25.新婚かよ!
「これがワタシの秘密。
どう?」
どうと言われてもね。
シャルさんらしいというか。
ていうかそれって秘密だったの?
「秘密と言うほどのもんじゃないだろう」
晶さんが苦笑いしながら言った。
「それに言いたくはないが話がとんでもなくズレてるぞ。
ダイチ、何が聞きたかったんだ?」
そういえば何だっけ。
「ええと。
王国に混血の人がいるかどうかだった?」
自分でもよく判らなかったりして(笑)。
「ワタシがそうだった。
他にも何人かいたみたいだけど」
シャルさんの言葉を黒岩くんが継いだ。
「王国ではあまり問題にされませんでしたな。
というよりはそのことを言い立てるのはタブーに近かったと。
能力が重要でございました。
素性や家系などはあってないようなもので」
「考えてみろ。
種族ごと違うんだ。
人類だけだったら肌の色とかの些細な違いで差別になるが、そんなものとは桁が違う。
ネコと犬と猿がそれぞれ同等の知性を持って一緒に暮らしているようなものだ。
差別しようがない」
晶さんの言葉にみんなが頷いた。
そうか。
違いが大きすぎて差別どころじゃないんだろうね。
むしろ「区別」か。
それも極端過ぎるとかえって関係なくなるかも。
「なるほどね。
みんな平等だったと」
「そうだ。
身体能力や身体の大きさでの差はあったがな。
だが種類が多すぎていちいち差別したり敵視したりする意味がなかった」
「もちろん、美的感覚の違いや同族嫌悪的な好悪はございました。
エルフは比較的皆さんの好意を勝ち取りやすかったみたいで」
「王女殿下は高貴かつ優雅でございました故」
高巣さんの意見に黒岩くんが割って入った。
「まことに王国の姫として相応しかった由」
「晶も帝国ではなかなかだった」
突然八里くんが言った。
「よせよ」
「雄大で雄々しく頑強で」
「ディスってるのかよ!」
帝国将軍と副官がコント始めちゃったよ(泣)。
「あー。
何となく判ったからもういいよ。
誰も歌わないの?」
僕が言ったら議論になりかけていた私語が一斉に止んだ。
「そういえば曲が切れてるな」
「次はワタシでーす!
忘れてました」
立ち上がって駆け去るシャルさん。
「相変わらずダイチ殿のお話は面白いですね」
「まさしく。
思わぬ切り口で」
「つい王国を思い出してしまいました」
その他の人たちも三々五々離れてくれた。
ふう。
何とか収まってくれたみたい。
後の問題は。
「比和先輩ぃ。
そろそろですぅ」
「そうですね。
お名残惜しいですが」
比和さんがそう言って僕の背中から渋々離れてくれた。
肩と首筋と後頭部が重い……じゃなくて火照ってるなあ。
拷問だよねあれ。
「お疲れ様でしたぁ」
信楽さんがコップを勧めてくれた。
「ありがとう」
コーラだった。
喉渇いていたからちょうどいい。
「ダイチ様。
ポッキーをどうぞ」
「ポップコーンもありますぅ」
何か二人のスイッチがはいっちゃったみたい。
しょうがない。
僕は勧められるままにお菓子を食べるのだった。
その後割とすぐにカラオケ大会はお開きになった。
ペットボトルやお菓子の袋が散乱する会議室を出る。
後片付けは清掃部隊がやってくれるそうだ。
それを除けば丸きり貧乏学生のコンパだよね。
とても矢代興業幹部の懇親会とは思えない。
ここにいる人たちってほぼ全員が物凄い高給取りだったり財産家だったりするんだけど。
僕?
自分でもいくらあるか知らない(泣)。
給料の大部分は矢代興業の株をストックオプションで買ったり関連会社に投資して貰っている。
現金でも口座に振り込まれているらしいけどここ数年通帳も見たことないんだよ。
だって僕、ほぼ現金使わないから。
何か買うときはカードで払う。
クレジットカードもスマホ化した。
その買い物もめったに自分では払わないからなあ。
必要なものがあったら秘書さんに言えば遅くても翌日には届くし、その大部分は碧さんか誰かが矢代財団の必要経費で払ってしまうから。
お金なんかほとんど使ってないんじゃないかな。
去年だったかネットバンキングで僕の口座を覗いたら桁が多すぎて残高がよく判らなかった。
スマホの横幅が足らなくて。
株の時価は聞き間違いかもしれないけど「兆」とか言われた気がする。
それ以来、お金の話題は務めて避けているんだよね。
「それではダイチ様。
お名残惜しいですがここでいったん失礼させて頂きます」
カラオケ棟を出た所で比和さんが言った。
他のみんなは先に行ってしまったみたい。
残っているのは矢代家の3人だけだ。
その他に護衛が20人くらいいるけど(泣)。
「無理しないでね」
「ありがとうございます。
精進します」
綺麗に一礼して去る比和さん。
すぐに何人もの助手とかお付きの人とか部下らしい人たちが集まって来て比和さんの姿が見えなくなる。
その周りを囲む屈強な護衛兵たち。
相沢さんとまではいかないけど取り巻きが凄いな。
悪役令嬢くらいやれそう(笑)。
「矢代先輩ぃ」
信楽さんが僕の袖を引いた。
はいはい。
「ご免。
帰ろうか」
「はいですぅ。
でもぉその前にぃ」
信楽さんがちょっともじもじした。
「何?
行きたい所とかあるの?」
「実はですねぇ。
さっき用意が出来たとぉ連絡が入りましたぁ。
これから見に行きませんかぁ?」
「ええっと。
どこに?」
信楽さんがちょっと紅くなっている?
「新居ですぅ」
新婚かよ!




