【第一章】第一部分
経済成長が低迷する中、それに反比例するかのように、世の中が荒んでいる。景気と道徳観念は非常に強い逆相関性があり、当然である。
売春や薬物が若者に蔓延っており、その裏側を牛耳っているのはヤクザ。
ここは、とある街の夜の路地裏、ヤクザにとっては公園の水飲み場である。
チンピラが酔っ払いのサラリーマンに、『肩がぶつかった』と詰め寄る、お約束の展開である。
『お巡りさん、助けて!』と酔っ払いは叫んで、警察官がやってきた。
黒いサングラスのヤクザは、ブレザーの前を大きく開いたままで、ニヤリとしながら、毛深い手で携帯を握る。
『先生、出番ですよ。』とスマホに話しかける。
数秒後、『めんどくさいなあ~。』とつぶやきながら、口からキャンディ棒をはみ出させて、黄色い衣装の女子がやってきた。
クマミミフード付きの被り物で、胸には大きな目付きの悪いクマのイラスト。下は茶色のパンツスタイルで、小柄である。山吹色の大きな瞳がギョロリとしている。
「は~い、用心棒の黄泉瓜莉だよ~。ニックネームはウリウリだよ~。ウチの実家は昔小さなヤクザの組をやってたんだけど、警察に潰されちゃったんだよね~。だからオマワリさんをみるとスゴくむかつくんだけど~。」
黄色の少女は、背中に枕を象った黄色のリュックを背負っている。膨らみ具合から、中にはいろんなものが入っているように見える。
「ま、まさか、魔法少女、それも反社会的魔法少女!?」
「そうだよ~。反社会的は余計だけど~。ちょっとムカついたから、軽い毒魔法、使っちゃっちゃおうかな~。痛くしないから~。でも死んじゃうかもね~。」
「ひ、ひえ~。」
警察官は帽子を飛ばして走り去っていった。
「あ~あ。変身しないうちに逃げちゃったよ~。消化不良だよ~。早く宿題の『お兄ちゃんズ』を見つけないとね~。」
こう言って瓜莉はどこかへ消え去った。
ひとり取り残されたヤクザは、タバコに火を付けて、大きく吸った後、まずそうに、白い煙を吐いた。
「魔法少女が用心棒になってくれるのは楽でいいけど、俺たちヤクザの本業はいらなくなってるんじゃね?そろそろ転職でも考えないといけないのかな?」
黒いサングラスのヤクザは、酔っ払いから財布を奪うと、そそくさと路地裏を後にした。