27.やらないよそんなの!
道はセキュリティのせいか何度もカーブしていた。
戦国時代のお城は内部が入り組んでいて、城壁の内部の道も狭かったり曲がりくねっていたりしたらしいけどそれと同じか。
攻め込まれた時の防衛用なんだよね。
なんで僕、こんな戦闘用の要塞に住まなきゃならないんだろう。
(狙われているからだ)
さいですか(泣)。
僕、ただの雑魚なのに!
(判ってるだろう。
矢代大地自体は雑魚だが財産がハンパじゃなくなっている。
いいカモだ)
そうだよね。
でも僕、自分の財産と言われても実感ないからなあ。
まあそこら辺の20代の若者とは比べものにならないことは知っている。
でも実際の金額とか判らないもんね。
さらに言えば僕が自由に使えるというわけでもない。
僕の財産と言われているものってほとんどが矢代興業や子会社の株なんだよ。
いや現金も預金という形で結構あるらしいけど。
でも桁が有り過ぎてよく判らない。
少なくともATMで出せるような額ではないと思う。
クレジットカードも自分で使う機会はほとんどなくなったし、何か買ってもお金を使った感覚がない。
そんなの財産と言えるかどうか。
そもそも僕を誘拐したとしてそれからどうするんだ?
誰かと交渉するのか?
(無理だな。
というよりはまず矢代大地は誘拐されたりしないから安心しろ)
なぜ?
(この要塞を見れば判るだろう)
そういえば僕、自分の新居を訪ねるんだったっけ。
ちょうど車が角を曲がる所だった。
視界が開けた。
凄い。
大邸宅が建っていた。
「信楽さん。
これって」
「はいですぅ。
新しい矢代邸ですぅ」
いや、有り得ないでしょう!
堂々たる西洋建築、いやむしろお城?
お屋敷というよりはやっぱり要塞くさい。
階数はあまりないみたいだけどゴツいんだよ。
壁なんか露骨に石造りだ。
バズーカ砲とか撃ち込まれても耐えられそう。
これが僕の自宅なの?
「僕、ここに住むわけ?」
「はいですぅ。
もちろん私ぃも一緒ですぅ」
信楽さんがウキウキした口調で言った。
そうなの。
比和さんも一緒なんだろうな。
「でもこんな家だと通勤が大変じゃない?」
抵抗してみた。
「裏にぃヘリポートがありますぅ。
後ぅ、隠し通路がぁ」
駄目だ。
もう007か何かの世界になってしまっている。
「退屈しそうだよね」
「ホームシアターとぉ娯楽室を用意したですぅ。
後ぉ通信設備はぁ衛星回線経由でぇ」
もういいよ(泣)。
車がファサードを走って玄関? の前に停まった。
エントランスって言うべきだろうな。
ていうか建物の規模の割に狭い?
信楽さんについて入り口前の階段を昇る。
アニメに出てくるようなノッカー付きの大扉だったけど信楽さんが押すと軽く開いた。
玄関の中はホール……じゃなかった。
板張りの床が続いている。
温泉旅館の入り口みたい。
実際、でかい靴箱があってスリッパが並んでいた。
ここで履き替えるらしい。
革靴を脱いでスリッパを履く。
ますます旅館だね。
でもこの大きさは。
「てっきり螺旋階段とかあるものかと」
「意味無いですぅ」
確かに。
ああいうのは舞踏会とか開く場所や劇場みたいな所じゃないと無用の長物だよね。
信楽さんは内部を知っているようでずんずん歩いて行く。
「どこに向かってるの?」
「居住区というかぁ、部屋ですぅ」
「区」って何?
いやいいんだ。
考えるのはよそう。
長い廊下を進む。
やたらに広いみたい。
「そういえば誰もいないけど」
「警備がいるはずですぅ。
人目につかないだけですぅ」
「それはそうか」
「あとぉデジタル監視網は完璧ですぅ。
私ぃもよく知らないですがぁ」
まあ矢代ホームサービスだったか矢代警備だったかの変態的な警備体制が凄いのは知っている。
加原くん配下の精鋭がお金をかけまくって開発しているらしいからね。
多分、そういうのが惜しげもなく投入されているんだろうな。
「ここですぅ。
だと思いますぅ」
信楽さんも迷ったらしい。
長い廊下の途中で立ち止まってスマホで調べていた。
ウナギの寝床みたいな建物だな。
最初に思ったより奇天烈な邸宅らしい。
「やっぱりここですぅ」
「そうなの」
何の変哲もないドアだった。
高級そうではあるけど。
「鍵は?」
「開きますぅ」
変な言い方をするなあと思ってドアの前に立つとカチャッという音がした。
「何これ」
「個体認証ですぅ。
私ぃもよく知りませんがぁ」
僕の家って怖い(泣)。
「失礼します」
何となく声をかけてしまいながらドアを開けるとそこはリビングだった。
立派なソファーセットとテーブル、壁には絵とか掛かっていたりして。
やたらに広い。
三十畳くらいはありそう。
テレビに時々出てくる外国の貴族の屋敷だよね。
「ここがみんなの部屋?」
僕に続いて入って来た信楽さんに聞いたら否定された。
「違いますぅ。
矢代先輩のぉ個室ですぅ」
マンション形式ですぅ、と言いながらずんずん進む信楽さん。
入り口と反対側にドアが2つあった。
「こっちが寝室……のはずですぅ」
信楽さんが指さすのでドアを開けてみたらラノベの貴族の部屋だった。
広い。
天蓋付きベッドなんか久しぶりに見たよ!
いや高校卒業時に外国に行った時に使ったことはあるけど。
でもあれより高級そうだ。
ドアの反対側には床まであるカーテンがかかっていたので開けてみた。
そのまま庭に出られるみたい。
サンダルがあったので履いて出てみたら芝生だった。
何かそのまま続いているんですが?
「あっちの方にぃ進むとプールがありますぅ。
起き抜けにぃ全部脱いで飛び込む事も可能ですぅ」
やらないよそんなの!




