第8話「夕暮れ時に、あの場所で」(1)
真実はそこにある
The truth is out there.
「ない・・・ないな・・・」
早先見千里は自宅の今は亡き祖父の部屋である物を探している。
行方不明になった大石春美を真野山で見つけて、今は数日後の土曜日の午前中。今日は大学の講義もなく千里はある物を探そうと決意した。それは自分のせいで死んでしまった少女、音城鈴ちゃんの写真だ。だが、壱発屋で飲んだ不完全な記憶復活の薬により、彼は鈴ちゃんの顔を今だにしっかりと思い出せずにいた。
千里は鈴ちゃんと何回か遊んだ事も思い出した。その時、確か祖父が自分達の写真を撮っていたはずだ。しかし、彼はこれまでアルバムも何回を見たが、少女と自分の写真見た覚えがなかった。千里の記憶復活を恐れた祖父が全部処分してしまった可能性もあったが、彼は諦めず探してみることにした。
祖父の部屋の押入れの奥底に1冊の本・・・アルバムがあった。それを千里は取り出す。埃まみれのその本を千里はめくる。しかし、千里や祖父・・・家族の写真はあっても少女の写真はなかった。
「やっぱり・・・ダメか・・・・」
そう呟いたとき、アルバムの1ページに幼い頃の自分と髪の長い少女が写っている姿を見つけた。小学校の校門前で撮られた写真だ。二人ともカメラの方に笑顔を向けていた。
「この子が鈴ちゃんか・・・」
背格好からして、この子が鈴ちゃんと千里は思った。少女は可愛らしい白いワンピースを着ていた。その写真をじっくり見て千里の中に衝撃が走った。自分が知っているある人物とその少女がよく似ていたからだ。
〈え?なんでだよ・・・・どういうことだよ・・・他人の空似か?〉
もう少しじっくりと写真を見たいと、アルバムからその写真を1枚だけ抜き取る千里。写真を再度しっかりと見る。
〈他人の空似にしては似すぎじゃないか。あいつと・・・・〉
彼はふと、写真の裏にある文字が書かれている事に気がついた。祖父の字だった。祖父はこうやって写真の裏に「いつどこで撮った場所か誰が写っているか」と書く癖があった。
「2004年4月1日 早先見千里 音城・・・・・」
そう祖父の文字を読んで千里は困惑した。「そんな馬鹿な・・・。」千里は自分が忘れてしまっていた彼女の名前を思い出した時を思い返した。
〈あの時はたしか・・・・あれを見て思い出したんだよな・・・〉
もう1度、写真の裏の文字を読む。これは単なる偶然にしては出来すぎている。どういう事なんだ・・・と困惑している時だ。玄関のチャイムが鳴った。しかし、千里は今はそんな来客に対応してる暇はないと同居人の天野光太に応対するように指示を出す。
「光太―!でてくれー!お客さんが来た」
返事がない。今現在彼は屋敷にはいなかった、光太は「そういえば買い物に出かけた」事を千里は思い出した。舌打ちしながら、玄関に向かう。玄関を開けると怖顔公務員でお馴染みの高山勇司警部補がいた。
「怖顔マンじゃない・・・高山さんじゃないですか」
「だから怖顔マンやめろって。ほれ、近くまで寄ったから。これ差し入れだ」
高山は千里にある袋を差し出した。それは千里のよく行く好きな中華料理屋の袋だった。中身は焼き餃子の入ったパックがいくつか入っていた。千里はそれを見て目を輝かせる。
「ああ!これ好きなんですよ!あの名古屋にあるテレビ局みたいな名前の中華料理屋の餃子」
「そうだよ。あの名古屋にあるテレビ局みたいな名前の中華料理屋の餃子だよ。左腕が三角巾ギブスの姉ちゃんがよく行くあの店だよ。・・・・なぁあそこの店主の親父がロボットってマジか?」
「確かにロボみたいな格好していますけど・・・いや、あれコスプレでしょ?」
「そうか・・・・。まぁいいや。まぁ今回は真野山で無茶して女子高生探してもらったからな。そのお詫びとお礼だ。」
「ええ、すごい!・・・あ、でも公金で買っていませんよね!?どっかの都知事さんとか、都知事みたいに!?」
「そんな、ます・・・なんとかさんみたいな事は、俺はしねーよ。安心しろ、これは俺のポケットマネーで買ったんだよ。」
「そうですか。やっぱ高山さん、怖顔だけど真面目で優しいー」
「だから、怖顔言うな!こう見えても気にしているんだよ!」
そんなやり取りをしながら、千里は餃子の入った袋をありがたく高山から受け取った。
「天野君は出かけているのか?」
「ええ・・・そうですよ。そういえば、見つかった女の子どうなりました?大石春美ちゃん」
「ああ、あの後一応、病院連れって行って検査したけど、命に別状にないんだとよ。おかしな所もない。今は念の為に自宅療養しているが、来週には学校に通えるって話だ」
「そうですか・・・そいつは良かった。」
千里もそれを聞いて一安心といったところだ。しかし、千里には彼女に関して今一つ納得がいかない事実があった。
「あ!でも彼女、おっぱい大きくないじゃないですか!嘘つき!」
「そ、そうだったか?俺からすれば大きい方だとは思うぞ。」
千里に咎められながら、なんとか話題を切り替えようとして、高山は目線を逸らしながらこう言った。
「そういえば、彼女も自分に何があったか覚えてなかったな・・・・なぁあの山で一体何があったんだ・・・?」
「・・・・・・・・」
千里は黙った。自分でもまだ信じられないし、納得がいかない経験をあの山ではしたのだ。頭のおかしな男がUFO使ってなにやらおかしな事をやっていたなんて話をするのには抵抗があった。話をしても、最悪、高山には「幻覚を見た」と思われても仕方がないと考えた。
「僕も・・・覚えてないです」
「そうか・・・・ならしょうがないな。」
高山が早先見家を後にしようとした時、千里が高山に質問をした。
「高山さん、一つ聞いて良いですか?高山さんが知っているならでいいですけど・・・・」
「なんだ?」
「あのですね・・・・」
その時、屋敷の頭上の空を飛行機が通っていった。ジェット音で千里の声がかき消されたが高山はすぐ側にいたおかげで彼の声がちゃんと聴こえた。千里の質問内容を聞いて高山は意外そうな顔をした。
「ああそうだよ。知らなかったのかお前?まぁいいや、俺は土曜日も仕事なんでね。じゃあな」
高山はそう答えて、屋敷を出て署に戻って行った。高山の後ろ姿を見送りながら、千里は
〈やっぱりそうか・・・・でも全部分かったわけじゃない。僕の勘違い、思い込みの可能性もある〉
と思った。なんとも、もどかしい気持ちだった。
〈確かめるか・・・・〉
そう決意して、千里はある人物に携帯で電話をした。3コールぐらいでその人物が電話に出た。
『もしもし』
「もしもし、悪いね。休みの日に。ちょっとさぁ直接会って話をしたいんだけど」
『えー今カワイ子ちゃんとデート中なんだよ。電話じゃダメか?』
カワイ子ちゃんとデート・・・それを聞いて千里も納得した。たしかにその人物は毎週土曜日にそのカワイ子ちゃんとデートするのを約束していた。邪魔をしてはダメだった。しかし、その人物は今日の夕方6時ぐらいなら会えると提案してきた。
「そうか、夕方6時ぐらいならいいのか。じゃあさぁあの場所で待っている。僕の高校時代お気に入りだった場所で。夕暮れ時にあの場所で会おう」
そう相手に伝え、千里は電話を切った。




