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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第1章「苦難の大学生とお化け屋敷の主」(シーズン壱)
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第1話「遭遇」(3)

 木曜日になった。光太が先輩である皆川涼と共に早先見千里の家に訪れ、突然の提案をされて3日が経過していた。内容などはどうでもよく、単位が欲しいがためだけに受講している心理学の講義を聞き流しながら、あの時の事を思い返していた。






「色々考えたのだよ。自己管理は出来るけど、家が遠く、一人暮らし用の部屋探しが難航して悩み困り果てている後輩と、大学から近い場所に住んでいるくせに自己管理が出来ない上に何回も注意しても寝過ごして講義に来ない哀れなクズな学友を同時に救う方法はないものかと・・・。」


 その悩み困り果てている後輩と哀れなクズの学友の二人はとんでもないことを言いだした部屋の真ん中にいる人物を見ながら困惑していた。涼はそんな二人を尻目に話を続けた。



「そこで思いついたのさ。簡単なことさ!その二人が一緒に住めばいいのだよ!」

 

 涼は胸を張って言った。


「天野、お前がさぁ一緒に住んで毎朝起こしてやってくれよ。このクズをさぁ!そうすればこのクズが寝過ごして講義をサボることもなくなるはずだ!多少なりとも真人間になるであろうことが期待される!ここに住めば、お前も通学時間の大幅な短縮が出来るぜ!一石二鳥でみんながウルトラハッピーだぞ!天野が千里に支払う家賃はそうだなぁ・・・水道光熱費やインターネット代金などなど、もろもろ含めて月3万でどうだろ?」


 二人が同居する上で発生するメリットを色々と力説した上で何故か家賃の値段までも涼が勝手に仕切り始めていた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。行き成り過ぎますよ!」


 慌てながら光太は涼を制した。


「嫌かい?」


 涼は意外そうな顔で見つめてきた。


「いやなんていいますか・・・。」


 突然のことで戸惑ってしまった。


(この男と一緒に住む!?)チラッと光太は千里の方を見た。


「あいつクズって3回も言ったよ・・・。」


 ムッとした顔を千里はしていた。なにやら傷ついている様子だった。


「お前さ、少し前に「漫画とかに出てきそうなところに住んでみたいですね。」とか言わなかったか?こことかそうじゃないか?イメージにピッタリだろ?」


涼は両手を広げながら光太に質問してきた。


(言ったかなぁ・・・?)


 そんな話を以前したかもしれないが、そのときは確か「ラブコメ漫画に出てきそうな美人とか可愛い娘がいるようなオシャレなアパートに住んでみたいですね。」と冗談まじりで光太は言ったのだ。

 ここはオシャレなアパートじゃない。ボロい和風な屋敷だ。ラブコメ漫画ではなく、いかにもホラー漫画の舞台になりそうなイメージだ。

 さらに言うと住人は、夫を早くに亡くして寂しい思いをしながら過ごしている美しい未亡人でもなければ、ツンデレな感じの可愛い女子高生でもなく、エロDVDを平然と垂れ流しで夕方まで全裸の状態で寝ている男だ。これでは全然違う話だ。


「それに家賃3万って安くないかね?多分他にないよ。」


 金額の部分を強調して涼は唱えた。「月家賃3万」は確かに破格の値段であることは間違いないだろう。


「いや、そうじゃなくてですね・・・」

「なんだよ!利害の一致って奴じゃないか!いい提案だとは思うのだけどね!」

「ほら・・・早先見さんの意見も聞いてみないと・・・なんとも・・・」


 声を荒げる涼に光太は返した。

 涼がこう言っても、当然、この家の主である早先見千里がNGを出した場合、同居話は成立しない。きっとあちらもいきなりの事で困惑をしているはずだと思い、もう一度光太は千里の方に視線を投げかけた。


「うーん」と千里は唸りながら腕を組み


「うーん人間目覚ましか・・・悪くない考えだな・・・それなら確実に起きられるかも知れない。この前古い目覚まし時計が壊れてあの世へ旅立ったばかりだし・・・ちょうどこの屋敷は無駄に古い且つ広いだけで部屋の空きも沢山あるしな・・・。」


とブツブツつぶやいていた。


(ええ!?良いのかよ!?しかも俺は目覚まし代わりか!?)


「でもさぁ・・・」と千里は少し困った顔をした。


(ほらやっぱり・・・)


「家賃光熱費もろもろ込みで月3万はやはり少し安すぎじゃないか!?」

と千里は声を挙げた。


(金額の問題なのかよ!?)


「良いんだよ!お前みたいな奴と同居してくれた上で世話をしてもらうのだ。まだ高い方だと思うぜ。」

「そうかな?」

「・・・え?世話?」

(世話ってこの男の世話をしろという意味か!?何を勝手な事を言い出しているんだよ・・・あんたは・・・)そんな顔で光太は涼を見た。しかし、涼はそんな光太に構うことなく、


「なんと驚け!そして喜べ!この天野は料理が特技なんだぜ!」


何故かまるで自分の事かのように誇らしげに千里に向かって言い切った。


「うおおおおおお!!!スゲェえええええええ!!!」


 千里がオーバーなリアクションをした。


「天野さぁ、こいつ一人でこんなお化け屋敷に住んでいて、荒れた食生活を送っているのさ。お前が同居人になって面倒見てやってくれ。健康的な食事とかも作ってやってさぁ!」


その言葉を聞いて千里は「ヒュー♫」と機嫌良さげな口笛を吹いた。


「ますます魅力的な話に思えてきたぞ!確かに最近ジャンクフードしか食べてない。手料理が恋しいぜ!」

「だろ?悪い話じゃないだろ?」

 

 涼と千里は盛り上がっていた。光太の意志関係なく勝手に話が進んでいるようにも思えた。

(いかん!このままでは先輩の強引さや、この妙な雰囲気に飲まれて、勝手に話が決められてしまう様な気がする。)


「いや、あの金額的には魅力的な提案ではあると思います。でも少しの間、答えを保留にさせてください!」

と言い、光太はなんとかその場を切り抜けた。


「・・・さて、どうしたものか・・・。」

 答えはまだ保留にしてある。

 確かに涼が言った通り、家賃3万は安すぎるぐらいだ。大学から徒歩10分程の距離も申し文ない。訪れた時は「お化け屋敷」というようなイメージで面を食らったことは確かだ。しかし、彼の実家は築25年ほどでそこまで古くはないが、その周りには、あの屋敷に似た古くて大きな家屋は少なからず存在はしたので珍しくなかった。それに「いかにもフィクションの世界に出てきそうな怪しげな家」というのはなにか不思議な魅力を感じたし、嫌いではないとも考えた。

 デメリットはあのお化け屋敷の奇妙な主「早先見千里」なる人物と一緒に住んで世話をしなければならないかもしれないという事だ。

 「世話をする」又は「世話をしない」としても、真面目な光太はAV垂れ流しで全裸のまま寝ているような変態男とひとつ屋根の下で一緒に住んでうまくやっていけるか・・・というのが不安だった。


「性格も良いか悪いかではなく「変」というべきか。」


 あの全てを見通すような透き通った眼や、奇妙な事(初対面であるはずの光太の食事メニューや、実家の場所、恋愛事情など)を口走ったことも気になっていた。

なにより「一緒に住んで影響を受けてしまって俺まであんな風な変人になったらどうしよう・・・」というのが1番の怖かった。


 そんなことを考えているうちに心理学の講義が終わった。ノートや教科書などを鞄に片づけ、席を立とうとした時、後ろの席に座っていた同じ学年学部で悪友の小泉剛が話しかけてきた。


「なぁなぁ天野さぁ。あれってもう終わったよな?」

「あれ?」

「ほら、あれだよ。波平の経情学の講義のレポートだよ。」

「ああ!」

 

 光太は声を挙げ思い出した。

 「波平」というのは光太の学部の教授の一人に付けられたあだ名だった。本名は「波野平助」というが略して「波平」。また、「サザエさん」の磯野波平そっくりな容姿をしていることからも来ていた。

 その波平が講師の月曜日四限目にあった経済情報学なる講義にて出された宿題のレポートがあったはずだ。波平は今週の金曜日、土曜日に出張があるとのことで大学にはいないらしい。「主張先の旅館でレポートの採点をしたいから木曜日の夕方18時までは受け付ける。それ以降は知らんぞ。」などと講義の最後に言っていた。


「そうだ。そういえば忘れていた!」


 光太はこれまで課題やレポートをちゃんと期限通り出すようにしていたが、今回の場合は月曜日の夕方にあった出来事のせいで、すっかり失念していた。


「あれー!?珍しいな!」


と小泉が驚き、


「お前にレポート見せてもらって、それを参考にしようと思ったのに・・・」


と落胆した。



「・・・またかよ!?」

「いいじゃないか・・・たまには・・・」

「たまには・・・!?」


 光太は呆れた。

 この大学に入学して小泉とは知り合いになったのだが、光太は「いつも課題を見せて欲しいと頼まれる」側だった。小泉から光太に見せるというようなパターンはなかった。


(これでかれこれ20回目ぐらいじゃないか!?)


「でも今回はやってない。」


とそんな悪友の態度に呆れつつも、光太はそう言い切った。


「そうか・・・」と少し考え、


 「そうだ!これから二人でレポートを図書館ででっち上げようぜ!」と小泉は提案してきた。

 光太はズボンのポケットからスマートフォンを取り出し時間を確認した。今は三限目が終了した14時半過ぎ。今日は四限目の講義もない。今から取り掛かればなんとか締め切りにギリギリ間に合うはずだ。


「うん、そうだな!」


 光太は同意して、小泉と共に大学敷地構内の西にある図書館に向かった。


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