55.その微笑み、インパクトが凄いんですけど(汗)
「お風呂に僕以外はいないんじゃないの?」
空中に向かって聞いてみたらすぐに返事があった。
『コードネームKは大地さんの近接護衛です。
同性であることはもちろんですが美観的な事も考慮して配備されました』
いや、だからと言って女装しなくても(汗)。
「言っとくが俺は別に女装なんかしてないぞ。
普通に風呂に入っているだけだ」
胡堂くんはそっけなく言うけど普通の男は風呂に入るのに髪をまとめてタオルで包んだりしないと思う。
でも相手が男だと判れば混浴(違)も平気だ。
僕はそろそろと露天風呂に入った。
思ったほど熱くなかった。
胡堂くんは物憂げな動作で手の平のお湯を掬って肩にかけるとこっちに向き直った。
うーん、凄い。
美少女にしか見えない(笑)。
姿形だけじゃなくて雰囲気や全体的な印象が露骨に美少女なんだよ。
何か色っぽいし。
「言いたいことは判るが黙ってろ」
言われてしまった。
それにしても胡堂くん、態度と口調が露骨に合ってないよ?
動作自体は物凄く女っぽいというか優雅なのに声は低いし口調は乱暴だ。
そういう女の人もいるかもしれないけど。
ギャップ萌え?
まあ、いいか。
僕は胡堂くんの反対側に移動して岩にもたれかかった。
なかなか居心地がいい。
「で?
何か言うことはないのか」
胡堂くんが単調な口調で聞いてきた。
「別にないけど」
「いや普通はあるだろ。
俺みたいなのが風呂に入ってたら」
「近接護衛だか警備だかなんでしょ。
だったら一緒にお風呂に入っていても不思議じゃないよね。
女の子だったらヤバいけどそうじゃないし」
胡堂くんは拍子が抜けたような表情になるとプイと横を向く。
「矢代ってやっぱ変な奴だな」
「胡堂くんほどじゃないと思う」
「俺はまともだぞ」
いや、どう見ても美少女な成人している男ってのはまともとは言えない気がする。
でもまあ、個人の趣味に文句を言うつもりはない。
ネットなら本当は醜男なのにコスプレで女装してお化粧した美少女とか普通にいるしね。
それにしても胡堂くんのこれって女装じゃないし、コスプレでもないんだよなあ。
お化粧もしてないのに露骨な美少女ってアニメじゃあるまいし、やっぱり珍しいかも。
「あ、そうか。
胡堂くんって超能力者なんだよね?」
思いついて言ったらギロッと見られた。
「何が言いたい?」
「いや、胡堂くんの超能力ってアレじゃないかと思って。
昔のSFで読んだ事がある。
容姿変貌能力者だったっけ」
すると胡堂くんは突然お湯を跳ね散らかして立ち上がった。
あ、本当に男の子だ(笑)。
でもそれ以外は美少女なんだよなあ。
細い腰とかすんなり伸びた太ももとか。
胸はないけど。
「俺はそんなんじゃない!
大体超能力って何だよ?
山城の奴が馬鹿な事をほざいているだけだ。
本気にするんじゃない!」
さいですか。
少年エスパー戦隊の一員からモロに超能力を否定されてしまった。
ていうか、そういえば超能力者の人たちって別に超能力が使えるわけじゃないんだったんだっけ。
リーダーの山城くんですら怪しげな奇術で僕たちを煙に巻いたんだよね。
でも信楽さんが身元を保証(笑)したために認められた。
そもそも僕が知っている超能力者の厨二病患者って山城くんとこの胡堂くん、そしてシャルさんの所で空中魔方陣描画装置なんかを開発していた人だけだ。
名前忘れた(泣)。
他にも結構いるみたいだけど誰も知らないんだよなあ。
謎だ。
「まあ座って。
湯冷めするよ」
「余計なお世話だ」
口では文句を言いながら素直に従う胡堂くん。
いや男の娘なのは判っているんだけど。
両性具有って胡堂くんみたいな人の事をいうのかもしれない。
「その目つきは止めろ!
何考えてるか大体判るが俺は正常だ!」
胡堂くんが激昂した。
沸点が低いなあ。
でも胡堂くんが怒鳴っても美少女が可愛く怒っているようにしか見えないんだよね。
こんな性格になったのも無理はないかも。
「ご免。
でも胡堂くんも変だよ。
宝神の懇親会で女装してウェイトレスやってたじゃない。
ずっと前のビジネスジェットではCAだったし。
あれも女装だよね?」
男だと主張するのならなんで女装するんだろう。
すると胡堂くんは忌々しそうにそっぽを向いた。
「しょうがないだろう。
普通に男の格好しても女に見られるんだ。
しかも男装の女だと思われて色々ちょっかいを出してくる奴がいる。
だったら最初から女装しといた方がマシだ。
忌々しいことにそっちの方が性的倒錯者だと思われずに済むからな」
何と。
そういうことか。
それはそうかもしれない。
まだ高校生だった頃に初めて胡堂くんに会ったんだけど、その時は普通の私服でも女の子に見えたもんね。
男っぽい服を着ろと山城くんに言われてガクランしか持ってないと胡堂くんが返したら山城くんは酷い事言ったような。
確か胡堂くんがガクラン着ると妖しい雰囲気になるから止めろ、だったっけ。
数奇な運命の下に生まれたんだね。
ここまで女装が似合ってしかも美少女な男って(泣)。
「その目つきは止めろと言っただろう!」
「ご免ご免。
別に変な事を考えていたわけじゃなくて」
「それは判っている。
矢代はまだマシな方だ。
大抵の奴はカミングアウトすると怯えるからな」
そこまで。
判らなくもないけど胡堂くんに失礼だよね。
すると胡堂くんはちょっと不思議そうに僕を見て言った。
「矢代は平気、というか変に思わないのか?
俺を見て」
「別に。
美形は見慣れてるし」
姿形なんか些細な事だ。
何せ僕の周りには妖精だとか依代だとかが普通にいるからね。
魔王や精神生命体もそうだし信楽さんに至っては精神的後期高齢者だ。
今更男の娘の一人や二人増えたくらいではどうということはない。
「それに胡堂くんは口調はともかく常識的だよね。
安心する」
「そうか。
俺も色々言われてきたけど安心すると言われたの初めてだ」
胡堂くんがデレた?
その微笑み、衝撃が凄いんですけど(汗)。




