【第一章】第二部分
登校する高校生の統一された歩みが、朝の道路に慌ただしさを与えている。
通学路を並んで歩く渋沢栄知と幼馴染みの緋口久里朱は、九条学院高校の二年生である。
身長159センチの久里朱の赤く長い髪は太陽で煌めいて、周囲にダイヤモンドダストのような光を放っている。赤いブレザー、プリーツスカートに紅色の大きくシャープな双眸がよく似合う。
栄知も同色のブレザーに、ショートカットでややラフな黒髪に尖りが目立つ。鋭いが優しげな黒い瞳に、175センチの、筋肉質ながらやや細く見える体躯である。
栄知は前を向いたまま、さりげなく久里朱に話しかける。
「今日の帰りも一緒に帰るか?」
「朝っぱらから帰る時の相談をするとはよほど授業が嫌いか、あたしを独占したいということかしら。他の男子からラインのクレームが殺到して、パンクするわ。」
「そんな超常現象起こってたまるか。それにしても、帰宅部ってのは、青春から最も遠い部員で構成されてるんだよな。」
「そうかしら。あたしはこれでも楽しんでるわ。」
『プルル』という陳腐な電子音が久里朱のスマホを鳴らす。
「そろそろ来る頃だと思っていたわ。あっ、今日はバイトがあるから、放課後は栄知ひとりで帰ってね。」
久里朱は愛くるしい笑顔を栄知にプレゼントした。
栄知にとって、その笑顔を見てホッとするのが授業よりも大切な日課である。
「いつからこうして一緒に帰るようになったんだろう。
栄知には2年前の出来事を想起するのも、嫌な宿題のようなものである。
「あの事故、いや事件以来かな。」
栄知と久里朱の父親は、探偵と刑事という関係だけでなく、古くからの親友であった。
刑事の捜査にはどうしても表向きだけでは調べられないことがある。
そんな時に、栄知の父親が時には非合法な手段も用いながら、久里朱の父親に協力して難事件解決のアシストをしていたのである。
非合法な手段となると、どうしても危険な橋を渡らざるを得ない場合も出てくるが、そういうことも乗り越えるだけの深い付き合いが、ふたりの父親には存在したのである。
久里朱の父親は刑事ということもあり、久里朱を愛していたものの、常に多忙で、一緒に遊ぶ時間を確保することは、久里朱が幼い頃から困難であったが、久里朱はそんな父親のことをよく理解して、父親には無理なおねだりをすることはほとんどなかった。久里朱はそれだけ早熟な子供にならざるを得なかったのである。
刑事という職業は街の治安を守るのは得意だが、自分の治安を街のそれよりも劣後扱いにしてしまうという人間の生き方としては不合理な存在でもあった。
栄知たちが中学生の時、地元の暴力団捜査の最中に、ふたりとも殺害されたのである。犯人は三つ葉葵の紋章をからだのどこかに施した反社会的魔法少女であるとの疑いがあ
ったが、現場に物的証拠がなく、事故扱いとして迷宮入りしてしまった。
栄知はたまたま現場から少々離れたところにいて、遠くから父親が襲われるのを聞いて、急いで駆け付けたが、間に合わなかったのである。