冒険者
「すいません冒険者登録に来たのですが。」
「はい、ではこちらにお名前と職業を書いて下さいね。」
冒険者登録に必要な名前と職業の欄に戦士と書く。
この職業は勇者パーティの役割の4つの中のどれかの事なのだが、この職業に特に武器が剣だとかそんな事は関係無いらしい。
俺は戦士一択だがな。
「はい、ではお名前はマイスファー様で、職業は戦士でお間違い無いですね?」
軽く頷く事で肯定を表した俺を見て、受付が言葉を繋げる。
「では、冒険者について御説明しますね。
冒険者とは冒険者ギルドに寄せられた依頼をこなして行き報酬を貰う方々を総じて冒険者と呼びます。
この冒険者の中にもランクがあり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの4つに分かれており各自自分にあった依頼を受けてもらいます。
マイスファー様は初めてとの事なのでブラウンから始まります。」
よろしいですか? との受付状況の確認に応じ、俺は冒険者カードを貰った。
ブロンズの冒険者カードを眺めながら取り敢えず1番簡単な討伐の以来でも受けてみる事にした。
何故だ……
俺は最弱と言われるゴブリンの攻撃を避けながら強く思う。
何故こんな弱い相手を倒せないのか? と。
右から来る棍棒をしゃがんで回避し続け様に反撃するのだがこれが全く効かない。
錆びた剣ではまず切れない事に早々気づいたが、この剣下手したら攻撃力と言うものを持っていない可能性すらある。
何故ならこんな攻防は既に10分は経っている。
切れないならと幾度となく吹っ飛ばしたゴブリンだが全く衰える様子が無い。
俺が弱いのかと思ったが明らかにそれも可笑しい。
俺は勇者だ。 今はその称号は剥奪されたが、勇者として産まれてきた俺は身体能力は高い筈なのだ。 それなのに攻撃が聞かないと言う事はつまり。
この錆びた剣は攻撃力0と言う訳だな。
「ははっ……」
乾いた笑いが零れるのも仕方ない。 神からお前は役立たずであると言われた気分だ。
勇者は神具しか武器を持てないと言うのに……。
そんな悲観的な考えをしている間にも幾度となくゴブリンを吹っ飛ばしているが、やはりゴブリンはピンピンしている。
もう俺は最終手段に出るしかないようだ。
今の俺は冒険者。 なら逃げたっていいじゃない。
そう自分に言い聞かせ、俺は逃げだした。
正直不味い。
非常に不味い。
この展開は想像だにしていなかった。
自分の身体能力ならゴールドまでは楽にいけると踏んでいたからな。
それが蓋を開けてみればブロンズの中でも下の下。
冒険者として出来る事は逃げることと薬草採取ってか?
笑いにもならないし、金にもならない……。
このままではダメだ。 勇者以前に生きていけない……
俺は決心を決め、冒険者ギルドに行く事にした。
「すいませーん! 戦士じゃなくて騎士に職業変えても大丈夫ですか!?」
自分の今の状況の不味さから食い気味に聞いてしまったが、それはまぁご愛敬だろう。
「ま、まだ登録仕立てという事ですから変更は可能ですが、大丈夫ですか?」
「お願いします!」
「では冒険者カードを預かりますね。」
そう言って冒険者カードを預け、変更後帰ってきた冒険者カードにはちゃんと騎士と書かれていた。
俺は身体能力を活かして壁として食いつないで行く事にした。
「取り敢えずパーティを組まないとな。」
冒険者ギルドにはパーティ募集の掲示板が有る。
そこには何枚もの募集用紙が貼ってあり、そこに書かれている条件に会うものを選び、ギルド職員に提出すると話を通してくれる。
募集を見ていると明らかに騎士を募集するパーティは多かった。
それもその筈騎士はどの職業よりも危険だからだ。
ましてや駆け出し冒険者が騎士をやると大体の者は攻撃に耐えきれず、逃亡するか脱落してしまう。
そんな訳で騎士不足は目に見えて明らかなのだが俺には嬉しくないお知らせが有る。
どうやら駆け出し騎士が逃げ過ぎて殆どの募集がシルバーか、騎士経験が1年以上の者となっている……。
奇跡的に1つの募集だけ騎士以外の条件が定時されていない募集があるが……正直怖い。
まぁそんなこと思ってても結局これに決めるしかないんだけどな。
半ば諦めながら募集用紙をギルド職員に持って行く事にした。
「あんたが騎士志願のマイスファー?」
パーティ申請をした翌日、初の顔見せをしたのだが……どうやら俺のガタイが良いとはお世辞にも言えない身体がお気に召さないらしい。
「あぁ、最近冒険者を始めたマイスファーだ。 気軽にマイスと呼んでくれ。」
「マイスね、私は僧侶のメアリよ、くれぐれも逃げ出さない事!」
メアリは長い赤髪をポニーテールにし、言動から伺える様に少しキツイ顔付きをしているが全体的に整った顔をしており何処ぞの貴族様と言われても差支えが無いくらいだ。
「俺は戦士のハリスだ。 どしどし攻撃してくんで宜しく!」
ハリスは少し小柄な体型をしており、少し可愛らしい印象を受ける顔をしている。腕には自身が有るらしく、自身に満ちている。
「わ、私は魔法使いのマクマです……よ、宜しくお願いします。」
最後に魔法使いのマクマは身につけているローブを深く被り、何に怯えているのか気になるほど縮こまっている。 ローブの隙間から少し伺える顔はメアリとは正反対に可愛らしい顔つきだ。
「さて、自己紹介も終わった事だしマイスの実力を見るためにもダンジョンに行くわよ」
どうやらこのパーティのリーダー核はメアリらしくメアリが行動方針を決めるようだ。
「プロボーク!」
ダンジョンに入って少ししてから忌々しきゴブリン1匹に遭遇した。
俺は敵の注意を引き付けるスキルプロボークを使用する。
プロボークは敵の注意を一定時間引き付け、俺に狙いを固定するスキルだ。
スキルは基本スキルロールを買えば誰でも覚えられる為昨日の内に騎士のスキルを買っておいたのだが、そのせいで金欠だ……
「うおぉおぉ! バックスタブ!」
俺が注意を引き付けている内にハリスが戦士系奇襲スキルバックスタブを発動させる。
バックスタブの威力はゴブリンを一撃で葬ったようだ。
「いっちょ上がりっと! ナイスマイス!」
ハリスがサムズアップして俺に笑いかけてきた。
少し照れ臭いがサムズアップで返しておいた。
その後もダンジョンを順調に進んで行き10階層まで辿り着いた。
10階層は2つのフロアで形成されているようで、俺達のいるフロアはモンスターが出ない、ダンジョン内の数少ない休憩所なのだが、その奥のフロア、第2フロアには大型のモンスターが1体待ち構え、その大方モンスターを倒さないと11階層には行けないらしい。
「まさか初日で10階層まで来れるなんて……」
メアリが信じられないという顔で呟く。
「俺達だけじゃ8階層までだったもんな~、やっぱり騎士がいるといないとじゃ全然違うな!」
ハリスは嬉しそうに俺に笑いかけてくれた。
「こ、この先の大型モンスターは、ど、どうしましょう……?」
「そうね、この調子なら大型モンスターも倒せそうだけど、今日は元々マイスの実力見る為だけだったし大型モンスターは次のお預けにしない?」
「ここまで来てお預けか~、まぁメアリがそう言うなら俺は従うよ」
「わ、私も……」
「マイスもそれでいいかしら?」
「大丈夫。」
そんなこんなで俺達は今日の所帰ることにした。
「マイスの仲間入りを祝してカンパーイ!」
カチンッと音を響かせてからゴクゴクと各々の喉を鳴らせる。
「ぷはぁ! やっぱりダンジョン上がりの後の冷えたエールは最高だな!」
「あんたしかエール飲んでないでしょ……まぁ冷えた飲み物が美味いって所には同意するけども」
「そうつれない事言うなよーメアリ」
少しジト目でメアリの事を見るハリスだったがすぐ笑いだし、これがこのパーテイのいつもの光景なのだなと思う。
正直眩しい景色だ。
ハリスが冗談を言い、メアリが辛辣に反応する、それをマクマが楽しそうにカバーする。
絵に書いた様なパーティ、その中に俺も今日から入る。
勇者としての資格はもう無いのかもしれない。
それでも俺は勇者だ。
だから今日から俺はこのパーティの仲間達と魔王を倒す為に尽力しよう。
そう心に誓いながら俺は仲間達の会話に入り第1歩を踏み出した。