転生少年は世界に惑う(前)
「……」
何やらガヤガヤと声が聞こえる。しかし、何を喋って居るのかは分からない。
なんで分からないんだ?……あぁ、トラックに引かれたんだっけ。
頭がやられてんのかな。そりゃ理解できないわ。
とりあえず、死ぬ前の最後の楽しみとして何でガヤガヤしてるのか考えてみようか。サイレンは聞こえない。ということは、恐らく血塗れの俺を見つけた人達が騒いでるのか?
いや、それにしてはなんかこう……変態が居るから見てみろよ!みたいな雰囲気を感じるんだが。
てか俺、いつまで生きてんだよ。痛みを感じないうちにとっとと逝けよ。この後辛いだろ。
なかなか死なないので、出るはずのない声を出してみる。
「……あ」
あれ?出ちゃった。
え、何?死んでないの?体ぐっちゃぐちゃでしょ?多分。
戸惑っていると、
「キミ、どうしたんだ。立てないのか?」
声かけられた。
いやいや、どう見たって無理でしょ?思い切り血、出てたよね?
「……血?」
「はぁ?」
なんかキレられた気がするけど、今は気にしない。気にしていられない。
何故か血の感じが無いのだ。べっとりしてさらさらで、生暖かくて冷たいあの感じが。
そう言えば、地面も違う気がする。少なくともアスファルトでは無い。じゃあここは?
「よいせっ、と」
体が宙に浮く。否、引っ張り挙げられている。
そして肩に腹を押されるような格好で、つまり担がれて、俺は何処かに運ばれていく。
その時、人々の格好が目に入る。
あれ?コスプレパーティ?
整理のつかない俺の頭は、そんな感想しか思いつかなかった。そしてそれらが頭の許容範囲をぶち破り、視界は黒に染まっていった。
◇◇◇
見知らぬ白い壁。周りを見渡して、それがやっと天井だと認識できた。
「どうなってる……」
どうなってしまったのか。色々と仮説を立ててみる。しかし俺の脳は、ある言葉を浮かべるのを拒否しているみたいだった。だってありえない、ありえるわけがない。
だが次の瞬間、嫌が応にもそう思わさざるを得なかった。
隣のベッドの――一応、俺もベッドで寝ている――少女がむくり、と起き上がる。
「お腹が空きました……」
「う、うん?」
今なんて言った?
よく見てみると、お腹に手を当てている。 なるほど、隣で寝ていた少女はお腹が空いているのだ、多分。
そんな少女の容姿に目を奪われる。 髪は薄く青みがかった銀髪。 コスプレとかに使われるウィッグとは比べ物にならないくらい美しく、馴染んでいる。
かわいいかどうかと言われれば、とんでもなくかわいい。 だがそれが、逆に服がボロボロであることを引き立てていた。
多分歳は下、だと思う。この世界の数え方は知らないが、日本で言えば中学生くらい。
うん。こりゃ異世界だわ。
と、変な確信を得た所で、少女がこちらを見ていることに気がついた。
嫌そうな目で。
……俺まだ何もしてないんだが……? いや今後なにかする訳でもないけど。
とにかく、この気まずい雰囲気をどうにか……。
「あ、あの」
「おー、起きたか!」
「さァっ!?」
静かだった部屋に、突然の第三者の登場に思わず声が裏返る。
その人物をよく見てみると、筋骨隆々といった言葉が似合いそうな男だった。
しかし、やはり何と言ったかは分からない。まさか知らない言葉なのだろうか。
「起きなかったらどうしようかと思ったぞ」
「私、何も食べていなくて……何か食べさせていただけないでしょうか?」
「そうなのか? そうだな、何か食いに行くか!」
「やべぇ、分からん」
少女と男が部屋から出ていく。
俺も、男が目で『行かないのか?』と呼び掛けてきた気がしたので、おそるおそるついて行く事にする。
「これ……大丈夫だよな?」