46.この疲れた身体でアレに耐えろと?
炎さんが歌っている間に息を整える。
比和さんと信楽さんが心配そうに見守ってくれていた。
いや別に大丈夫だから。
決して二人の為に喉を潰したとかそういうんじゃないから。
それにさっきから静村さんが静かだ。
ニコニコしながらこっちを見ているけどあの雰囲気は静村さんだろう。
でもシームレスに入れ替わるからね。
多分、歌う時は静姫様になるに違いない。
そして静姫様は人間相手に遠慮なんかしないんだよ。
炎さんが歌い終わる前に静村さんが立ち上がった。
「大地殿」
「判ってます。
デュエットでしょ」
「なら良い」
やっぱり(泣)。
モロ静姫様。
「大丈夫ですか?」
比和さんが心配そうに言うけど何のこれしき。
今こそ散々みんなのカラオケに付き合ってきた耐久スキルを見せる時だ。
(それは聴く方という気がするが)
いいんだよ!
雑魚にも意地があるという証拠を見せてやる。
炎さんが歌い終わった。
みんなで拍手する。
この辺は矢代家だよね。
身内には暖かい。
その分厳しいけど(泣)。
「では」
「そうじゃな」
やっぱ静姫様だーっ!
二人で舞台に立つとすぐにイントロが始まった。
で、何を歌わされるのかな?
これは!
「大地殿に合わせようとするとこれになる」
静姫様がニヤッと笑った。
静村さんなら「ニコッ」なのに(泣)。
「それは嬉しいけど静姫様はいいの?
これ、男性歌手でしかもユニットだよ?」
「妾を何だと思っている。
依代に不可能はない」
さいですか。
ならいいけど。
イントロが終わると同時に叩きつけるようなサウンドが炸裂した。
静姫様、パネェ。
「「♪……Days confision ○ free come through ○ heart!」」
何とか合わせる。
静姫様、メチャクチャ上手い!
アニメのオープニングよりイメージぴったりじゃない?
僕、あんまりこういうロックというか意味不明な歌詞は好きじゃないんだけど。
それにこのアニメ、露骨にBL臭いというかその購買層狙いだったし。
でも一応アニソンヲタクとしてはカバー出来てしまうわけで。
歌いながら静姫様を横目で見たらノリノリだった。
水泳の歌だからね。
しかも自由形。
静村さんそのものという気がする。
もっともこのアニメの主人公は魚雷泳法とかやらなかったし世界選手権で優勝もしてないけど。
静姫様の方がアニメというかラノベの設定だよ!
僕は力を節約しつつ静姫様についていった。
ユニット曲なのに静姫様一人で全部カバーしちゃっている気がする。
そんなことが出来るもんだろうか。
いや、どっかで読んだけどレコードの針は一本なのにあれだけ複雑な音楽を再生出来るんだから人間の喉にも出来ないはずがないと。
(妄想は止めて集中しろ)
確かに。
デュエットしている最中に失礼だよね。
「「♪……on your mark ○戻り出来ない get set ○くgo!」」
何とか終わった。
肩で息をしていると静姫様が手を向けてきた。
「大地殿。
楽しかったぞ」
「僕も。
疲れたけど」
握手する。
何か違う気もするけど静姫様だからいいか。
静姫様が舞台を降りると入れ違いに次の人が現れた。
パティちゃんだ。
断れないよね(泣)。
「よろしくお願いします」
「こっちこそよろしく」
幸いかなり力を節約出来たからまだ余裕がある。
願わくば絶叫系じゃない歌だといいんだけど。
パティちゃんがニコッと笑った。
「大丈夫です。
バラードですから」
「そうなの?
アニソンじゃなくて?」
「アニソンです。
でもバラードで愛の歌です」
それは何、と聞きかけた途端に液晶画面に曲名が表示される。
イントロが始まった。
これか!
しかしパティちゃん、何というあざとい選曲を。
でもこれ、僕歌えるの?
露骨に女の子設定でしかも小学生じゃなかった?
劇場版では中学生くらいだったっけ。
つまりパティちゃんと同年代。
泣きそうだけどやるしかない。
僕は覚悟を決めて裏声をはり上げた。
「「♪○えない気持ちを抱いたまま この胸にあ○た満ちてくる……」」
まあ確かに愛の歌だけど何か不倫臭いんだよね。
純情なようでいて女を出しているというか。
いやアニメの設定なんだけど。
アニメだとこの歌を歌う女の子は脇役のはずなのにメインヒロインを喰ってしまったくらい人気が出て劇場版では主役だったっけ。
何かパティちゃんの色々な思惑が透けて見える気もするけど、ここはとりあえず無視だ。
この歌自体は嫌いじゃないしね。
でも自分が歌うことになるとは思わなかった(泣)。
「「♪……も○一度 もう一○ 生まれ変わって会○たなら 今度はあなたの 一番にな○たい」」
何この厨二病設定。
矢代グループだとこの歌詞、何か余計な意味を持ってくるぞ。
恐る恐る見てみたら信楽さんも比和さんも無表情だった。
かえって怖い。
炎さんは大っぴらに喜んでるし静村さんいや静姫様は皮肉げに笑っている。
相沢さんは……神気に満ちているように見えるけど忘れよう。
バラードらしく余韻を残して曲が終わるとパティちゃんが言った。
「デュエットして貰って嬉しいです」
「こっちこそ。
何か凄い感情入っていたような」
「思いを込めました」
さいですか。
深く聞かない方がいいような気がする。
疲れた。
舞台を降りると相沢さんが近寄って来た。
次の番か。
「お見事でした」
なぜかパティちゃんに話しかける相沢さん。
「ありがとうございます」
頭を下げるパティちゃん。
頷いた相沢さんは僕に向かって言った。
「大地さん。
実験の続きをします。
『本気』で歌いますから」
この疲れた身体でアレに耐えろと?




