22.止めて(泣)。
僕たちの懇親会後のカラオケは定番になってしまっている。
矢代興業の取締役会後と同じで参加者は全員歌う。
この習慣? は既に定着していて、更に各人の持ち歌らしきものまでほぼ固定されていた。
カラオケって不思議な事に人ごとに歌う曲が決まっているんだよね。
それはもちろん趣味や好みで分野が違うからなんだけど、たまたま好きな曲が被ったりしている場合もある。
そういう時は譲り合いの精神というか、ある人が歌った曲は別の人は歌わないことになっている。
もうタブーだ。
理由はよく判らないんだけど。
僕の場合、幸いにして好きな分野が被っている人は多くない。
ていうか僕、割と何でも歌うし歌にコダワリがないから。
先に歌われたら違う曲にすればいいだけだ。
でも基本はアニソンだったりして(笑)。
矢代興業の人たちはなぜかアニソンを好きな人が多いので曲の比率から言えば多数派なんだけど、幸いにしてまだ僕の歌いたい歌を先に歌われてしまったことはない。
だから僕は誰にも邪魔されずに歌うことが出来た。
『♪たったひとつの星にすてられ 終わりない旅君とあゆむと……』
歌いながらみんなの反応を確かめる。
なぜかみんな、僕が歌うときは露骨に集中してくるんだよね。
私語が止んだりして。
特に比和さんは食い入る様に見つめてくるので照れくさい。
『♪……コスモス宇宙をかけぬけて いのりをいま君のもとへ』
余韻を残して終わる。
好きなんだよね、イ○オン。
ストーリー的には中途半端な話だったけど。
でもあれは過渡期というか実験作で、言うなれば「デビ○マン」の前に「魔王ダ○テ」があったように「○ンダム」の前に「イデオ○」があったようなものだと思うんだ。
○デオンってスーパーロボットというよりはモビルアーマー臭かったし。
「ステキです!
ダイチ様!」
「イデオ○ですか-!
ならワタシも負けてられないね!」
「なかなかの曲だな。
ダイチも一皮剥けたか」
拍手はいいけど好き勝手な批評が聞こえてるよ!
それにしてもシャルさん、ヲタクだけあって露骨に当ててきたか。
パティちゃんがいれば対抗出来るだろうけど今回はいない。
大人(違)のカラオケだから。
席に戻ると比和さんがキラキラした目を向けてきた。
「ダイチ様!
私もダイチ様と共に歩みとうございます!」
反対側から信楽さんも言ってくる。
「私ぃもついて行くですぅ。
矢代先輩を捨てるような星はぁこっちから願い下げですぅ」
いや星に捨てられたらヤバいのでは。
まあいいか。
その後、例によって比和さんが女好き酒浸りでバクチ狂いのどうしようもない男に一生尽くしますというような狂った歌詞の演歌を歌って信楽さんが昭和のアイドル歌謡を歌ったりした。
この辺りは定番で、二人とももうこれ以外を歌う事が許されなくなっている雰囲気がある。
比和さんは好きで歌っているからいいんだけど信楽さんは強制っぽいんだよなあ。
「いいの?」
「もう慣れたですぅ。
今更別の分野をぉ開拓するのも面倒ですぅ」
信楽さんは外見上まだ女子高生に見えるから昭和のアイドル歌謡でも浮いてないけど、さすがに二十歳越えたらヤバくならない?
「そうなったらぁ昭和のトレンディドラマ主題歌で行くですぅ」
いや無理しなくても(汗)。
黒岩くんも演歌だけど最近はむしろ浪曲に傾いているみたい。
「始まったですぅ」
信楽さんが諦めきった表情で呟くと同時にステージ(笑)に上がった黒岩くんが大きな身振りとともに歌い出した。
よく知らないけど長編歌謡浪曲という分野の曲らしくて、曲の途中にナレーションが流れたり会話が入ったりしてストーリーがあるんだよね。
「何て曲だっけ」
「俵星玄蕃ですぅ。
正確にはぁ『元禄名槍譜 俵星玄蕃』という曲ですぅ」
あいかわらずよく知ってるね信楽さん。
聞いてると何となくストーリーが見えてくるんだけど、どうも赤穂浪士の吉良家討ち入り時に加勢しようとする俵星玄蕃という浪人だか槍使いだか何だかの人の話だと思う。
メチャクチャに長くて全部歌うのに十分くらいかかるんだよ。
そんなのが通信とはいえカラオケに入っているって凄い。
黒岩くんはノリノリで歌っているけど、案の定みんなは飽きてきたらしくて飲み食いしたり話したりしていた。
隣で熱心に聴いている比和さんに聞いてみる。
「ああいうの好き?」
「特に好きというわけでは。
ただ演歌に通ずるものがありますので共感は出来ます。
俵星玄蕃という人は何の関係もないのに義によって赤穂浪士に加勢しようとするんです。
日本人の理想のひとつですね」
「でもぉ俵星玄蕃は架空の人物ですぅ。
月光仮面みたいなものですぅ」
信楽さんが参戦した。
見かけによらず、こういう話が好きなんだよね。
それにしても月光仮面って(笑)。
いつの時代だよ。
「月光仮面は違います。
俵星玄蕃は別に正義を執行しようとしているわけではなく」
「だったら怪傑ハリマオですぅ。
名前も何となく似てるですぅ」
信楽さんが完全に遊んでいて比和さんが真面目に対応しているのがちょっとアレだ(泣)。
それにしても信楽さん、怪傑ハリマオとか知ってるのか。
黄金バットとかも判りそう。
「面白そうな話してるな。
俺も混ぜろ」
晶さんが割り込んできた。
「俵星玄蕃が何なのかぁという話ですぅ」
「私はむしろ赤城忠治に近いのではないかと」
比和さんが暴走した。
いや確かに赤城忠治はヤクザというか博徒というか侠客だから比和さんの守備範囲だけど。
ていうか最近は赤城忠治とは言わないんじゃ。
国定忠治だよね?
「『赤城の山も今宵限りか』という奴だな。
だがアレは浪人じゃないぞ確か。
豪農の出で親分だったはずだ」
「義によって立つ所などが同じです」
「でもぉアレも後世の創作だという説がぁ有力ですぅ。
講談の主人公なだけですぅ」
「そんなことを言い出したら俵星玄蕃だってそうだろう。
演歌や浪曲はみんなそうだ」
「それは確かに。
ですが、そういった物語群の中にこそ日本人の精神性が表れるのであって」
議論が白熱してるなあ。
でも比和さん、本性は妖精かと思っていたけど日本人だったみたい。
まあ演歌好きな時点で判っていたけど。
言動も時々戦国時代になるからね。
「ですから!
妾はダイチ様の為ならどんな悪にでも手を染める覚悟で!」
止めて(泣)。




