【第三章】第八部分
久里朱たち四人はそばにあった地方議員選挙の立て看板に、遅い二度寝を安らかに貪っている栄知を乗せて、校舎に無事到着した。教室では、夏服の破れた女子たちが体操服に着替えての授業開始となった。
授業は英語の抜き打ちテストだった。生徒たちのブーイングの嵐とはまったく違う風が久里朱たちに吹いていた。
「あら、ずいぶんカンタンだわ。最近は栄知監視であまり勉強してなかったわりには、授業の内容が頭に入ってるわね。」
「サクラも順調にできてるよ。ペンがすらすらと自動書記してるみたいだよ。」
いきなりの学力アップは瓜莉たちにも手招きどころか、ドカドカと土足で大脳内に侵入していた。
テストはすぐに採点されて、瓜莉たちも満点という異常気象が訪れていた。
「これなら早々に三年生に復帰できますわ。」
ついに落第生であることをカミングアウトした暑姫たちの表情は、晴れやかであった。
不可思議現象は体育にも及んでいた。
この日も二人三脚がメニューとなっていた。
前回と同じく、縦に並ぶ列車を組織した栄知たち。先頭に桜子、後部に暑姫というシフト。しかし、今回は左右に久里朱と瓜莉が付いている。極めて不自然な形態であり、余程呼吸が合わないと前に進まない組み方である。
今回も二組ずつの競争形式となった。
教師は号砲を鳴らそうと構えている。これを鳴らすのが好きなのか、わずかに口元が緩んでいる。
「位置に着いて。よ~い、パン!」
「「「「「「ぐおおお~!」」」」」
100メートルを5秒で駆け抜けた5人組。陸上短距離なら前人未到で空前絶後の圧倒的な世界記録であるが、五人四脚というジャンルは存在しないため、ただの速足記録に留まったのである。




