【第一章】第三部分
忙しい父親を大好きだった久里朱は明るい女子だった。
父親が殺される前日のこと。
「お父さん、今度の日曜日、遊園地に行く約束、必ず守ってね。」
「久里朱は中学生にもなって、遊園地に行きたいとか、言うのか。まだまだ子供だなあ。」
「だって、お父さん、刑事の仕事が忙しくて、小学1年生の時に遊園地に行ったのが最後なのよ。あたしはお父さんが時間を取れるのを、何十年も待ってたんだからね。」
「何十年というのはちょっとオーバーだけど、そんなになるかなあ。わかったよ。今度こそは行くからな。」
「ぜったいだよ。約束なんだからね。指切った!」
この会話が久里朱と父親との最後の言葉となった。
父親の訃報に接した時から、久里朱は前を向くことを忘れて、不登校となり引きこもりしていた。
しかし、ある日から立ち直った。その日から性格もすっかり変わった。さらに栄知と一緒に帰るようになった。
それでも時折、ひとりで帰る。この日はそういう日だった。
「それにしても久里朱は何のバイトしてるのだろう。聞いても、『乙女の秘密を尋ねるのはセクハラなのよ。』と返されるだけだしな。」
久里朱への電話は、魔法少女省からだった。正真正銘のバイト先であり、母子家庭の久里朱の学費はチャラになるだけでなく、生活費にも十分なる補填がある。刑事だった父親と魔法少女省は同じ公務員であり、何らかの繋がりはあるようだ。
科学技術の発展で社会的には見向きもされなかった魔法少女が、警察が手を焼いていた暴力団を倒すことで脚光を浴びて、さらに社会貢献を進めて、警察官との協力を行うなど、人数も増えて、世の中に不可欠な存在となり、ついには行政機関になった。
それを取りまとめる省庁を『魔法少女省』と言う。世の中に3千人はいるとされる魔法少女を統括している。魔法少女は、正式な職員と久里朱のようなアルバイトに分かれている。
このアルバイトに関しては、アルバイト禁止の高校・中学でも認めなければならないという法律があり、魔法少女たちを守る同時に人数確保に役立っているのである。