24.シャルさんのコスプレ好きって母親譲りかよ!
満面に笑みをたたえたシャルさんが僕の後ろから覆い被さるように乗り出してきた。
背中に当たってるんですが。
シャルさんも結構あるよね。
じゃなくて。
「いや別にシャルさんの事を話していたわけでは」
「そうかな?
本当にそうなのかなあ?
カンナギ」
悪そうな表情で神薙さんを見るシャルさん。
何と神薙さんが目を逸らせた。
「……ダイチ。
その、珍しかった混血というのはこのシャーロットの事だ。
帝国でも有名だった」
誰も何も言わないせいか晶さんが気まずそうに言った。
「そうなの?
でもシャルさんって前世では貴族だったのでは」
「別におかしくはありませんでしょう。
わたくしは王族でエルフでしたし」
「俺なんざ竜人だからな。
むしろ人類の貴族ってあまり多くなかったと思うぞ。
少なくとも帝国には皆無だった」
晶さんと高巣さんに言われて気がついた。
そうだった。
ラノベと違って王国と帝国の前世では人類が主役じゃなかったんだっけ。
「人間」ではあるんだけど、それって知的生物という以上の意味がなかったりして。
「人類って下層身分だったとか」
「そんなことはございません。
王国には人類の貴族もおりました故。
ただ、やはり魔素の影響が少ない人類は相対的に力がなかったことは確かでしたな」
黒岩くんによれば王国の貴族って別に地球と違って血筋だけで代々続いていくものではなかったそうだ。
ていうか一応は爵位を世襲するんだけど能力がなかったり王国に貢献出来なければポシャることも多かったと。
「それ、本当に貴族?」
「地球の概念とは違うかも。
でも身分的にはまさに貴族としか言いようがない階層だったね」
シャルさんが僕の背中で言った。
いい加減に離れて欲しいんですが。
「比和。
ここは譲ってさしあげて下さい」
「御意」
高巣さんが優しく言って比和さんが応えた。
何その英国英語?
ていうか今のって王国王女から宮廷メイドへの命令?
比和さんは僕の隣の席からすっと立ち上がって移動した。
空いた椅子にシャルさんがストンと座る。
比和さんはそのまま僕の後ろに回って抱きついてきた。
あの。
凄い質量が後頭部と肩に(汗)。
「話を続けていい?」
それに構わず真面目な表情で話しかけてくるシャルさん。
周りのみんなは黙ったままだ。
これは駄目だ。
聞くしかない。
「どうぞ」
そしてシャルさんが話し始めた。
「父上の種族はRPG風に言うと大鬼だったのよ。
もちろん魔物とかじゃないけどね。
身長は2メートル半くらいあって髭もじゃの厳つい顔で。
でも身体はどっちかというと細身だった。
細マッチョという奴ね。
まあ身長に比べてだけど」
言葉を切って僕の顔を覗き込んでくる。
「そうなの」
「そうだったのよ。
で、その父上が人類の女性に恋をしてね。
それがワタシの母上」
さいですか。
乙女ゲームにしてはハード臭い設定だな。
「言っとくけど略奪婚とか生贄とかじゃないわよ。
母上も父上にメロメロだったから」
それは良かったですね。
すると宮砂さんが口を挟んだ。
「シャーロット様のご両親のラブロマンスは王国でも評判でした。
種族を越えた愛ということで」
「しかもだ。
驚いた事にその愛は実を結んでしまったときた。
具体的にはシャーロットが生まれたわけだが」
晶さんが呆れたように言う。
「大変、珍しい事でございました。
魔素があるとはいえ、種族が違えばまず子供は出来ません。
普通なら浮気を疑う所でしたが」
神薙さん、失礼過ぎるのでは。
「その疑いはあっさり晴れたでーす。
ワタシがその証拠でした!」
なぜかシャルさんが胸を張った。
なぜ?
あ、そうか。
「つまり前世のシャルさんは父上に似たと」
「まーそうね。
父上の種族は大鬼だったけど身長なんかを別にすれば人類の相似形だったから。
更に美形。
でも」
言葉を切って周りを挑戦的に見回すシャルさん。
僕以外の全員が目を逸らせた。
しょうがない。
「つまり前世のシャルさんも美形だけどむしろ男性的なイケメンだったと」
「……よく出来ました。
さすがはダイチ」
褒められても嬉しくない(泣)。
なるほど。
前に聞いたっけ。
前世のシャルさんは王国伯爵? 家の当主だったと。
美形ではあったけど単純にでかかったんだろうな。
普通の長剣が細剣に見えてしまうような偉丈夫でバトルアックスが似合うような肉体だったって。
「そういえばシャルさんって伯爵家の当主だったってことは」
「違うよ?
ワタシが成人したら父上が引退してしまってね。
母上と一緒に引きこもり生活を」
そうなの。
まあ良かった。
で?
「話がどこに行くのかよく判らないんだけど」
聞いてみた。
だって今のところ特に問題があるようには思えないじゃない。
強いて言えばシャルさんの前世の両親もヲタク臭かったというか引きこもり体質だったような。
「そうなんだけどね。
みんなは言いにくいだろうからここでダイチに告白しておこうと思って」
シャルさんが何か悪そうな表情になった。
相変わらず周りのみんなが目を逸らせている。
ヤバそう。
「いや言いにくいんなら僕は別に」
「実はワタシ、前世では母上に憧れていたというか熱烈な信奉者で」
始まってしまった。
こうなったらもうシャルさんは止まらない。
諦めて聞くしか(泣)。
「母上は人類だったけど人類の中でも小柄で細身で華奢でね。
本当におとぎ話に出てくるお姫様そのものだったのよ。
父上が過保護過ぎてなかなか外出も出来なかったくらいで」
「そうなの」
「でもそんな母上は外見に似合わず気が強くて勇敢で。
本当は騎士になりたかったってよく話してくれたの。
騎士に救われるお姫様より勇者と一緒に戦う騎士になりたかったって。
騎士装束をこっそり自作して着たりしていた。
それがまた似合っていて」
シャルさんが夢見る乙女の表情になった。
そんな過去が。
「姫騎士って母上の事だってずっと思っていた。
なのでワタシは」
なるほど。
だからシャルさんは可愛いものが好きだったり金髪美少女騎士のコスプレをしたと。
ていうか。
シャルさんのコスプレ好きって母親譲りかよ!




