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天使の居る日

作者: てと

誰かが言っていました。

お前は変わってるって。


誰かが言っていました。

お前はおかしいって。


「私はおかしくなんかないのに。」


帰り道、毎日のように呟いていました。

誰に話しかけるわけでもなく。

誰かに話しかけられることもなく。


回っていく世界に私はただついていくだけでした。


「お前、馬鹿だな。」


昼休み、屋上で先輩にそんな話をしたら怒られました。


「馬鹿ですよーだ。」


「世界はなるようになるんだよ。」


「そんなことないです。」


「願いは叶わないんだよ。」


「叶います。」


平行線のまま私たちの議論は終わって。

でもそれは別に変わった出来事でもなんでもなくて。

それはただ、そこにある、ありふれた日常でした。


そう、昨日までは。







「お前が変わってるのは前々から知ってたけど、まさかそんな妄想を言い出すとは思ってもみなかったよ。」


「変ってなんですか!訂正してください!」


「突っ込みどころはそこかぁ?」


私の唯一気にしている問題点をさらっと言った上に責任逃れ!


「もう許しません!勝手になさい!!」


「は・・・はぁ。」


それはつい5分前。


「先輩、天使を見たんです。」


「・・・・・・お前、そろそろいい病院紹介してやろうか?」


「先輩!真面目な話ですよ!」


「それを真面目な話にしちゃったらもう終わりだろ。」


「いいですか、今私の頭の上に乗ってるこれ!これが天使なんです!!」


「・・・わかった、お前の気持ちはよくわかったから。」


「わかってないですよね・・・。」


私の頭には天使が乗っている。

本でよく見るような可愛い顔、小さな羽根。


「あれ?見えないんですか?」


「眼科行け眼科、それとも脳外科とかか?」


先輩はそういうとあさっての方向を向いてお弁当を食べ始めた。

私は頭の上に手を伸ばしそっとそのこ、天使を手に取る。


「にっこりと笑ってるじゃないですか、ほら、ここ!」


「だから眼科行けって。」


私の手に居る天使。

それはいつものようにこの屋上に来たときにふいに私の頭に乗っかってきたのだ。


「先輩!真面目にー・・・あ。」


そうか、私にしか見えないのか。

先輩は無視しているわけじゃなくて私にしか見えないだけだったのか。

日頃から行いがいいから私への神様のプレゼントだろうか?


「どうした、急に黙って。」


「あ、いえいえ。お昼を食べよう。」


私は再び天使を頭に乗せると持ってきたサンドウィッチを取り出して頬張った。


(ところで、自己紹介とかいる?)


「ふぇ!?」


「な、なんだよ。」


「い、いえいえあまりにおいしかったのでつい・・・。」


(びっくりさせちゃった?僕は天使のコトリ。)


どうしたらいいのだろうか、適当に声を出したらまた先輩におかしなこと言われたと思われるし。


(考えるだけでいいよ、僕はそれを読み取るから)


あ、じゃぁ・・・私はリコ。


(ふーん、普通の名前だね)


普通って言われても親から貰った大事な名前なんだけど。


(問題はないよ、名前が変なんじゃない、君が変なんだからね)


そうそう、私は変・・・って。


(だから僕が見えるんだよ、普通の人間には僕の姿は見えない)


ちらっと私は先輩の方を見た。

いつものようにお弁当箱を持って猛然と食べ続けている。

その目にはいっぺんの曇りもなく、私の頭の上に何か居ることなど全く気が付いていない。


(わかった?自分が変なこと)


まぁそれはおいておきましょう。

それよりなんで私の頭に?


(羽根を傷めたんだ)


よくよく見れば右の羽根が少し傷ついているように見えた。


大丈夫なの?


(夜には平気そうだね、しばらく休ませて貰うからそのつもりで)


まぁそのくらいならいっか。


私は妙に冷静になって現実を受け止めることにした。

どうせ普段から天使が見えたらいいな、って思ってたところだし。


(変わってるねぇ)


私は変という言葉に最大限気を使いながら再びサンドウィッチを頬張った。





「リコ、今日の学校帰りカラオケいこーよ。」


5間目を終えるとサキが私の近くに寄ってきて囁いた。


「先輩も誘ってさ!女三人、仲良くどう?」


「そうねぇ・・・じゃあ。」


(だめ)


な、なんでよ。


(うるさいのは嫌いなんだ、今日は我慢して明日にして)


なんて我侭な天使だろうか、でも仮にも天使、何かされたらたまったもんじゃない。


「ご、ごめん今日はちょっと忙しいんだ。」


「えー、まぁしょうがないか。じゃあね!」


すすーっと再び席に戻るサキ。

随分物分りがいい、この天使とは大違いだ。


(僕もたまには行くけどやっぱりカラオケは好きになれなくてね)


天使もカラオケ行くの?


(行くよ、僕は好きじゃないけど)


別にコトリの好みは聞いて無いよ。


(そうかい)


そういうとコトリは黙ってしまった。






放課後


ゆっくりと足を進め、私は家に向かって歩いていた。

幸いにもコトリは重さが無く、私にとっては別に問題は無かった。


(・・・夕焼けか)


見れば太陽が沈みかけ、その日差しはひときわ大きく輝いていた。


なんだかときめくのよね。


(夕日が?)


そう、なんだか幻想的で。


(変わってるね)


そうかな、多分、おんなじような人なんてたくさんいると思うよ。


(世界は広い、ね)


そういうこと。


歩く影がなんだか今日は大きく見えた。



(それじゃ、お世話になったね)


夕飯のちょっと前、コトリがゆっくりと飛びながら私の頭から降りた。


もう平気?


(平気さ)


ばさっと羽根を動かすとコトリは部屋の中を勢いよく飛んだ。


なんか白いカラスみたい。


(まぁ似たようなものさ)


天使もカラスも一緒?不思議。


(そうだ、一つだけ、何か願い事を叶えてあげるよ。今日のお礼だ)


へ?

願い事?


(そう、なんでもいいよ)


願い事・・・急に言われても中々出てこない。


(永遠の命、一生若いまま、なんでもいいよ)


そんなのは嫌だなぁ。

私は普通に年を取って普通に死にたい。


(じゃぁなにがいい?思い出作りに世界中を回るかい?)


それもいいけど・・・。

そうね、決めた。


(うん?)


今日、あなたとあったことを忘れさせてちょうだい。


(へぇ?)


不思議なことは無いから面白いのよ。

実際に天使に会っちゃったなんてつまらないし。

それにイメージとはちょっと違うし。


(大きなお世話だよ。じゃ、いいんだね?それで)


うん、毎日が幸せなのは私が毎日を楽しんでるから。

楽しみは私が満足なこと。


(今日は満足じゃなかった?)


満足すぎちゃって私にはおなかいっぱい。

だからまた明日から普通の日が過ごせるように。


(やっぱり、リコは変な子だね)


変でもいいかな、この際。


(じゃ、今日のことは明日の朝には忘れてるよ)


ありがと、コトリ。


(じゃあね)


そういうとコトリはゆっくりと飛び去っていった。

私は何のためらいも無く、そのまま、眠った。







「先輩!天使って見たことあります?」


「無いに決まってるだろ。」


今日も私は先輩に、友達に、変だといわれている。

それは毎日のことで、それは普通の日常で。

何も変わることの無いただの日々。


「先輩、天使が居れば彼氏も出来ますよ。」


「彼氏なんかいらないって・・・。」


その日常はなるべくなら崩れて欲しくは無いけど。

それでも時々、ちょっとだけ。



「天使でも降ってくればいいのに!!」


「病院いけよ・・・。」


ちょっとだけ私は世界に対して我侭みたいだ。

わたしは彼女のように「忘れたい」とは願わないだろうけれど。

この結末には何となく納得している。

自分で書いているのだから当然とはいえ釈然としないまま終わる作品もあったりするあたり、あくまで自分の作品と自分自身は別物…。

理想を描くこともあれば、そうでない時もあるなぁと実感するものに仕上がっています。

天使、実際いたらぜひとも見てみたい。

そして願わくばリコのような1日だけでなくもっと何日も過ごしてみたい。

日常の中に非日常が少しだけ顔を出したら、そんな妄想を頻繁にするのでこんな作品が出来上がったのでしょうね。

あぁ、天使にあってみたいなぁ…。

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