49.碧さん、フォローが過剰過ぎない?
ファンタジーで童話的で優しい曲を懸命に歌う比和さんの姿は壮絶だった。
例えて言えば任侠映画の女親分が○イドルマスターの歌を歌っているような凄まじい場違い感がある。
悲壮というか何というか。
僕たちが物も言えずに見守る中、比和さんは最後まで歌いきった。
なぜか泣けてくる。
どうしてそこまでして。
曲が終わると同時に舞台に崩れ落ちた比和さんに思わず駆け寄ってしまった。
「比和さん大丈夫?
気をしっかり!」
「ダイチ様……。
妾は」
「喋らないで!」
「このまま運ぼう」
静村さん、いや静姫様が比和さんを軽々と抱き上げてソファーに運んでいった。
パワーあるなあ。
ソファーに寝かされた比和さんをみんなが介抱しているのを見ていると声がかかった。
「比和さんは大丈夫ですよ」
いつの間にか隣にいた炎さんがマイクを差し出した。
「一時的に力を使い果たしただけです。
少し休めば回復します」
「そうなの」
「というわけで、比和さんはみんなに任せてお願いします」
マイクを受け取る。
炎さんの番だったっけ。
よし。
「あまり難しい曲じゃなければいいんだけど」
「軽めにしておきました。
裏声じゃなくてもいいですから」
でもみんなには後で恨まれるかもなあ、と呟く炎さん。
何その言い方。
外見は中性的なイケメンだからびびってしまう。
いやちょっと待て。
裏声じゃなくていいってことは元のコードが高音って事?
液晶に出た曲名を見る。
イントロが始まった。
これかよ!
「「♪……○むらに名も知れず 咲いている○ならば……」」
いや歌えるけど(泣)。
何が悲しくて男装の女性軍人アニメの歌なんぞ歌わなければならないのか。
そうか男装の麗人か!
炎さん、ひょっとしてオス○ルに自分を投影している?
てことは僕がア○ドレ役?
パニックに陥りそうな心を静めて炎さんに合わせる。
炎さんはフランス革命時代の男装女性高位軍人になり切っていた。
「「♪……私は薔薇の○だめに生まれた ○やかに激しく生きろと生まれた……」」
アンタは薔薇じゃなくて妖怪なのでは、と思うけど封印。
今は何も考えずについていくだけだ。
でもこんなに共感出来ないデュエットは初めてかも。
だって主人公(○スカル)って僕と丸きり共通点がないんだよ。
僕、雑草の生まれだし。
あんなスーパーヒロインに雑魚の僕が感情移入出来るはずないでしょ!
○ンドレはもっと嫌だ。
そしてやっと歌が終わる。
最後のあれ、やるの?
「お願いします」
炎さんが囁いてくる。
もうヤケだ。
「「♪……ジュ○ーム、オスカ○!」」
終わった。
僕、燃え尽きた気分。
マイクを置いて舞台を降りようとしたら足がもつれた。
よろけた所を後ろから抱き留められる。
中性的なイケメンに助けられてしまった。
「大丈夫ですか?」
「うん。
ちょっと精神的なダメージが」
炎さんが肩を貸してくれたのでそのままみんなの所に行く。
比和さんが起き上がって迎えてくれた。
「ダイチ様」
「何でもないから。
比和さんこそ大丈夫?」
「はい。
ご心配掛けて申し訳ありませんでした」
お互いに笑い合う。
色々と厳しい試練だったもんね。
今回はみんな自分と合わない役を演じさせられたような。
「それではですぅ。
もう遅いのでぇカラオケはぁこの辺でぇ終わりにしますぅ」
信楽さんの声がかかった。
確かに。
正直言って僕、時間はともかくもう余力がない。
「そうだな。
今日はここまでとするか」
「ですね。
色々ありました」
静姫様と相沢さんが頷き合った。
依代たちがそうおっしゃっておられるのならもう決定だ。
何せ現実をねじ曲げるくらいやりそうだもんね。
「矢代先輩はぁどうしますかぁ?」
「僕ももう休むよ。
寝間着とか持ってきてないけど」
「一式用意してあるはずですぅ。
何かあったらぁ碧さんに言って欲しいですぅ」
なるほど。
「みんなはどうするの?」
気になって聞いてみた。
「お風呂の後、女子会ですぅ」
そう来ましたか。
確かに僕は混ざれないよね。
「そういうわけだ。
信楽殿、この屋敷には大浴場があると聞いたが」
「他にもぉ露天や檜風呂がありますぅ」
「それは楽しみです」
何か凄く引かれる台詞だったけど今日はいいや。
僕もお風呂には入りたいけど部屋にもあるし。
みんなでカラオケルームを出て娯楽室の前で別れる。
「それじゃあ僕はこれで」
「はいですぅ」
「ダイチ様。
お疲れ様でした」
「また明日」
「ゆっくりお休み下さい」
手を振りながら去って行く美女と美少女の集団。
僕、よくあんなのと同席できたな。
無敵じゃない?
まあいいや。
精神的にも肉体的にも限界が近いみたいで足元がふらつく。
僕はスマホを取りだして言った。
「碧さん、案内お願い」
「了解しました。
こっちです」
スマホの画面に見取り図が出て矢印が点滅する。
便利だなあ。
それにしてもここはどの辺なのか。
見取り図を拡大してみたら僕がいる辺りからちょっと離れた部分が影になっていた。
バグ?
「違います。
セキュリティ上の都合で不必要な情報は表示出来ないようになっています」
さいですか。
自分の家の内部構造を教えて貰えないとはこれ如何に。
まあいいけど。
誰もいない廊下をとぼとぼと歩いて部屋に帰還した僕は、それからさっとシャワーを浴びて寝室に行くのだった。
寝間着代わりのトレーナーに着替えてベッドにダイブする。
冷たいシーツが気持ちいいなあ。
「ではお休みなさい。
大地さん」
寝室に優しく囁く声。
碧さん、フォローが過剰過ぎない?




