102.いきなりそっちに行かないで(泣)。
偉い人だった!
肩書きはよく判らなかったけどね。
でも少なくとも英国政府の役人いや官僚であることは間違いない。
それも大臣補佐官クラス?
そんな人が侵入者を名乗るとは。
もう地球、征服されてない?
ジョンさんは僕が唖然としている間にお仲間を紹介してくれた。
侵入者の人たちは国籍民族はもちろんネイティブ言語も違うらしくて紹介されても大半が頷いたり頭を下げたりするだけだったけど。
でも偉い人が多かった。
コンゴの観光資源局局長代理だとかスリランカの宣伝省の人とか。
南米やアジアの人たちも政府や大企業のトップに近い人たちばっかりだったりして。
あれ?
「ひょっとして先日締結された協定の関係者の方々ですか?」
聞いてみた。
「はい。
ミスタ矢代と接触が取れたために来日する必要が生じまして。
なので停滞していた協定を急遽まとめて日本で調印する手筈を整えました」
何てこった。
あの東京大警戒って僕のせいかよ!
それにしても侵入者さんたちは凄い。
自分たちが来日するために国際間協定をでっち上げてしまうとは。
「侵入者の皆さんって偉い人が多いんですか?」
聞いてみたら苦笑された。
「とんでもありません。
大抵の者は庶民です。
私たちはたまたま要職についていたり出世しただけで」
「本日、矢代邸に来られる立場の者は限られますからね」
「私は日本人の女子高生です」
後ろの方にいた女の子が立ち上がって言った。
「ジョンさんから連絡が来て、いい機会だから一緒にと誘われたので甘えてしまいました」
うん、美少女だね。
若者風の服が似合っている。
アイドル程度には可愛かったりして。
でも侵入者だ(泣)。
「失礼ですが」
「あ、ご免なさい。
東尾朋香っていいます。
静岡在住で今度高校3年です。
今は春休みなので東京に遊びに来たという設定で」
「設定」かよ。
でも日本の女子高生なら話が通じやすいかも。
そもそも日本語がネイティヴだし(笑)。
僕はジョンさんに頼んで発言者を交代して貰った。
だってジョンさんっていかにも外国の政府高官という雰囲気なんだよ。
ちょっと取っつきにくい。
ジョンさんも判ったらしくて苦笑して譲ってくれた。
僕の左右のみんなは静観の構えだった。
はいはい、新しい厨二病患者担当は僕ですよ(泣)。
「ええと、東尾さんでいい?」
「あ、はい。
矢代……様?」
「いや様なんかつけなくていいから。
矢代さんとかで」
「はい……。
でも矢代……さんって立志伝中の人物ですよね?
畏れ多くて」
急に縮こまってしまった。
「立志伝なんてもんじゃないけど」
「でも今の私と同じ頃にはもう全国的に有名でしたよね?
高校時代に会社を起こしてあっという間に大きくして、更に大学まで作って自分が教授をやって、教え子の人たちが世界的に活躍して。
尊敬、いえ憧れます」
ありゃ。
外から見たらそうなるのか。
いや間違ってないけど侵入者の女の子にそんなこと言われるとは思わなかった。
「色々成り行きでね。
僕の事はいいからちょっと教えてくれるかな」
「何でも聞いて下さい!」
勢いこんで言う東尾さん。
この辺りの反応は普通の女子高生臭い。
でもそれだけじゃない部分も感じられるんだよ。
見かけや表面的な反応から見えるより頭が切れると見た。
そんなの女子高生には珍しくないけど。
「えーと、東尾さんが侵入者だと気がついたのはいつ頃?」
「6年前です。
5月の連休後だったと思います。
ある日起きたら侵入者の記憶があって」
やっばりか。
その日、僕の中にも無聊椰東湖が押し入ってきたんだよなあ。
(押し入ってなどいない。
俺も気がついたら矢代大地の中にいた)
はいはい。
「それでどうしたの?」
「特に何も。
その頃私、まだ中学生になったばかりですよ?
正直言うとあまり気にも留めませんでした。
何かのゲームの夢でも見たんだろうと」
それはそうか。
ただでさえ新しい学校に進学して大変な時だもんね。
侵入者の意味もよく判らなかっただろうし、そもそも興味もなかったかも。
「そのままずっと?」
「はい。
もっとも中学時代はちょっと怯えてはいましたけれど。
これが有名な中二病なのかって」
「ああ、中二病だと思ったんだ」
「それはそうですよ。
侵入者なんて荒唐無稽過ぎて信じられるはずないじゃありませんか。
そもそも私はヲタクでも何でもなかったですし」
東尾さんは苦々しげな表情になった。
「中二の頃にクラスにヲタク的な男子がいたのでちょっと相談してみたんです。
頭の中によその星の生物の記憶があるとしたらどうするって」
何と大胆な!
それって下手すると学校生活では致命傷になりかねないよ?
「もちろん冗談交じりだったんですけれど異様に食い付かれまして。
そいつ、本物のヲタクだったみたいなんですよ。
一時期は仲間だと思われて大変でした」
信楽さんとパティちゃんの口がちょっと動いた?
比和さんは青ざめているけど。
静村さんは……寝てるか。
「それでどうしたの?」
「ギャルに走って逃げました。
何とか噂は消せましたけど、それからは侵入者の事は心の奥底に仕舞って」
精神的外傷になったな。
女子中学生にはきつい体験だっただろうなあ。
「でも今は自覚してるんだよね」
「はい。
高校に入ってギャルを卒業した頃、ネットで合図を見つけました。
何と言えばいいのか、仲間は連絡してくれ、みたいな」
すると東尾さんの隣に座っているOL風の人が言った。
「自覚がある人たちが仲間を集めていたんです。
問題なさそうな趣味の会で仲間にだけ判るキーワードを使って」
さいですか。
それ自体が中二病の行動だって事の自覚はないみたい。
まあいいけど。
「失礼ですが貴方は?」
「すみません。
菊池奈央と言います。
都内の会社のOLです。
大した会社じゃないんですけど」
丸顔の可愛い系だ。
東尾さんと同じような歳に見えるけど。
「ええと、東尾さんとはどういう関係で?」
「趣味仲間です!」
「えー、あれは方便でしょ」
「そんなこと言って!
イグアナは正義よ!」
いきなりそっちに行かないで(泣)。




