72.そういうのを求めているわけじゃないから!
僕、映画に熱中していたはずなのに途中から脳内妄想に入れ込んだみたい。
アニメが妙に僕の今の状況にマッチしていたので。
(そういう話を選んだんだろうが)
それはそうなんだけどね。
でも僕、あんな主人公じゃないし。
スタイリッシュでイケメンで、何というか僕と正反対な性格だった。
無意識のうちに主人公を忌避していたのかも。
「ご免。
途中でドロップアウトしたみたい」
「何となく判りますぅ。
今のアニメは現実に近すぎましたぁ」
「本当に。
もっともダイチ様はあんな主人公の数十倍ステキですが」
「それもそうですがぁ。
矢代先輩と違ってぇあの主人公はぁ自分勝手過ぎますぅ。
特にぃ73分の所でぇリサを見捨てたのはぁ許せないですぅ」
「いえ。
それはともかく82分の時点で逆にタマキを切り捨てなかったのは甘いとしか言い様がありません。
タマキもタマキです。
ご主人様に殉じてこその隷ですのに」
二人はなぜか怒っていた。
ちなみにリサというのが天才美少女でタマキが主人公の会社の同僚の美女だ。
リサはともかくタマキは別に主人公の隷とかじゃないと思うけど(笑)。
「まあ、最後はリサの疑いが解けたんだし。
タマキも結果的にはあれで助かったんだから」
「それでもですぅ。
リサもリサですぅ。
なぜ自分から疑いを招くような行動をぉ」
「とにかくタマキは自分を恥じるべきです。
あれでは一人前のメイドとは言えないかと」
駄目だ。
二人とも一見冷静なんだけど暴走してしまっている。
作品の選択間違えたか(泣)。
しょうがない。
「ええと、今のはちょっとアレだったから。
もう一本観る?」
聞いたら二人とも渋った。
「出来たらぁヒロインが天才少女じゃないのがいいですぅ」
「メイドが出ないお話はちょっと」
さいですか。
ならこれか。
僕はいつの間にかそばにいたメイドさんからタブレットを受け取って検索した。
リストから題名を探す。
あった。
「じゃあこれ。
OVAだから1時間くらいで終わる」
「はいですぅ」
「ダイチ様のお望みのままに」
どっちかというと比和さんのお望みなんだけどね。
気が利くメイドさんが手配したらしくてお代わりのポップコーンとコークが届くと同時に上映が始まった。
たちまち画面に釘付けになる比和さん。
「……これは!」
「なるほどですぅ。
面白そうですぅ」
信楽さんは口元で笑いながら僕を見た。
そう、比和さんが大好物の作品なんだよ。
原作はやっぱりラノベで、実は別のシリーズのスピンオフだ。
本編で脇役として出たメイドさんが大人気で、そのメイドさんをヒロインとして新しいシリーズが立ち上がってしまったという。
本編より人気があったりして。
さすがにテレビアニメにはならなかったけどOVAが作られた。
設定は本編とちょっと違うけどキャラは同じ。
はっきりしたストーリーがあるわけじゃなくてエピソード集というか。
横目で比和さんを見たら身を乗り出すようにしてスクリーンに集中している。
画面では主人公? の高校生と彼に仕えるメイドさんのやり取りが続いていた。
このメイドさん、実はスーパーメイドで家政婦として優秀なのは当然として、メイド部隊を率いて縦横無尽の活躍をする武装メイドだ。
装甲車や戦車の操縦はもちろん戦闘機も飛ばせる。
狙撃や接近戦も得意。
戦闘部隊の指揮官としても最高峰。
しかもそれだけじゃなくて金融投資や会社の経営を行ってお屋敷の財政を支えるという化物だ。
物凄い美女である事は当然。
あれ?
何かどっかで聞いたことがあるような設定だったりして(笑)。
とにかくそのスーパーメイドさんがなぜか普通の高校生である主人公に惚れて忠誠を尽くすというのが物語の骨格だ。
コメディだけどね。
そんな人がいるわけないでしょう!
(あながちそうとも言えない気がするが)
いやいやいや!
さすがの比和さんでも戦車や戦闘機は操縦出来ないって。
(逆に言えばそれだけなんじゃないか?
まあ、確かに本物の戦闘部隊を指揮したり現代兵器を使いこなすのは難しいかもしれないが、前世では似たような事をやっていた可能性がある)
無聊椰東湖の指摘に唖然としてしまった。
確かに比和さんの前世って妖精を抜きにしても王宮メイド長だったから、家政婦どころの話じゃない。
王宮家政婦?
有事には王宮メイドを率いて王族を守ることになっていたと聞いている。
そして今は世界的な経営者。
ヤバい。
恐る恐る比和さんを観たら瞳をキラキラさせてアニメに見入っていた。
スーパーメイドの物語だからなあ。
でもコメディなんだよね。
優秀過ぎるメイドさんが主人公の前ではメロメロのドジメイドになって空回りしたりコケたりする。
主人公がいない所ではひたすら格好いい。
ちなみにこの物語、主人公の高校生は狂言回しというかギミックみたいなものだ。
自分の意志とかはあまりなくて状況に流されているだけというか。
(矢代大地そのものじゃないか)
失礼な!
僕はもう高校生じゃないしちゃんと仕事してるよ!
(お飾りのな)
無聊椰東湖の毒舌は無視することにする。
ポップコーンとコークを手にしたまま食べるのも忘れてアニメに夢中な比和さんは、結局終わるまでそのままだった。
エンドロールが流れると比和さんは手を合わせた。
「……素晴らしい作品です。
こんな芸術を今まで知らなかったなんて!」
気に入って貰えたようで良かった。
でもあんまり入れ込みすぎている気がしてびびっていると比和さんは突然僕の方を向いた。
「ダイチ様!」
「な、何?」
「ありがとうございました!
私の目指す方向が見えました!」
「そう。
それは良かったね」
引きながら言ったら比和さんは慄然たる表情になった。
「私が甘かったと言う事が身に染みました。
ご主人様に忠義を尽くす。
それは当然ですが、まだまだ力が足りません。
金融投資は未来人の方々にお任せすることにして、早速武装メイドの編成および戦闘訓練にかからねば!」
そういうのを求めているわけじゃないから!




