【第一章】第九部分
「いてて。ひどいもん、久里朱ちゃん!」
黒い物体はエレベーターカゴの隅で小さくなっている。
「う、う、う。まぶしい!オバチャマには、光がジャマだもん。早くドアを閉めてよ。」
か細い幼女の声が聞こえたが、ドアの閉まる音にかき消された。
ドアが完全に閉まると、エレベーターの中は真っ暗になった。ライトは点かないようにしているらしい。
「オバチャマ、いつもエレベーターでひきこもってるみたいだけど、スゴく迷惑なんじゃないの?」
「ここはオバチャマのおウチなんだもん。ちゃんと、魔法少女省の使用許可も取ってるんだから問題ないんだもん。」
「これで魔法少女省のキャリア官僚だなんて、信じられないわ。」
「オバチャマは、外に出るのがコワイんだもん。だからこの世で一番安全な魔法少女省に住むことにしたんだもん。住むためには魔法少女にならなくちゃいけないから、仕方なく試験を受けて魔法少女になったんだもん。そして今はアルバイト魔法少女久里朱ちゃんの立派な立派な上司になってるんだもん。」
「魔法少女省への就職理由は完全に間違ってるわよ。ホント、オバチャマには困りものねえ。このエレベーターの中は、暗くて何も見えないじゃない。」
「オバチャマは闇の住人だから、見えるもん。透視魔法も使えるし。ほら、久里朱ちゃんのシマシマパンツも。」
「あたしのパンツが魔法で見えてる⁉きゃあ~。」
久里朱は慌ててスカートを押さえて、裾をつまんでいた沽森byオバチャマの指をはらった。透視魔法の存在は不明である。
久里朱の目が暗順応してくると、沽森byオバチャマの姿がぼんやりと見えてきた。黒いローブを着た妖女がそこにいた。顔はフードに覆われていてハッキリとは確認できな
い。
「もう、セクハラやめてよね。はい、これが今日集めてきた枕税金よ。」
久里朱は、現金と税金納付書を一緒に、沽森byオバチャマに手渡した。
「たったこれだけ?金額が一桁少ないもん。でもオバチャマは気にしないもん。いつものことだもんね。」
「これでも精一杯ガマンしてるのよ。ホント、からだを売る枕営業って、つらいわ。」




