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僕の世界は厨二病 ~厨二病でも真っ当な社会人として生きていきたい。が無理のようです~  作者: 笛伊豆


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88.モロハマりしてた!

 比和さんはメイド服のまま僕の対面席についてくれた。

「「いただきます」」

 揃ってしまった(笑)。

 ビーフシチューは美味しかったしサンドイッチはモロに僕の好みだ。

 露骨な贔屓?

「いかがですか?」

「美味しいよ。

 味付けが極端に僕向けみたいな気がするけど」

「そんなことはありません。

 皆様もこの味付けがお好きですよ」

 そうかなあ。

 むしろ強制的に慣らされた臭いな。

 だって比和さんが食事を作ると僕の嗜好オンリーになるから。

 みんなも好みと違うとか味付けがちょっととかはとても言えない雰囲気だし。

 それに不思議なんだけど嫌いだったり苦手な食材や味の食べ物を続けて食べていると慣れてくるんだよね。

 そのうちに好きになったりして。

 何か人間の生存本能に基づく適応という気がするんだけど。

 まあいいか。

 美味しかったのでシチューをお代わりしてしまった。

 サンドイッチは最初に出てきた量ですらとても食い切れそうにない。

 もちろん、みんなの分も入っているんだろうな。

「作りすぎてしまいました……」

 比和さんが紅くなった。

 何でも作っているうちに楽しくなって気がついたら山のような量のサンドイッチが出来上がっていたそうな。

 放置したら傷んでしまうので矢代邸(ここ)のメイドさんたちや護衛兵のみんなに配ったら泣いて喜ばれたらしい。

 それは最高のメイドさんが作った最高のサンドイッチだもんね。

「でも比和さんにしては珍しいね。

 作りすぎるとか」

「私も浮かれていたようです。

 メイドアニメが面白すぎて現実(リアル)を忘れてしまって」

 あれか。

 確かにアニメに出て来るメイドってちょっとどころじゃないくらい外れているからね。

 それに影響されたと。

「もちろん、あれが作り事であることは承知しております。

 ですが物語(ストーリー)は違っても共通して存在しているものがございます」

「そうなんだ」

 メイドが美人で巨乳な所とか。

 いやツルペタメイドもいないわけじゃないな。

 でもメイドアニメに共通するものねえ。

 大抵の場合はメイドの仕事より戦闘を優先しているとか?

「メイドの矜持でございます。

 ご主人様に対する絶対的な忠誠心とご奉仕の精神。

 そしてご主人様も信頼を持ってメイドの忠誠に応える。

 まさに理想の関係です」

 比和さんが言い切った。

 うん、まあアニメのメイドはそうかもしれないな。

 現実にはあんなメイドなんかいないと思うけどね。

 存在しないからこそ輝くわけで。

 そんなこと言い出したらメイドアニメに出て来るような旦那様もいないよ。

 大体、メイドって旦那様とじゃなくてその「家」と契約しているわけで、別に主従というわけではないと思う。

 会社の社長と社員みたいな関係だから個人への忠誠心とかはどうかなあ。

 逆にあったらヤバそう。

 僕の表情を見た比和さんが柔らかく微笑んだ。

 巨乳美人がメイド服で真っ正面からそれやると衝撃(インパクト)が凄いんですが。

 だって比和さんは国際モデル級の美女なんだよ。

 本当言えばその時点でメイドなんか有り得ない気がする。

 経営者としてもモデルとしても超一流な美女がメイドなんかやってたまるか。

 でもやってる人がいるんだよなあ。

 ここに。

「ダイチ様のおっしゃりたい事は判ります。

 そのような虚構を現実(リアル)に持ち込むのは確かに愚かな事でございます。

 ですが」

 凜とした(たたず)まいの美女は頭を下げた。

「私はそうありたい。

 少なくともそれに向かって努力したいと考えております」

 圧倒されてしまった。

 妖精(フェアリー)とかそういうんじゃなくて、これは比和さんの人間力と言うべきかな。

 比和さんが妖精(フェアリー)とかを抜きにしてもたくさんの人たちに崇拝されている理由がよく判る。

 カリスマって奴?

「うん、判った。

 比和さんはメイドなんだよね」

「心の奥底では。

 もっともそれ以前にダイチ様の(しもべ)でございます」

 そこんところがよく判らないんだけど(泣)。

 何で僕なんかに。

 まあ、それは置いといてこのまま話が進んだら拙い気がするから逸らせよう。

「ところで昨日は部屋に戻ってから大量のメイドアニメを観たって聞いてるよ。

 どうだった?

 いや気に入ったのは判ったけど」

 稚拙な罠だったけど比和さんは真っ直ぐに飛び込んでくれた。

「はい!

 あのような素晴らしい創造物(コンテンツ)を今まで知らなかったのは不覚でございました。

 アニメはダイチ様のご趣味ということもあって一応は嗜んだつもりだったのですが」

「うーん。

 まあ、メイドってアニメにおいてはメインテーマというわけじゃないからね。

 大抵は出て来るヒロインの一人がメイドだとか、大金持ちの屋敷に大勢のメイドが務めているとかだし。

 どっちかというとサブジャンルかな」

「そのようです。

 メイドが主人公(ヒロイン)の場合でも副業や趣味という設定が多いようでした。

 あるいは異色の脇役とか」

 さすが比和さん。

 一晩でアニメのメイド像を把握したらしい。

 メイドって萌えアニメの道具(ツール)みたいなものだからな。

 学園物だと文化祭の出し物としてクラスでメイド喫茶をやってヒロインがメイド服を着るとか、そういうのがむしろ主流だ。

 まあ、実際にはメイドが主人公の作品もあるんだけどね。

「そういえばちらっと聞いたけど英国ヴィクトリア朝時代のメイドが主人公(ヒロイン)のアニメは観なかったんだって?

 ていうか後回しにしたとか」

 比和さんは姿勢を正した。

 むしろ恭しい態度で顔を上げる。

 瞳がキラキラしていたりして。

「はい。

 『○マ』ですね。

 冒頭部分だけで判りました。

 あれこそが正統派メイド物語でございます」

 いや、それはそうなんだけど。

 でも正統派かなあ?

 基本的にはメイド萌え~だった気がする。

「気に入ったんだ」

「それはもう。

 むしろ私が観て良いものかどうか悩むくらいでした。

 なので、これはもっと心身共に落ち着いた時にじっくりと嗜もうと」

 モロハマりしてた!

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