
比和さんの場合、職業は王宮メイドだったけど高巣さんの身代わりとかこなしていたようだし、その前は狩猟民族で弓兵いや弓使いだった。
その技能を全部取り戻したって?
唖然としていたら比和さんが更に紅くなった。
「いえ。
さすがに前世のレベルまでは無理です。
今の私では突進してくる熊を止めることなど不可能かと」
そんなの普通の人はライフルとか持っていたって無理です(泣)。
まあいいや。
「それじゃ次ね」
僕はさりげなくダーツを回収してカウンターに戻した。
でも次ってあるの?
「ダイチ様。
ここは何なのでしょうか」
比和さんの方から言ってきた。
ちょっと離れた所にドアがある。
娯楽室じゃない?
ドアを開けてみたら、何というか屋内運動場みたいな場所だった。
小型の体育館?
違った。
天井が低いしそんなに広くない。
十メートル平方というところか。
「これって」
「舞踏場ですね。
本物というよりは練習用のようですが」
確かに一方の壁が全面鏡になっていて手すりなんかもあった。
大画面スクリーンはチェック用か。
「ダンスって」
「競技用ではなくて社交です。
西欧の上流階級では未だにあるみたいです」
比和さんは海外でそういうパーティに招かれたことがあるそうだ。
前世でも王宮メイドだったから存在は知っていたらしい。
「踊ったことあるの?」
「ありません。
さすがにそこまで王女殿下の代役は期待されていませんでしたので」
苦笑いする比和さん。
比和さんがやっていた高巣さんの代役ってバルコニーから民衆に向かって手を振るみたいな事に限られていたそうだ。
さすがに面と向かったらバレるからね。
それはいいんだけど。
「踊ってみる?」
冗談で言ったら頷かれてしまった。
「是非!
ダイチ様と踊れるなんて夢のようです」
あちゃー。
そこまで言われたらしょうがない。
「いいけど僕、踊れないよ?
中学でフォークダンスをやったくらいで」
「実は母さんが好きで中学生の頃に街のダンス場に通って」とかいうラノベ的な展開はない(笑)。
僕は主人公じゃなくて雑魚ですから。
フォークダンスも全部忘れた。
「私もです。
亜里砂」
比和さんが空中に向かって呼びかけると綺麗な声が響いた。
『ここに』
いや、いないし(笑)。
ちなみに亜里砂ちゃんは比和さんの専属ガイドシステムだ。
比和さん自身を3Dモデリングして作ったため、比和さんそっくりのCG美女なんだよね。
それどころか声質や口調まで同じ。
妹という設定だけどやり過ぎな気がする。
だってスマホで話すと比和さんと見分けがつかないもんなあ。
それはいいんだけど、つまり亜里砂ちゃんも矢代邸のシステムに介入出来るわけか。
「私とダイチ様はダンスのレッスンを受けたいが教習用のビデオはあるか?」
『あります。
講師が実演しながら指導するタイプでいいでしょうか』
「それで」
『御意』
いきなり壁のスクリーンが明るくなる。
ダンス教師らしい人が写った所で亜里砂さんが言った。
『初心者向けのステップ指導ビデオです。
タイミングはこちらで制御してよろしいでしょうか』
「良きに計らえ。
ではダイチ様。
ご一緒に」
にっこり笑って僕の手を取る比和さん。
武家の娘さんたちだった(泣)。




