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理想の容姿

 

 リリアナは、今の自分の容姿がけっこう好きだ。実体がないわりには人種が違う設定なのか、白すぎる肌。華奢で、すらりとした肢体。薄い色の金髪に、やや紫がかった水色の瞳。顔立ちの美醜は、今ひとつよく分からない。妖精の姿を写し出す唯一の品、リアクリスタル鏡は、妖精になって日の浅いリリアナをハッキリは写さなかったし、今はそれも遠い場所にある。しかし、まっすぐの髪はさらさらしているし、爪は淡いながらも桜色、できものも発疹もない肌はなめらかで、痛みも目眩(めまい)も痒みすら感じたことはない。実体がないのだから当たり前であるのだが、彼女には、それが何より嬉しいのだ。背中に蜻蛉(とんぼ)みたいな羽根があるとか、 肌の色が今ひとつ健康的でないとかーしかし、彼女の希望するよく日に焼けたような肌色をした妖精など、彼女自身ですら見たことはないのだがー、もっとメリハリのある体型がよかったとかの不満は、まったく些末なことであった。

 が、若い侍女のひとり、マリヤがまさにリリアナの理想を具現化したような容姿をしているのである。気にならないわけがない。やや浅黒い肌には艶があり、濃い色の金髪は今は纏められているがピンを抜き、紐をほどけば豪奢に波打つ。輪郭のはっきりとしたセピアの瞳は大きく派手で、肉厚の唇はつやつやと潤っている。背が低めではあるが、そのせいで胸と腰が張って、ウエストのきゅっと絞られた体型が際立っている。今も、算術の講義を受ける王子のそばで控えている彼女をじっくり観察している。と、本人から不安そうに聞かれた。見た目のイメージに反して、臆病なところのある侍女は、その不安そうな様子ですら色っぽい。

「リリアナさま、あの、どうして私の方ばかり見ていらっしゃるんでしょう」

「マリヤは美人ですわねぇ。わたくし、マリヤみたいになりたかったですわ」

「へっ?! な、なにを一体……」

「だって、金髪は豪華ですし、唇ぷるぷる、目はパッチリキラキラ、スタイル抜群、じゃありませんか」

「そんなことありません!」

 強く反論しながらも声を潜め、動揺している。そのようすが同性のリリアナから見ても可愛らしい。

「それに、健康的な肌色もいいですわ」

「え、あの、この肌……ですか? 血統の特徴ですし、あの、エリラヤの血の証、というか」

 肌色に言及すると、目に見えて動揺と困惑が深まった様子をみせる。何か、リリアナには分からない事情があるらしい。この世界、国、社会的慣習について、かなり予備知識が不足している自覚はある。

「? 何か、ありましたかしら」

「ご存知ないのですね。呪われた血筋として有名なのですけれど」

 さっとマリヤを眺めて、魔法の気配が皆無なのを改めて確認しつつ、しれっとした表情かおでリリアナはこたえた。

「ああ、そうなんですの? まぁ、国により、地方により色々あるんでしょうけれど」

「あの、リリアナさま。呪われているのですよ?」

 マリヤが念を押すように言う。これ以上ないほどの健康体で。まぁ、魔法耐性は高そうだから、もしかしたら魔法がかなり効きにくい可能性はあるかもしれないが。リリアナは内心、苦笑を禁じ得ない。

「でも、少なくともマリヤには、なんの呪いも加護もございませんし、健康体に見えますけれど」

「えっ、でも、あの、皆があの一族にかかわると呪い殺されると」

「一族で魔術や呪術を扱ってるんですの? 違いますでしょう?」

「それは……、そうですが」

「でしたら、それは思い込みですわ。それと、その思い込みから来る心理的圧迫」

「思い込み、と、心理的アッパク……」

 ちょっと難しすぎることを言ってしまっただろうか? 完全に思考が停止しているマリヤを横目にリリアナは考え考え口にする。

「呪い殺されるかもしれない、といつも思っていれば、不安にもなりますでしょう? ずうっと不安を持っていれば、病気にもなろうというものですわ」

「不安から……病気に? ですが、あの」

「わたくし、逆の可能性を思いついたのですけれど、聞いていただけますか?」

 リリアナは、ほとんど相手のいらえを待たずに自説を披露ひろうする。

「マリヤの一族は、もしかしたら、呪いや魔法が効きにくい体質なのではないかしら。他の人と同じ魔術や呪術を受けても、その人だけ影響を受けなかったのかもしれないわ。それは、現象だけ見れば、近くにいると呪われるように見えるかもしれませんわね」

 驚きすぎて、もう言葉もないという様子のマリヤに、魔術師に体質について訊いてみるように助言する。そうしてウィリアム王子を数あてマジックで驚かそうとマリヤのそばを離れた。

 後日、魔術師がマリヤに銀のお盆がへこむほど殴られたらしいという噂が聞こえてきた。魔術師に訊けという助言は、マズかったかもしれない。


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