エピローグ
自分の部屋に入ると、舞子はゆっくりと椅子に腰を下ろした。
そして机の上に両手を投げ出し、力なくうつ伏せになった。
5分程経った頃だろうか‥
「ねえ、舞子。」
傍らに置いた鞄の中から声がした。
しかし、舞子は反応しなかった。
「ねえったら!」
ようやく、舞子は顔だけを横に向けた。
其処にいたのは、鞄の縁から顔だけを覗かせたコロボックルだった。
「なに?マコ(女性コロボックルの名前)。」
舞子は力なく尋ねた。
マコはそんな彼女にお構いなく訊いてきた。
「舞子は本当は目が見えるの?」
「私に嘘をついていたの?」
舞子はふーっと溜息をついた‥。
「そんな訳ないでしょ。マコが教えてくれなかったら、私に周囲の状況なんて分かる訳ないでしょ。」
「今日だって、マコが教えてくれなかったら‥‥」
そう言いかけて、舞子は顔を伏せてしまった。
こみ上げてくる複雑な想いと、溢れ出す涙のせいで、話す事がままならなかったのだ‥。
「舞子、あの人の事が好きだったんだね。」
「あの人が嘘つきじゃなかったら良かったのにね‥。」
舞子は、返事をしなかった‥。
それから1ヶ月が経っていた。
あの日以降、舞子の元へ大野からの電話はかかってこなかった。
舞子は元気がない。合唱サークルの活動にすら欠席が続いている。
最近の舞子は部屋に引きこもり気味だった‥。
そんな彼女にマコが言った。
「ねえ、舞子。あの人に電話してごらんよ。」
「そして、もし彼が電話に出たら、また会ってやり直すといいよ。」
マコの言葉を聞き流していた舞子だったが、彼女の物言いが引っ掛かった。
「ねえ、マコ。」
「おかしくない?『もし』ってどういう事?」
「普通、電話がかかってきたら誰だって出るでしょ?」
舞子はマコに尋ねた。
マコは困惑した表情を見せ、なかなか答えようとはしなかった。
「ちょっと、マコってば!」
舞子に詰問され、マコは重い口を開けた。
「舞子、落ち着いて聞いてね。」
「私たちコロボックルには、人間と暮らす際に守らなければいけない、決め事があるの。」
「それは、もし自分が人間に嘘をつかれたら、その人間を殺さなければいけないという決まりなの。」
「この前、最後にあの人と別れた際、あの人の車の後部座席にコロボックルがいたのよ。人間界に出て来たばかりだったと思うの。きっとあの後、あの人と一緒に暮らし始めたと思うの。」
「だから、もし今でもあの人が生きていたら、それはあの人があれ以降嘘をついていないって事だから。」
「だったら、もう一度チャンスをあげてもいいかなって‥‥」
「?!」
舞子は跳ね起きた。
「何で教えてくれなかったの!」
舞子は、慌てて自らの携帯電話を取り出した。
そして、リダイヤルリストの一番上にあった大野の番号にすぐに電話をかけた。
(‥‥お願い、浩さん、電話に出て!)
舞子の周りを不吉で異常な緊張感が覆っていた‥。
耳元で呼び出しコールが聞こえる。
1回、‥2回、‥3回‥
彼はまだ電話に出ない‥。
ーおわりー




