【第二章】第八部分
こうして久里朱は手ぶらで魔法少女省に戻り、状況を沽森byオバチャマに報告した。
「よくやったもん。梅子ちゃんにしてみればかなりの譲歩だね。明日が楽しみだもん。」
久里朱は少し拍子抜けだったが、安堵感のほうが勝っていた。
翌日、栄知はいつも通り、制服で登校してきた。そのまま教室に入り、窓側の後ろから二番目の席に腰掛けた。
久里朱はすでに窓側最後尾の自席にいた。
「どうやら約束は守られたようね。あの双子は、あれでも魔法少女省の職員だから、規律は遵守するのね。」
安堵した久里朱の表情を後ろ手に見て、栄知も気持ちが暖かくなった。
『ガラガラ』というドアを開く音と共に、少々いかつい顔の眼鏡女性教師が入ってきた。足音は二つであった。
「転校生を紹介する。ほら、自己紹介しろ。」
教師に促されて、大手を振りながら女子がひとり入ってきた。
「今日から一年生クラスから飛び級転入してきた渋沢桜子だよ。よろしく、低学力の先輩方。ニヤリ。」
頭を下げずに、首を左右に振って、短めのツインテールを揺らした桜子。傲岸不遜な態度を全面に出して、クラス中の反発を無料で買い集めた感がある。
「ちょっと待ってくれ。桜子がこのクラスに来るなんて、聞いてないぞ。」
「あたしも栄知の妹が来るなんて、知らなかったわよ。」
栄知、久里朱が驚いて立ち上がっているところに、桜子は忽然と現れて、栄知の窓側隣に座っていた。
「お兄ちゃん、今日からよろしくね。っていうか、サクラが貧乳魔法少女から守ってあげるから、感謝して、サクラの靴をなめるんだよ。」
桜子はヤクザのような上目遣いで、栄知を睨み付けた。
「桜子、いつもと態度が全然違うじゃないか。」
「梅子と一緒の時のサクラと、単独サクラを混同しないで。単独サクラは別次元なんだからね。お兄ちゃんズを守るのが目的なんだから、感謝しなさいよね!プイっ。」
顔をそむけて、窓の外に視線を送った桜子。
「どうしたんだ、桜子?まるでツンデレみたいだけど?」
「ツ、ツンデレなんかじゃないよ!ただの職務遂行なんだからねっ。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ツンデレだ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
回りの生徒は全会一致でツンデレ認定していた。
桜子は、言葉ではツンデレ否定していたが、気持ちは違っていた。
(お母さんがいないとお兄ちゃんに対してなぜかこんな態度をとってしまうんだよね。だから家では必ずお母さんと一緒に行動するようにしてるんだけど、まさか、サクラひとりでお兄ちゃんを警護することになるなんて。お母さんの指示なんだから仕方ないけど。)
栄知の斜め後ろに座っている久里朱はなんとなく違和感を感じていた。久里朱は桜子のすぐ後ろにいるのだが、いつも見ていた背中と違うと気づいた。誰が前に座っていたのか、記憶がない。それどころか、クラスメイトたちは、何の疑問も持っていなかった。魔法少女省が何らかの情報操作を行っていたのである。情報操作とは、無形なものだけでなく、人間の実在をも抹消してしまうことである。国家権力とは恐ろしいものなのである。




