表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

病気の少女

■回想


 ととのえられた、細く、すこし骨張った指が、ていねいに前髪を上げて額に触れてくる。薬の副作用で、赤く発疹がひろがっている、額。こんな汚ない肌なんか、見なくてもいいのに。

「かわいそうに……。痛いんじゃないか?」

 痛ましそうな兄の表情に、胸がくるしくなる。

「へいき……。ちょっと、かゆいだけだから」

 塗り薬で指が汚れるからと、離すようにお願いすると、兄はつらそうに眉を顰めた。替わってやれればいいのだがと、小さくつぶやく。いつものように。

 そう、いつものようにわたしは顔色がおかしくて、今日は発疹で真っ赤だ。その前は薬で弱った内蔵のせいで黄色くて、その前は血の気が引きすぎて青黒かった。いつも、浮腫んでいてふつうの時がない。そして、いつも兄はつらそうにする。それがわたしには、つらい。

 今日だって、本当はもう起き上がれるはずだったのに、身体を起こしていられない。心配かけたくないのに。

 やさしい指が、前髪を整えて、わたしの頭をなでた。

「そばにいられなくて、悪いな。しばらく出張で戻れないんだ。土産は何がいい?」

「気にしないで。兄さんが無事にただいまって来てくれるのが一番。無理しないでね」

「莉奈こそ、無理はするなよ、後生だから」

「後生だからなんて、兄さんは古いこと言うのね。お爺様みたいよ。わたしはへいき。おとなしくしてるわ」

 動きようにも、身体がついていかないけど、という言葉は秘めておく。これ以上、兄を悲しませるのはナシだ。わたしのせいで、このひとは無理をしている。わたしの様子を見るために、余分に帰ってきてくれている。兄の部下の人にも、この間、仕事を邪魔していると言われてしまった。

 でも、それも、あと少しだろう。もう身体がもたないことは分かっている。お医者様には無理を言って、少し黙っていてもらっている。だってもう、多分、打つ手なんかない。兄が知ったら、それでも必死になって仕事を抱えたままで駆けずり回るだろう。それでは兄の方が参ってしまう。

「じゃあ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、気を付けてね」

 兄は出掛けていった。わたしは、兄の帰りを待てるだろうか? 待てるかもしれない、それとも、もう保たないだろうか? 待てるとして、それは、あと何回だろう?




 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ