68.メイドさんに笑われるよ!
普段はスタイリッシュな比和さんの服や髪が乱れている所をみると、よほど急いで戻って来たみたい。
何をそんなに慌てているのか。
僕は逃げませんって(笑)。
(そりゃもちろん矢代大地とお嬢ちゃんが二人で遊び倒していたからだろう。
忘れてるみたいだがこの屋敷のメイドさんたちは彼女の直接の配下だぞ)
そうか。
もちろんメイドさんたちは何があったか比和さんに報告するよね。
あちゃー。
「比和さん、実は」
「判っております。
信楽殿の慰労のためにダイチ様がお心を砕かれていることは。
ですが」
「うん。
判った。
今度一緒にビリヤードしよう」
先手を打ってみる。
「……はい!
それからプールで」
「みんなで一緒に泳ぐですぅ。
24時間入れますぅ」
たたみかけるような信楽さんの攻撃!
僕は比和さんの手を取ってソファーに座らせてから言った。
「ちょうど良かった。
夕食の後、映画を観る予定なんだけど」
「ご一緒させて頂きます!」
満面の笑みを見せてくれる比和さん。
良かった。
暴走を阻止出来た。
いったん始まってしまったら宥めるのに何時間もかかったりするんだよ。
しかも僕にしか出来ない。
高巣さんすら手に負えなくて投げられてるもんなあ。
まあいいけど。
飲み物などを勧めて落ち着かせる。
「仕事は終わったの?」
聞いてみた。
「終わらせました。
残りは配下の者共に任せてきました」
さいですか。
大変だなあ配下の人たち。
「ちょっと無責任だったかもしれません」
「そんなことないって。
大体、比和さんも働き過ぎだよ。
信楽さんとも話してたんだけど、ここらで一発長期休暇、とまではいかなくてもある程度まとまって遊ばない?」
「私ぃも説得されたですぅ。
投げ出して逃げるんじゃなくてぇ、矢代邸に籠もるですぅ」
信楽さんも応援してくれた。
本人が言うんだから説得力あるよね。
信楽さんも比和さんに負けず劣らず仕事中毒だから。
「ですが」
「まあ、いきなりは無理だよね。
とりあえず今日はもう仕事はおしまいということで」
「……そうですね。
判りました。
ではご命令を」
あちゃー。
そう来ましたか。
しょうがない。
「判った比和さん。
では命令です。
休んで遊びましょう」
「はい!
ダイチ様」
何か全身で喜びを表す巨乳美女。
それほどのもんですかね。
比和さんはその後すぐに着替えてくると言って去った。
あっさりしてるね?
「矢代先輩のぉ成分を吸収したのでぇ当分は大丈夫ですぅ。
比和先輩はぁ燃費がいいですぅ」
「何それ。
僕の成分が燃料なの?」
「というよりはぁ潤滑油ですぅ。
私ぃも矢代先輩成分がないとぉ調子が悪くなりますぅ」
いつの間にか僕、何だかよく判らない物の供給源にされていたみたい。
相沢さんのエナジードレインみたいなものかも。
僕、どんどん減っていたりして。
(違うだろう。
矢代大地成分はむしろ精神的なものだ。
癒やしとも言う)
無聊椰東湖が意味不明な事を言ってくるけど無視でいいよね。
どっちにしても僕から何か吸収することで元気になるんならいくらでもどうぞ。
「それではぁ」
「食堂で」
僕と信楽さんもいったん解散。
ビリヤードやったりプールで泳いだりしたままだもんね。
着替えはしたけど汗臭い。
僕はともかく信楽さんは衣替えが必要だ。
碧さんの案内で自分の部屋に戻ってとりあえず下着まで全部着替える。
上から下まで新品の服がソファーの上に用意されているんだもんね。
やっぱ僕、貴族?
(いいじゃないか。
どっちにしても矢代大地はあるものを着るだけだろう)
それはそうだけど。
何気なく寝室を覗いてみたらまた内装が変わっていた。
ていうか追加?
何でぬいぐるみが壁一面に?
(矢代大地の趣味なんじゃないの?)
違うよ!
この大小様々なテディは全部プレゼントだ。
パーティの交換会でなぜか当たるんだよ。
完全に誤解なんだけどテディを集めるのが僕の趣味だと思われていてプレゼントとして出てくる。
不思議なんだけど必ず僕に当たる。
誰かが何かやっているのは確実だけど犯人は不明だ。
元はと言えばパティちゃんか誰かがプレゼントにでっかいテディを出して、それがたまたま僕に当たったんだよね。
それが固定記憶に書き込まれてしまったみたいで。
全然趣味じゃないんだけど、せっかく貰ったものなので捨てられないでいるうちに溜まってしまった。
矢代家の僕の部屋に並んでいたものを誰かが持ってきたらしい。
でも寝室に飾らなくても(泣)。
『おや?
ぬいぐるみというものは寝るときに使う物ではないのでしょうか。
抱いて眠るとか』
僕のスマホが言った。
サトリの碧さんか!
「それは女の子だよ!
成人した男がそれやったら気持ち悪いって」
『これは失礼しました。
ではこれらのぬいぐるみは処分しますか?』
「……いや。
プレゼントだからそれは拙いと思う。
どっか他の場所に移してくれない?」
『ご命令、承りました。
それでは仕事部屋に移すよう手配させて頂きます』
失敗った。
でも取り消せない。
これ、全部隣の仕事部屋に移るわけか。
ますます変な趣味だと思われそう。
(別にいいじゃないか。
人にみられるわけでもないし)
メイドさんに笑われるよ!




