11.何の話なんでしょうか?
そんなわけでなし崩し的に懇親会が始まったけど最初は微妙な雰囲気だった。
そもそもこの懇親会の意味がよく判らない。
参加しているのは今回宝神を卒業した学生だけだ。
元々人数が少ない上に単位を落として落第した人は来てない。
みんな顔見知りだしね。
それでも無礼講というのでしばらくたつと賑やかになってきた。
部屋の一角を占領して騒いでいるのは主に前世が王国や帝国の護衛兵だった人たちで露骨に脳筋系だ。
にも関わらず4年で修了出来た逸材らしい。
大学を4年で卒業出来るのが逸材ってどうよ(笑)。
「でもあの人たち、専門単位はともかく一般教養単位をよく取得出来たね。
あれって僕みたいなインドア派でも苦行なのに」
不思議に思って聞いてみたら信楽さんが教えてくれた。
「グループを作ってぇ数人で一緒にオンライン講義を受けたみたいですぅ」
「あれ?
でも一人一人講義が違うんでしょ?」
通信大学の講義はエグくて同じビデオ講義を受けていても質問が来るタイミングが違ったりする。
誰か一人が複数の講義を同時に受けるなどのズル防止対策だということだけど。
「オンライン講義を受けているとぉ眠くなるそうですぅ。
だからぁお互いに『寝るな!』と励まし合うということでぇ」
雪山の遭難現場かよ!
まあ、それくらいの緊張感がないと単位が取れなかったんだろうな。
「よく時間があったね」
「4年生になってからぁみんなで一緒に長期休暇を取ったらしいですぅ。
短期集中講座ですぅ」
さいですか。
大学の講義を受けるのに会社の有給とらないといけないなんて(泣)。
大変だなあ。
「それでみんなあんなに喜んでるんだ」
「はいですぅ。
これからはぁ趣味にぃ時間を費やせるとぉ」
見ると騒いでいる人たちは表情が輝いていた。
既に酔っ払っている人が大半だ。
いいのかなあ。
この会場には上司どころか社長やCEOまでいるのに。
その社長や最高経営責任者は僕の近くでのたっていた。
二人ともだらけているというか弛緩している。
「いいの?
あれ」
聞いてみたら手を振られた。
「プライベートですので。
会社は社員の私生活には干渉出来ません」
「それにアレらはワタシの配下じゃないしね。
好きにやってちょうだい」
この主従、だんだん似てきた気がする。
前世からの因縁で宮砂さんはシャルさんの下僕というか使い走り的な雰囲気だったんだけど、さすがに3年近く大企業の社長やってると貫禄がついてきたみたい。
一方シャルさんの方は相変わらずだった。
最高経営責任者と言ってもその立場での実務は担当してないからね。
ていうか僕が社長でCEOをやれていたくらいで現場には出ないから。
矢代興業の代表取締役は宮砂さんで、政治的な仕事なんかも引き受けているそうだ。
シャルさんは自分の趣味? であるヲタク事業というかエンタテイメント関係を仕切っている。
そっちでは社長らしい。
矢代興業ってもう持株会社だから、そこの最高経営責任者をやりつつ配下企業である矢代芸能とかそういう事業を経営出来ているそうで。
「もちろん!
すべてをワタシが支配する!」
「実際に動かしているのは私ですが」
偉そうにそっくり返るシャルさんと疲れた微笑みを浮かべる宮砂さん。
うん、いいコンビなんじゃないかな。
「心配ですぅ。
あれではぁ宮砂先輩がぁいつか潰れますぅ」
信楽さんが聞こえないように言った。
心配している風を装っているけどカカワリアイになりたくなさそうなのが見え見えだ。
「まあ宮砂さんはそういう運命、いや宿命だから」
「ならしょうがないですぅ」
簡単に慈悲の志を捨てる信楽さん。
みんな自分が可愛いのは同じか。
「宮砂は立派です。
私は絶対ああいう立場にはなりたくありませんが」
僕の側にいる比和さんも切って捨てた。
殺伐とした雰囲気になりかけたので僕は慌ててシャルさんたちに言った。
「そういえば二人には浮いた話とかないの?」
普通だったら男が女性に言う台詞じゃないけどいいのだ。
この二人は鋼鉄の神経を持っているから。
「ないねぇ。
あっても拒否するけど」
シャルさんが簡単に言う。
「マナク家とかから何か言って来ない?」
シャルさんの実家は英国貴族だったはずだ。
伯爵というからには領地持ちの由緒ある家系だろう。
しかもシャルさんのお父上が当主。
その娘なら政略結婚しない方がおかしい。
シャルさんは笑い飛ばした。
「ワタシが矢代興業のCEOやってる限りは何も言えないよ。
マナク家とはもう事業規模の桁が違う。
グダグダ言うんだったら家ごと買収してやってもいい」
うわあ。
マナク伯爵や経営幹部の人たちって頭を抱えているんじゃないかな。
娘を修行のつもりで日本に行かせたら数十倍の規模の事業体のトップに就任してしまって。
逆らったら経済的に潰されかねない。
「宮砂さんは?」
話を変えるために聞いてみる。
宮砂さんが疲れた顔を向けてきた。
「あ、いいや。
ご免」
虚無を見てしまった。
「どうしたダイチ。
こんな所に引っ込んで」
「お気持ちは判るような気はしますが」
救い主が来てくれた。
晶さんと高巣さんがそれぞれ飲み物を手に僕たちの近くに座る。
「いやちょっとね」
「まあ、そうだろうな。
いきなり見合いとか言われて騒ぐ気にはなれんよな」
「別に見合いと決まったわけでは」
晶さんはからかっているだけだろうけど。
高巣さんは比和さんに話しかけていた。
「で、比和はどうなのです」
「どうとおっしゃられても」
「難しいのは判ります。
ですがダイチ殿は貴方の主ではありましょう。
主がどのような決断をし、どのように動こうともついていくのが隷ではありませんか」
比和さんは高巣さんをしっかり見て頷いた。
「……申し訳ありません。
立場を失念しておりました」
「ならば行う事は判っているはずです。
そうですね?」
高巣さんの言葉に深く頷く比和さん。
「はい。
妾はどこまでもダイチ様に従ってまいります!」
あの。
何の話なんでしょうか?




