19.暴走は止めて(泣)。
「ところでまだ僕の質問に応えて貰ってないんだけど」
話を戻したら八里くんがそっけなく言った。
「何となく輪郭が掴めてきた所です。
まだ報告には早いですが」
「私ぃもそれに賛成ですぅ。
矢代先輩にはぁ先入観を持って欲しくないですぅ」
信楽さんがそう言うのなら別にいいけど。
ていうかそれほど知りたいかと聞かれたらそうでもない。
どっちかというと関わり合いになりたくない(泣)。
「ダイチは逃げたそうだが無理だぞ」
晶さんが脅すように言った。
「どうしてさ」
「先方がダイチに執着しているからだ。
俺が聞いたところでは、相手がアプローチしようとしている対象はダイチだけだ。
おかしいだろう?
矢代興業の代表は対外的には既にダイチではなくなっているのに」
「そういえばそうですね」
高巣さんが心配そうに言った。
「今のダイチ殿の役職はどうでしたでしょうか」
「宝神総合大学理事長でぇ特任教授ですぅ。
矢代興業のぉ非常勤役員でもありますがぁ。
後はぁ矢代財団の理事長ですがぁ、そもそも財団は表に出ていないのでぇ」
「ですね。
矢代財団の人事情報などは一般公開されておりませんし」
神薙さんが頬に手を当てた。
「対外的というか世間では矢代興業の顔と言えばシャーロット様です。
後は比和でしょうか」
「確かに。
数年前まではダイチ殿の名が先行しておりましたが、ここ数年で隠蔽の効果が出ております故」
やっぱ隠蔽してくれていたのか。
僕、如月高校の頃は矢代興業社長だったから一時期やたらに名前が売れたんだよね。
高校生社長とか言われて。
特に矢代興業が株式上場して資産がどうのこうのと言われた頃は凄かった。
でもインタビューとかに出来るだけ応じないで逃げているうちにマスコミの興味が逸れてくれたんだよ。
矢代興業の社長を辞めてからはほとんどそういう話も来なくなったし。
上手くフェードアウト出来たと思っていたんだけどなあ。
僕がぼやっとしている間にも議論は続いていた。
「先方が矢代興業とコンタクトを取りたいのならシャーロット様にアプローチするのが一番です」
「そうだな。
そもそもシャーロットはそういうインタビューや会談に積極的に応じている。
搦め手で接触する必要はない」
「王女殿下や将軍閣下には接触はございませんか?」
「ないな」
「わたくしもございません。
何かありましたら近衛が報告してくれるはずです」
やっぱ近衛っていたんだ(笑)。
あの口ぶりだと単なる護衛兵じゃなくて諜報機関とかそういうレベルに思えるけど。
「我々にもございません」
「確かに。
経済誌のインタビューなどは除いてでございますが」
「秘書課にも手配しましょう」
黒岩くんたちにもアクセスはないらしい。
矢代興業の経営陣を無視するとなると。
(やはり目標はお前のようだな。
矢代大地)
みたいだね(泣)。
「ええと、ちょっと整理していい?」
「お願い致します」
神薙さんの許可を得て話す。
「逆から考えて、今までみんなにはこういった形の接触はなかったんだよね?」
「だねー!
ダイチだけでーす」
シャルさんその言い方馬鹿っぽいから止めて(怒)。
「てことは少なくとも矢代興業が狙いじゃない。
だったら宝神ということは?」
信楽さんが応えてくれた。
「ないですぅ。
実はぁ宝神の秘匿レベルはぁ矢代興業より上ですぅ。
機密情報満載なのでぇ」
「機密って技術的に?」
「だけじゃないですぅ。
宝神はぁ厨二病患者(前世持ち)のぉ聖地ですぅ」
ああ、そういうことか。
矢代興業って確かに僕たちの会社なんだけど、今や厨二病じゃない人の方が圧倒的に多いからね。
幹部社員や経営陣ですらそうなんだよ。
事業の種類や規模からして厨二病患者が少なすぎる。
よって秘匿情報は限られる。
本当に重要な事は宝神が囲っているんだよね。
「宝神の情報が狙いならダイチに接触はしないだろう」
晶さんが断定した。
「ダイチは確かに我々の要だが秘匿情報とは無縁だからな。
理事長ではあるが」
(つまり案山子だ)
五月蠅いよ無聊椰東湖!
「そうですね。
宝神が狙いでしたら加原やシャーロット様などにアクセスした方が」
「比和は?」
「ないな。
指揮官であり支柱のひとつではあるが比和一人でどうなるものでもない」
比和さんは黙っていた。
ていうか上の空?
僕はみんなが静まるのを待って言った。
「矢代財団でもないよね。
そもそも財団のことって誰も知らないだろうし」
「誰もというわけではないでしょう。
だが一般社会とは無縁ですからね。
まあ、矢代興業の線を辿っていけばいつかはぶつかるかもしれませんが。
ですが、矢代財団自体も現時点では大した秘匿情報はありませんよ。
ただ司令塔というだけで」
八里くんがそう言うのならそうなんだろうな。
どうも八里くん、矢代興業の情報局長官的な立場みたいだし。
前世で帝国軍参謀だった経歴? は伊達じゃなさそう。
「ということは」
「そうだダイチ。
目標はお前自身だ」
晶さん。
そんなに面白そうに言い切らなくても。
「先方の目的は何なのでしょうか」
比和さんが押し殺したような口調で言った。
「ダイチ様とお見合い、いえそうじゃないかもしれませんが何かをするために接触を図ろうなどと。
ひょっとしたら危害を加えるつもりなのかもしれません。
ここは矢代興業の全戦力を持って迎撃する必要が」
暴走は止めて(泣)。




