60.それはちょっと嫌かも(泣)
信楽さんはすっかり元気を取り戻していた。
何でも本当に久しぶりに思い切り寝たそうだ。
戦略爆撃以外では起こすなと命令した所、自然に起きるまで誰にも邪魔されなかったらしい。
戦略爆撃って(笑)。
「良かったじゃない」
「はいですぅ。
黒岩先輩たちにぃ押しつけて避難してきて助かったですぅ」
やっぱり避難してきたのか。
「何て言ったの?」
「本土決戦のぉ準備をするのでぇ後はよろしくとぉ」
それは黒岩くんたちもビビるよね。
皇国の興廃この一戦にあり、と宣言されたようなもんだし。
矢代興業の経営上の問題くらいでは連絡出来まい。
「でもいいの?
信楽さんがいないと矢代興業が回らないのでは」
「そろそろ私ぃ抜きで何とかして貰いたいですぅ。
このままではぁ後進が育たないですぅ」
いや「後進」って(笑)。
信楽さんもまだ成人したばかりなのに。
「パティちゃんはどう?」
「多分出来ますぅ。
でも現時点ではぁ力不足ですぅ。
矢代興業にぃかかり切りになってぇ他の事が疎かになりますぅ」
出来るのかよ。
パティちゃん、まだ中学生なのに(泣)。
こうも人外過ぎる人材ばっかりだと他の人たちがついていけないぞ。
まあいいや。
ポップコーンがなくなったので信楽さんを誘って居間に移る。
すっと寄ってきたメイドさんが信楽さんに一言二言何か囁いて消えた。
うーん。
もう貴族どころか王家の専属メイドレベルだ。
ていうか比和さんたちは前世でホンマモンの王宮メイドだったんだよね。
もちろんここのメイドさんたちの中には前世持ちはいないと思うけど、訓練とか技能はそのレベルを目指しているんだろうな。
そして信楽さん付きに選ばれたということは、おそらく矢代興業でも最上級レベルの技能持ちのはず。
色々な意味でピーキーだったりして。
あれ?
でも僕のそばにはメイドさんが近寄って来ないんですが?
居間に落ち着いて飲み物を啜りながら何気なく聞いたら気まずそうな表情で言われた。
「ご免なさいですぅ。
実はぁメイドさんたちはぁ矢代先輩に近づかないようにお願いしてますぅ」
「何で?
僕が手を出す可能性なんかゼロなのに」
僕は純正のヘタレだ。
ハーレムアニメにも出てこないくらいの美女や美少女に囲まれながらずっと孤高を保ってきた実績がある。
今更ちょっと可愛い程度のメイドさんに手を出すとか有り得ないんですが?
「それは判ってますぅ。
ですがぁメイドさんの方から遠慮を申し出られてますぅ」
「僕、そんなに嫌われてるの?」
ショックだ。
人畜無害そのものなのにメイドさんに嫌われていたなんて。
そういえば僕、今までメイドさんたちとあまり話したこともないような?
お世話もして貰ってないし。
比和さんくらいか。
何がいけなかったんだろう。
世が低くて童顔で雑魚だから?
有り得る(泣)。
「違いますぅ」
信楽さんが慌てて言った。
「違うの?」
「はいですぅ。
全部比和先輩対策ですぅ」
え?
比和さんが妨害していたと?
でも女の子を僕に近づけたくないんだったら例えばこの信楽さんも癒やし系美少女なんだけど?
ていうか僕の周りって美女と美少女しかいないんですが。
「比和さんがそんなことをするとは思えないんだけど」
「それはもちろんですぅ。
ですがぁメイドさんたちから見たらぁ話が違いますぅ。
尊敬し敬愛するぅ比和先輩にぃ少しでも誤解されたくないと思うのはぁ当然ですぅ」
そういうことか。
比和さん自身というよりは配下の人たちから見てどうだということね。
何かの弾みで比和さんに反感を持たれたメイドは矢代興業内で即詰む恐れがある。
だから君子危うきに近寄らずということで。
「納得した。
そういうことなら」
話を終わらせようとしたら信楽さんが爆弾を投げ込んできた。
「ですからぁ、今後矢代先輩のお世話はぁ胡堂先輩にお任せしますぅ」
「胡堂くん?
だって彼は男で……え?
だから胡堂くん、女装してたの?」
驚愕の事実!
胡堂くんの女装って趣味とか自主的にとかじゃなかったのか(汗)。
なるほど。
胡堂くんは男だからいくら綺麗で可愛くても比和さんの嫉妬の対象にならない。
僕にBL属性も男の娘趣味もないことはよく知っているからね。
でも外見は際だった美少女だからメイドさんに混じっても違和感がない。
信楽さんのお世話も普通に出来るしスキャンダルにもならないわけだ。
胡堂くんの正体がバレたら別の意味でのスキャンダルになりそうだけど、それは多分大丈夫だろう。
そもそも胡堂くんはあまり人前に出ないもんね。
矢代邸の中でいくら女装しようがパパラッチには見つからないと。
「そんな理由があったんだ。
何で矢代邸に胡堂くんがいるのか不思議だったんだけど」
「胡堂先輩はぁ凄く使い勝手がいい人材ですぅ。
女の子に見えるだけじゃなくてぇ技能も凄いですぅ。
基本的にはぁ女性が出来ることならぁ何でも出来る上、並の男性より優秀ですぅ」
信楽さんの話では胡堂くんって凄腕の工作員なのだそうだ。
もちろん破壊工作とかじゃなくて、パーティの「花」やウェイトレス、接待役なんかの方面で。
何をやらせてもその役柄に相応しい態度と口調でこなすし、切り替えの速さも一流だとか。
そういえば胡堂くん、地と役柄とのギャップが凄いよね。
知らなかった。
超能力者ってさすが。
(あの男の娘が凄いのは認めるが別に超能力者だからというわけじゃないだろう)
無聊椰東湖が横やりを入れてきた。
判らないよ?
ひょっとしたらそういう超能力なのかもしれないし。
(それならそれで俺は別に構わんが。
だが矢代大地、気づいているか?)
何を?
(呑気な奴だな。
矢代大地はこれからずっとあの男の娘に世話されるんだぞ?)
それはちょっと嫌かも(泣)。




