57.いやむしろ美少女ゲーム?
身体が冷えてきたので名残惜しいけどマッサージチェアから起き上がる。
服を出して着てから洗面台で一応歯を磨いて、使い捨てらしい櫛で髪の毛をすいたら引っかかった。
もう乾いていたりして。
適当に揃えて風呂場を出て、さあどうしよう。
お風呂に入ると体力を消耗するみたいで既に疲れているような。
「碧さん」
『イエス、マイマスター』
だからファティマごっこは止めて(泣)。
「信楽さんはどうしてる?」
『まだお休みになっておられます』
ありゃ。
信楽さん、相当消耗していたのかも。
だったらこの際、好きなだけ休んで貰おうか。
「じゃあ僕は探検でもするかな。
案内お願い」
『御意』
碧さん、遊んでやがる。
ガイドシステムがそれっていいんだろうか。
『場を和ませるためのちょっとした冗談です。
怒ってます?』
「怒ってないけど止めて」
『お心のままに』
ホントにもう、このガイドシステムは!
内心で怒ると碧さんが改まった口調で話しかけてきた。
『どこに行きますか?』
僕の反応シミュレーションか。
つまり碧さんは何か言って僕が返答した内容とか口調からその後の展開をシミュレートするわけだね。
僕がマジで怒るとヤバいからギリギリで引っ込むと。
一流の精神科医とかセラピストになれそう。
でもそれ、僕の人格情報データベースがあってしかもそれを動かせるサーバ群がないと出来ない話だ。
ある意味贅沢な使い方をしている。
そんな無意味に高度な技術はいらん!
(矢代大地の周囲って常規を逸しているな。
コンピュータまで厨二病化してるんじゃないのか)
無聊椰東湖、それは厨二病とは違います(泣)。
むしろ中二病に近い気がする。
まあいいや。
僕は空中に向かって言った。
「とりあえずまだ見てない場所を見たい。
ヘリポートや屋内プールがあるって?」
『あります。
スマホを出して下さい』
それはそうか。
スマホをポケットから取り出すと画面に見取り図が表示された。
『現在位置と目的地です』
「じゃあヘリポートで」
『こちらです』
矢印が点滅するのでそっちに進む。
相変わらず周辺以外は影がかかっている。
「影の部分って僕にも秘密なの?」
『一度行った場所は表示されます』
何か大昔のダンジョンゲームのようだ(笑)。
こういうのって遊園地とかでやったら面白いかも。
(金がかかりすぎるし採算が取れるとも思えんが)
矢代グループならやるかもよ。
お金のことなんか気にしてないし。
(マジで恐ろしい企業だな。
ある意味羨ましいぜ)
無聊椰東湖はサラリーマンだったからそう思うんだろうね。
経費を気にせずに仕事出来たらサラリーマンって楽しいかも。
無聊椰東湖と脳内討論しながらしばらく歩くと非常口があった。
「ここ?」
『そうです。
ドアは内側からなら開きますので』
ハンドルがあったので回してから押すとスムーズに開いた。
ドアの向こうは空き地? だった。
いや舗装してあって地面に○の中に×がある図形が書かれている。
ここがヘリポートか!
『ヘリは格納庫にあります』
碧さんの声がスマホから聞こえてくる。
屋外だからね。
正面にでかい扉がある建物が格納庫らしい。
扉が閉じていて中は見えない。
それはそうか。
『ヘリを見ますか?』
「いやいいよ」
戻ろうとしたらドアが閉まっていた。
閉め出された?
『大丈夫です』
ハンドルを回して引くとあっさり開く。
「不用心じゃない?」
『もちろん生体認証されてます。
大地さんはオールフリーパスですよ』
さいですか。
何というか無骨に見えてデジタル的にはハイテク? みたい。
それから僕はスマホの案内で屋敷を見て回った。
屋内プールは屋外のよりチャチだった。
テレビに出てくるお金持ちのお屋敷にある奴と似たようなものだ。
碧さんによれば15メートルのコースが3つあるらしい。
温水プールだけど水は抜かれていた。
静姫様が寮に帰るわけだ。
「入りたい時はどうするの?」
『予約して下さい。
2時間で用意出来ます』
それはそうか。
温水だからほっとくと冷めてしまうし、誰も入らないのに用意する意味はない。
あれ?
「警備の人たちって入れないの?」
『許可制ですね。
さすがに赴任してすぐはきついかと』
なるほど。
お風呂は僕たちが入るし24時間営業らしいから使えるけどプールは違うんだろうな。
許可って誰が出すんだろう。
『もちろん大地さんです』
僕かよ!
まあいいや。
信楽さんに丸投げしよう。
多分、誰も申請しない気がするけど。
利用促進の指示でも出しておくか。
「他に何か面白い所ってない?」
聞いてみた。
『防衛司令室があります。
見ますか?』
見ないよ!
いや僕も男の子だからそういう施設にはそそられるものがあるのは認める。
だけど見てしまったらもう引き返せないような。
「他にはないの?」
『脱出用地下通路と装甲四輪駆動車が』
「そういうのはいいから!」
『四輪駆動車は先ほど納品されたばかりです。
特注ですよ?』
こいつ、また判ってて遊んでるな。
「そんなもんがある自宅には住みたくない」
『困りましたね。
矢代邸の売りなのですが』
戦闘用装備が充実している家に喜んで住むとでも?
まあ仕方がない。
信楽さんがこういう家を用意したってことは将来的に必要になりかねないと判断したわけだ。
僕の人生って前途多難?
(まあ、普通の人生は無理だろうな)
無聊椰東湖自体がその原因なんですが(怒)。
スマホが言った。
『信楽様がお目覚めになりました。
どうしますか?』
RPGかよ。
いやむしろ美少女ゲーム?




