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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第1章「苦難の大学生とお化け屋敷の主」(シーズン壱)
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第1話「遭遇」(2)

 光太は四限目の講義が終わり、約束通りの17時少し前に大学の校門に向かった。そこには涼が既にいた。門に寄り添いながら、左手をジャケットのポケットに突っ込み、右手でスマートフォンをいじっていた。


「お待たせしました」


と光太は声をかけた。


「よぉ!」

 開いた涼の口の中から噛みかけのミルクキャラメルが見えた。


(この人、よくキャラメル食べているよなぁ。余程好きなんだなぁ・・・)

 そんなことを光太は思った。


「じゃあ、ちょっと付き合ってくれよ」

「どこへ行くんです?」


 涼はなにも言わず歩き始めた。仕方がなく光太もそれに付いていく。涼は時折、携帯電話でどこかへ電話をかけながら歩き続けた。


「ちっ!やっぱりあの野郎出ねぇよ!」


と舌打ちと悪態をついた。どうやら電話した相手が応じないらしい。


 よく利用しているコンビニや、学生たちの間で評判のラーメン屋を通り過ぎて西の方にある住宅街に入っていく。ここら辺は新しい家屋が多い。学校帰りであろう女子高生や犬の散歩をしている老人とすれ違いながらも涼は歩き続けた。光太もそれに続く。

 大学を出て、かれこれ10分のところで涼は立ち止まった。目の前には周りの家に比べて明らかに古く、大きな和風な屋敷の門があった。屋敷の門や壁はツダの葉で覆われていた。

なんだかこの家だけが昔から時間が止まったまま、周囲より取り残されてしまっているようにも思えた。

 光太は部屋探しをする為に大学周囲の散策を行ったこともあるがこの屋敷の存在を知らなかった。


(こんなところに屋敷なんてあったのか?)


 ツダの葉の間から見えた屋敷の門の石の表札には「早先見」と彫ってあった。


(はやさきみ…と呼ぶのかな?めずらしい苗字だな。)


「先輩ここは?」

「友人の家だよ」


(部室で言っていた「誰かさん」とやらの家かな?)


 門のインターホンのボタンを涼は押した。


「せんり、いるかぁー?」


 「せんり」というのがこの家に住む友人の名らしい。しかし、応答はない。涼は「はぁ~」と溜息をしながら門を潜りぬけた。光太も後を追う。

 庭には大きく伸びた雑草が至るところに生えていた。何年も草刈などが行われていないようにも思えた。そんな雑草たちに囲まれた屋敷はいかにもオンボロという感じの2階建ての和風な建家だった。 夕暮れ時という時間でもあり薄暗さもあってか「漫画やアニメに出てきそうなお化け屋敷」という印象を光太は受けた。


 玄関の前で「入るぞぉ。」と叫び、涼は戸に手にかけて開けた。鍵もかかっていなかった。


「先輩良いんですか?勝手に入って?」

「良いよ。どうせこの時間になっても寝ているだけだろうし」

 (寝ているって・・・もう夕方だぞ!?)


 この家に住む先輩の友人は朝からこの時間にまで寝ている夜行性型の人間なのだろうか。

「お邪魔します」と言って屋敷の中に入った。屋敷は見ためも古ければ中も古かった。歩く度に床がミシミシと音を立てる。


 玄関から入って真正面にあった木造のドアを涼はノックをしながら、「せんりー」と再び友人の名を呼びかけみるがやはり返事はなかった。そのままドアを開け部屋に入っていく。 

部屋の中はカーテンが締め切ってあり、照明も付いておらず薄暗かった。涼は壁の照明スイッチに手を伸ばし、それを押した。光によってさらけ出された部屋を見渡して光太は驚いた。


 部屋の壁にはいろいろな映画やアニメのポスターが貼ってあった。「スター・ウォーズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「リング」「MIB」「ゴジラ」「天空の城ラピュタ」「エヴァンゲリオン」「ターミーネーター」「ベイマックス」・・・などなど。

 部屋の片隅に大きな液晶テレビ、様々なDVDとBDのタイトルが収めてある棚。中央には小さな木製の机とその上にノートパソコン、スマートフォン、お茶が入ったペットボトル、さらに何冊か本が平積みなっていた。そして大きな黒いソファーがありその上で男が毛布に包まり、ティシュ箱を抱き枕替わりにしなら、いびきをかいて気持ち良さそうに眠っていた。

 異常な光景だった…なにより光太は部屋の主は寝ているのに付いたまま液晶テレビの画面から、ベッドの上で大きな胸の女性が全裸でこちらを見て微笑んでいる映像が流れている事が気になって仕方が無かった。

 しかし、涼はそんなことなどまるで気にも止めないような感じで


「またこいつはAV見ながら寝ているよ・・・。」


と呆れながら言った。


「起きろよ!馬鹿!」


 涼は眠っていた男の頭を叩いた。男の瞼が開いたが「・・・う・・・ん・・・」と言いながら毛布を強く握り締めた。まるで「まだ自分は夢の世界にいたいのだ!」と言わんばかりの態度だった。


「おい!しっかりしろ。」


と涼は再度大きな声で呼びかけた。


「・・・おう、涼じゃないか。おはよう」


と男は目を擦りながらようやく反応した。


「「おはよう」じゃない。もう夕方17時過ぎだぞ。今日の講義もサボりやがって」

「え?」


 男はビックリして部屋の壁に掛けてある時計を見て目を見開きながら


「本当だ」


と呟いた。


「おいおい。しまった、しまった、どうしよう・・・」


と焦ってオロオロと困った顔をしている。余程大事な講義だったのだろうか。

 男は凄く悔しそうな顔をしながら


「福山雅治の「ガリレオ」の再放送を見逃してしまったじゃないか!」


と叫んだ。


 男は慌てて毛布の中からにテレビのリモコンを取り出し、それを操作した。テレビの画面が裸の女の映像から別の画面に切り替わった。映し出されたのは俳優の福山雅治ではく、ニュースキャスターの安藤優子だった。どこかの街で発生したビル火災のニュースを読んでいた。

彼は落胆しながらリモコンを操作してテレビの電源を消し、涼を睨んだ。


「来るって言って欲しいね!あと起こしてよ!そういえば今日必須科目の講義だったのか!?やばいじゃないか僕!」


 寝過ごして楽しみにしていたドラマの再放送は見逃すは、講義には出られなかったのも全部お前のせいだ!という思いを込めたような表情で男は涼に抗議した。


「お前が講義をサボらないように今朝から7回ぐらい電話しているし、来る直前も掛けたけどね!お前が電話に出なかっただけだ!」

と反論する涼。


 男は毛布を払いのけ立ち上がり、机の上のスマートフォンを手に取って画面を見ながら眉を潜めた。


「7回なんて嘘言わないでよ!10回も着信しているじゃないか!」

「回数の問題じゃないだろ!一人暮らししているのだから自己管理ぐらいしろよ!あとパンツぐらい穿けよ!」


 男は全裸だった。股間からそれなりの大きさの物体がぶら下がり自己主張をしていた。


「きゃあ!エッチぃ!」


 彼はドタバタと部屋を急いで出て行き、1分ぐらいで戻ってきた。今度は紺色のジーパンに「スパイダーマン」がプリントアウトしてあるTシャツを着た姿だった。


「失敬!失敬!目が覚めたよ」


 光太はそんな彼の姿を(なんだこの人は・・・)と思いながら見つめた。


 男はペットボトルのお茶を飲みながらようやく光太の存在にも気がついたのか


「涼・・・誰さ?そいつ?」


 光太を指を刺した。


「ああ、こいつは後輩の天野光太だ」

「はじめまして天野です」

 光太が名乗ると男はモジャモジャとした癖のありそうな髪を片手でかきあげながら光太を見つめた。

 光太と男の視線が合う。男の黒い二つの眼球は透き通っているようにも思えた・・・。光太は思わず視線を逸らした。何故か「このまま見つめ合っていると自分の全てがさらけ出されて最終的には丸裸にでもされてしまうのではないか?」とよくわからない不安定な気持ちになってきたのだ。そして心の中がざわざわとするような不思議な胸騒ぎを覚えた。


(・・・俺はなにを考えているのだ?)


 こんな奇妙な感覚を味わうのは生まれて始めての経験だった。光太を見つめたまま男は


「ふーん・・・なんというかあれだな。あれなイメージだ・・・」


と言った。


(『あれ』ってなんだよ!?)と心の中で光太は思った。

 戸惑っている光太をさらに観察しながら男は


「うーん・・・そうそう・・・カツカレーなイメージ!」

と叫んだ。


 「まるで意味がわからない」と思ったが、光太は自分が今日の昼飯に食堂で「カツカレー」を食べた事を思い出した。


(え?もしかしてこいつはそのことを言っているのか?)と混乱していると


「・・・イチゴジャムパン、ブリの照り焼き、醤油ラーメン・・・」


とも男は続けた。


「!?」それらはそれぞれ光太が今日の朝、昨夜の夕飯と昼飯に食べたものだった。


(なんでわかるんだよ?)


 さらに混乱した。

 そんな光太の様子を見ながら


「天野、こいつは同じ学科で同学年の早先見(はやざきみ) 千里(せんり)だ。こんなお化け屋敷みたいなところで一人暮らしをしている。」


 涼が男を指差しながら言った。


「はやざきみ・・・せんり・・・?」


 珍しい名前だったので光太は思わず呟いてしまった。

「今、変な名前と思ったかい?」


と千里は光太に向かって聞く。


正直、変な名前と思ってしまったが「いや、そんなことはないですよ。」と首を横に振りながら社交辞令を言うと


「いいよ。いいよ。よく言われるからさ。」


と何故か涼が返してきた。


「なんで涼がそう言うのさぁ!僕のセリフじゃないかそれ。」

「いつもそうだろうが。天野は今一人暮らしをするための家を探しているんだ。」

「ああ、山だらけの市街地外れの実家からの通学は大変だからね。」


と千里は頷いた。


 「!?!?」千里は光太の家場所の事まで言い出した。(まただ・・・・俺のことを先輩がこの男に話したのだろうか?)


「で、周りが山だらけの実家住まいで、生まれてこの方女の子とまともに恋愛したこともない天野君とやらを何故、僕の家に連れてきたのさ?」


と千里はソファーの上であぐらをかきながら涼に聞いた。


 「!?」光太は千里の失礼な物言いに腹を立てながらも同時に再び驚いた。そんな光太を見て千里は

「あ!やってしまった!」というバツの悪そうな表情をした。


(さっきからこの男は一体何なんだ!?)


 「光太の昨日今日の食事メニュー」「実家の場所」を言い当てた上で今度は「生まれてこの方女の子とも恋愛したことがない」との事実の指摘をしてきた。そのことに関しても真実で反論は出来ないが、「恋愛したこともないような」という予想的な言葉はなく、「恋愛したこともない」と断言されてしまったのだ。初対面のはずなのに何故、そんなことを、さも昔から知っているかのごとく言い切れるのだろうか。


 (皆川先輩が、やっぱり俺のことを話したのか?)と光太は再度、考えてもみたが、そんな自分の恋愛に関してのピュアな事情を涼に語った覚えなどなかったはずだ。困惑している光太を涼は見ながら


 「え?天野、お前って生まれてこの方彼女がいなかったのかよ!?」


と驚いていた。その目には若干、憐れみを含んでいるようにも見えた。やはり涼が千里に教えた訳ではない。


 (それに関しては言いだろう!もう触れるなよ!)と、光太は心の中で叫んだ。

 その心の叫びを聞いたかのように千里は光太に向かって


「あ・・・秘密だったのか。ごめんなぁストレートに物事を言ってしまう悪い癖でね・・・」と感情が篭っていない謝罪をしながら涼を見て「で、なんでさ?」と話題を切り替えた。


「ああ・・・本題に入ろうか。天野をここに連れてきたのは理由があるんだ」


と涼はようやくここに来た目的を語るようだ。光太はあまり触れて欲しくない事実を今はこれ以上詮索される必要がないと思い、「ホッ」と安心した。


「ここに大学からすぐ近くの広い屋敷に住んでいながら、良い年こいて自己管理できない上に寝過ごして大事な講義をサボる男がいる。」

と涼は右手で千里に向けて指を差した。

「本当のことでも酷くないかそれ!?」


と千里は口を尖らせたが、それを涼は無視しながら


「こちらには自己管理出来るが、現在は通学に不便な場所に住んでいて、大学の近くで一人暮らししたいと考えている部屋を決めかねて困っている、悩める青少年がいる。」

と左手で光太を指した。そして


「お前ら二人、一緒に住め!」


と言った。

 しばし、部屋に沈黙が訪れた。それから、


「「ハァ?」」


 思わず光太と千里は同時に声を挙げてしまった。


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