90.やっぱ戦士だった!(泣)
娯楽室に人気はなかった。
メイドさんは待機しているにしても見えない所にいるんだろう。
よって広い部屋に僕と比和さんが二人だけ。
ガランとしていてちょっと寂しい(泣)。
「では」
比和さんがビリヤード台の方に行こうとするので声をかけた。
「他にも遊びはあるよ。
一応、見て回ったら?」
「はい、ダイチ様」
比和さんもどうしてもビリヤードがやりたいと思い詰めていたわけじゃなかったみたいで素直に頷いてくれた。
何となくだけど比和さんとビリヤードは合わない気がするんだよね。
信楽さんは論理的な性格だから同じく論理的いや数学的なゲームであるビリヤードが気に入ったと思う。
でも比和さんはどっちかというと感情的だ。
もちろん頭が悪いとか計算が出来ないというわけじゃないけど、むしろ直感で動くタイプなんだよ。
それが恐ろしいほど正確だから今の立場にいるわけで。
しかも比和さんってちょっと短気というか気ぜわしい所があるからね。
ビリヤードは「待ち」が多いからイライラしてきそう。
まあそれは抜きにしても選択肢は多い方がいいから。
僕は比和さんを連れて娯楽室を回った。
区画ごとに色々な遊具があった。
デジタル? ゴルフ装置まであるのには笑ってしまった。
スクリーンに向かってスイングすると玉が飛んでいく様子が映し出されるらしい。
スイングの速度や角度、インパクトの状態なんかを計算して玉を飛ばせるみたい。
僕はゴルフやらないからよく知らないけど。
「比和さん、ゴルフは?」
「誘われましたが断っています。
時間が惜しいので」
即答だった。
メチャクチャ忙しいもんね。
比和さんは現場派の経営者だし。
ゴルフしながら契約をまとめるようなタイプじゃない。
もしやったら凄く有利な条件で契約出来る気がするけど。
相手が年配の男とかだったら多分イチコロだ。
だってヴォーグの表紙を飾るような美女なんだよ。
それ自体が接待になりそう。
隣にあったクレー射撃ゲームはスルーする。
次の区画はゲームコーナーだった。
何か時代遅れの温泉宿みたいだ。
ピンボールマシンとかクレーンゲームが並んでるけど誰がこんなの設置したんだろう。
ここ、温泉宿じゃないのに。
「申し訳ありません、ダイチ様」
さすがの比和さんも紅くなっていた。
「いや、比和さんのせいじゃないでしょ」
「ですがこれはどうみても矢代興業の暴走です。
内装を請け負ったのは矢代建設だとは思いますが、矢代ホームサービスも噛んでいたはずですので」
そういうことか。
矢代建設とか初耳だけど大体想像はつく。
どっかの建設会社を買収でもしたんだろうな。
そっちに矢代邸の再構築を任せて内装は矢代ホームサービスも一部を担当したんだろう。
比和さんがある程度矢代邸に詳しいのもそのせいだ。
だけどさすがに娯楽室の遊具までは把握してなかったと。
「まあいいじゃない。
ちょっとここで遊ぶ気にはならないけど」
「それはそうです。
そもそも採算が取れると思っていたのでしょうか」
これを設計した人は多分、そんなこと考えてもいなかったんだろうな。
矢代興業が何かやる時は予算度外視だ。
お金なんか証券市場や為替相場からいくらでも沸いてくるものだと思っている。
酷い話だ(笑)。
今にもゲーム機の撤去を指示しそうな比和さんを引っ張って次の区画に移る。
そこはうってかわって落ち着いた雰囲気の場所だった。
間接照明の下にしゃれたテーブルが並んでいる。
小型だけど立派なルーレット台があったりして。
あのテーブルはポーカーやバカラ用かな。
カジノかよ!
スロットマシンがないことが救いだ。
「これは」
比和さんも戸惑っていた。
これ、もう「娯楽室」じゃないよね。
「ディーラーさんとかいたりして」
「ないと思います。
設備だけ導入したのかと。
そういえば潰れたカジノの備品を引き取ったと報告にあったような」
そうなの。
でも僕、カジノとか行ったことないしね。
いや興味はあるよ?
ラスベガスとか一度は行ってみたいけど。
「比和さん、やる?」
「……ダイチ様のご命令なら」
つまりやりたくないってことだよね。
ポーカーテーブルとか格好いいからちょっとやってみたい気はするけど、やりたいとか言ったら大騒ぎになりそうだ。
「じゃあパスということで。」
「はい、ダイチ様」
僕たちはもう成人しているからギャンブルが出来ないわけじゃない。
でも僕も比和さんも客観的にみて大金持ちなんだよ。
漫画の「俺の空」ラスベガス編を自力で出来てしまうかもしれない。
僕の現金資産はそれほどでもないけどバックは矢代興業だ。
無尽蔵の資金があればどんな勝負にも絶対に勝てる。
毎回掛け金を倍にしていけばいい。
一回勝てば相手は破産だ。
そんな勝負、面白くも何ともないよね。
(考えてみたらその通りだ。
矢代大地、いつの間にかお前は恐ろしい存在になっていたんだな)
無聊椰東湖の怯えた声が聞こえた。
今更?
まあいいけど。
次の区画にはビリヤード台があった。
一周して戻って来たみたい。
何かほっとする(笑)。
「やはり、ここですね」
比和さんも溜息をついていた。
「一番落ち着きます」
「そうだね。
じゃあやっぱりビリヤードを」
言いかけて気がついた。
まだ何かある。
バーカウンターの隣の壁に円盤が並んでいた。
「ダーツゲームか。
こんなのもあったんだ」
設備と言っても壁にかかったダーツの的だけだ。
ちょっと離れた場所に線が引いてあってそこに立ってダーツを投げるみたい。
「投げ矢ですか。
初めて見ました」
「これ、ビリヤード場には大抵あるんだよね。
場所とらないし、ビリヤードの順番を待っている間に勝負出来るからだろうけど」
僕はカウンターの上に置いてあったダーツをいくつか取って線の上に立った。
的に向かって投げる。
当たらなかった(泣)。
「僕もやったことないけど。
でも簡単そうだからやってみる?」
「はい、ダイチ様」
比和さんは僕の隣に立ってダーツを無造作に投げた。
腕の振りが見えなかった。
ダン! と音がして的のど真ん中にダーツが突き立つ。
「あまり良い武器とは言えませんね。
私は弓の方が得意です」
にっこり笑う比和さん。
やっぱ戦士だった!(泣)




