表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

マリヤの災難

 ウィリアム王子をつねに護衛している騎士は、エリアス・ブランドンと言って、魔術師のことをよく知っているようであった。彼がマリヤに一体なにをして殴られたのか噂を確認がてら聞いてみると、その現場を間近で見ていたという。頭痛を押さえるように目元を覆って首を振り振り、

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、あれほどとは思わなかった」

などと言う。ただの知人には、そこまでは言えないだろう。台詞に、かなりの気安さが含まれていた。

 アドリアン・ターナーは、マリヤから魔術の効きにくい体質について話を聞くと、なんの前触れもなく屈みこんで彼女の左手首と右足首に二指をあて、魔力(マナ)を通してみたらしい。驚いたマリヤは悲鳴をあげて、手に持っていたお盆を両手でもって力の限り振り下ろした。それはもう素晴らしい勢いで、アドリアンの頭にはたんこぶができたようだ。あのお盆は、なかなかの強度があるようで、たんこぶだけですんで幸運だったとは騎士の言である。

 ただ確かめようと思っただけで、本人にはそれ以上何の意図もなかったらしい。確かに役得だからと言ってしっかり触る気があったら逆にもっと気を配っていただろう。しかし、前触れもなくそんなことをしたら、殴られても文句は言えないのではないか。足を隠すのが基本であるここの装束からして、リリアナの感覚以上に足首を触るのはダメな気もする。試しに、男性が女性の足首を触るのは、よくあることなのか聞いてみると、例え夫婦の間柄でも寝室以外ではありえない破廉恥な行いだとのこと。

 もしかしたら魔術師としての能力は高いのかもしれないし、本人の言うとおりエリートだったりするのかもしれないが、リリアナから見れば社会的な能力がスコンと抜けているようにしか見えない。

「あの男ーーターナーは、魔術師としては一流の能力がある。あるのだが、一流らしさというものがまったく欠けている。こんなところでフラフラとしているのも、そのせいだろう。リリアナ嬢も、あれに大人の対応とか、気づかいを期待しないほうがいい」

「まぁ……、そうですわね。それにしても、やはりこの離宮は出世から離れた場所ですのね。来客もございませんし、周囲は大きな森ですものね」

 エリアスは意外そうに、ちらとリリアナを見やった。

「知らなかったか」

「わたくし、王子さまの傍から離れられないんですの」

 リリアナは、契約に縛られている。王子が、その生涯を終えるまでは一定距離以上を離れて存在できないのである。

「ここしか知らずに推測できるのなら、大したことだ」

「何も知らないわけではございませんから。昔は、人間として生きておりましたし」

「ふむ、確かに。ターナーよりは随分と世慣れているようだ」

「それは、比較の対象が悪いんじゃございません? わたくしも、大した人生経験はございませんよ。外を出歩くことがほとんどありませんでしたから」

「直接体験したことだけがすべてではあるまい。書物でも、ある程度の洞察力は得られよう」

「アドリアン様は、そもそも洞察する気がなさそうですわね」

「否定できぬな。エリートと言い張るわりには、政治に興味がない」

 エリアスは、それを悪口として言ったわけではなさそうであった。リリアナには、その事こそを好ましく感じているように見える。何があったのか、もしくは元よりそうだったのかもしれないが、エリアスこそが政治には関わりたくないと強く思っているようであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ