プロローグとモノローグ
【渋沢栄知のモノローグ①】
オレは物心ついた時からからすごく耳がよかった。頭はよくないが、というありがたくないオプション付きだが。
太平洋戦争中、まだレーダがなかった頃に、船首に立って、敵船の様子をみる斥候は視力6.0だったという。この肉眼サーチパワーで、戦争当初の日本海軍は連戦連勝だったという。オレの耳はそんなレベルで、アナログ世界ならいいところにいくだろう。でも聞きたくない音も聞こえてきたりする。とくに幼馴染みの、あの声が。
【プロローグ】
魔法少女。派手でかわいいコスチュームで、人目を奪うように軽やかに動き、眩い光の魔法で華麗に宙に舞い、モンスターを鮮やかに倒す。
そんな華やかなイメージとは裏腹に現実の魔法少女は過酷である。
異能な魔力を使うためには、人智を超えたエネルギーが必要である。一般的な物理現象では理解・分析できないものである。
ここにそんなつらい日々を送る魔法少女のひとりがいる。
赤いベルベット地で、胸の空いたワンピース。腰には白い大きなリボン、黒いカチューシャに赤いダイヤのアクセサリー。小さな胸には赤い十字架を下げている。左腕のミサンガは、小さな枕型のアクセでできている。短いスカートから見える細い脚は白さと肌色が見事に混ざり合って光っている。
ネオンがいかがわしく点滅するホテル街に、赤い十字架の魔法少女が眉間にシワを寄せて立っている。
魔法少女の視線の先にはスーツ姿の比較的イケメンなサラリーマンが映っている。サラリーマンは初めて動物園来た幼児のように目を輝かせている。口元から『初物、それも
女子高生、現役だぞ!』という声が漏れている。
魔法少女は震えるからだと唇を強引に押さえ込んで、サラリーマンを睨み付けている。
「あたしが魔法少女になってから、初めての枕営業。あたしの大事なものが、奪われるの?これは栄知にとっておかないといけないのに。」
魔法少女はだらしなく涎を垂れ流しているサラリーマンと一緒に、真新しいホテルの入口をくぐっていった。