23.え?
黒岩くんの長過ぎる歌唱がやっと終わった。
拍手と共に演台を降りてきた黒岩くんがなぜかこっちに来るんだけど。
「お疲れ様です」
比和さんが声をかけてくれた。
「お粗末でございました。
やはり浪曲は良いものでごさいますな。
日本人の心というか永遠な故」
黒岩くんは額の汗を拭きながら言った。
大満足ですね。
「黒岩くんってそういう趣味があったの?」
「最近気づいたのですが、どうも私は日本古来のしきたりや様式美が好みのようでございます。
何やら王国の古式礼法に通ずるものがごさいまして」
「そうなんだ」
そういえば黒岩くんたちは前世である異世界の王国出身(違)なんだよね。
今まで気にしてなかったけど王国って日本に似てるとか?
「王国とか帝国とか何となく西洋風な国だと思っていたけど」
僕の言葉に黒岩くんと比和さんは顔を見合わせて笑った。
「そうですね。
環境は中世欧州の国に近かったと思いますが」
「確かに風景や気候もヨーロッパ風でございました。
乾燥している為に建物なども石造りで。
ですが」
黒岩くんたちによれば前世の王国はどっちかというと古代中国的な国家だったそうだ。
王国だけじゃなくて帝国やその他の国も似たようなものだったとか。
「中国って意外」
「いや現代中国じゃない。
春秋時代というか戦国時代というか」
晶さんが割り込んできた。
「古代中国?
始皇帝以前の」
「そのようなものでしたな。
小さな国がたくさんございまして」
「帝国と王国はその中でも大国というか列強でな。
まあ、規模的には大したことはないんだが」
どうもゲームの異世界じゃなかったみたい。
いやむしろそのままかな。
昔のラノベにはそういう設定の異世界がたくさん出てきたもんね。
「国がまとまるとかなかったの?」
聞いてみた。
「それはアレだ。
種族数が多すぎてな」
「ゲームなどと違って人類が主要種族というわけでもございませんでした故。
人類の頭数は多かったと思いますがマイノリティ種族のひとつにしか過ぎませんでした」
「そうか。
考えてみたら高巣さんはエルフだったし晶さんは竜人だもんね」
「そういうことだ。
魔素のせいで本来なら野生動物だったような種族まで知的生物化していた。
今思うと混沌そのものだった気がする」
晶さんがしみじみと言った。
前世では何とも思ってなかったけど日本の教育を受けたら異常が見え見えだもんね。
あ、そういうことか
「つまり黒岩くんたちの前世の世界観ってヨーロッパ的というよりは日本的だったと」
「で、ございます。
八百万の神々やすべてのモノに命が宿るといった古代日本の考え方はまさに前世の世界観に通ずるものがございます故」
「俺たちが日本に転生したのもそのせいかもしれん。
正直、欧州の世界観は人間ありきだからな。
人類以外を無条件で異物とするような感覚には馴染めん」
「その点、日本はごく当たり前に異物を取り込みますから。
化け猫や九尾の狐が大名の奥方になったり」
いつの間にか宮砂さんが議論に参加していた。
ていうか存在感ないよね?
社長なのに(泣)。
「でもぉヨーロッパにもぉそういったお話はありますぅ」
信楽さんがぼそっと言った。
この中では僕と同じで前世が魔素がある異世界じゃないからなあ。
ちょっと反論してみたらしい。
「白鳥がぁ王子様に嫁入りしたりぃ。
黒鳥がぁ寝取ったりぃ」
待て待て!
凄く曲解しているよそれ!
「あの白鳥はもともと人間でございます」
「黒鳥は悪魔の妹とかじゃなかったか?」
「そもそも寝取ってません。
あの世界は18禁対象外です。
キスまでです」
訳が判らなくなってきた。
みんな楽しそうだから別にいいけど。
「動物と結婚する話はむしろギリシャやローマなのでは」
「あれは違うと思いますよ。
大抵はエロ親父じゃなくて神様に迫られて変身して逃げるのでは」
「そいで逃げ切れずに捕まって子供作るんだよな。
いい迷惑だ」
話の内容がさすがにヤバくなってきたので話を逸らせる。
「そういえばみんなの前世ってどうだったの?
混血とかいた?」
ハーフエルフくらいはいそうだけど。
「混血か。
いた気がするが。
八里、何か知ってるか」
晶さんがいつの間にか後ろにいた八里くんに振った。
「そうだな。
いないことはなかったが……極端に少なかったと思う。
帝国軍にはいなかったはずだ」
八里くんが淡々と応えた。
「王国はどうだ?」
「武官や文官には皆無でございましたね。
それ以外には若干名」
神薙さんが応えた。
何か奥歯に物が挟まったような口調だよね?
気がつくとなんかみんな集まってない?
カラオケの曲も止まっている。
「みんなどうしたの?」
「ダイチ殿が面白そうなお話を始められたので。
これを聞き逃すわけにはいきません」
高巣さんが優雅に言って僕の正面に腰を落とす。
晶さんがその隣に乱暴に腰掛けた。
「そういうわけだ。
ダイチについていかずに何とする、ということだな」
さいですか。
別にいいけど。
話を戻す。
「つまり混血は少なかったわけか」
「それはそうだ。
人間の混血とは訳が違う。
遺伝子構造が異なる種族同士では普通混血は無理だ」
ああ、そういうことね。
僕は混血を例えばアジア人とヨーロッパ人の子供的な感覚で捉えていたけど異世界では違うんだよ。
例えば竜人である晶さんとドワーフだかトロールだかだった黒岩くんとでは子供なんか出来るはずがない。
竜人同士の、例えばアジア的な竜種とヨーロッパ的な竜種の間の子供なら、それは混血とは言わないんだろう。
あれ?
「でもちょっとはいたんだよね?」
「そうだ。
魔素があるからな。
比和のような妖精すら存在するんだから魔素を仲立ちにして異なる種族同士の『混血』がいないわけはなかろう。
だが」
晶さんは声を落とした。
「何というか……そういう混血児はちょっとアレでな」
アレとは?
その途端割り込んでくる元気な声。
「何話してるー?
ひょっとしてワタシのことかな-?」
え?




