病気の少女
■回想
ととのえられた、細く、すこし骨張った指が、ていねいに前髪を上げて額に触れてくる。薬の副作用で、赤く発疹がひろがっている、額。こんな汚ない肌なんか、見なくてもいいのに。
「かわいそうに……。痛いんじゃないか?」
痛ましそうな兄の表情に、胸がくるしくなる。
「へいき……。ちょっと、かゆいだけだから」
塗り薬で指が汚れるからと、離すようにお願いすると、兄はつらそうに眉を顰めた。替わってやれればいいのだがと、小さくつぶやく。いつものように。
そう、いつものようにわたしは顔色がおかしくて、今日は発疹で真っ赤だ。その前は薬で弱った内蔵のせいで黄色くて、その前は血の気が引きすぎて青黒かった。いつも、浮腫んでいてふつうの時がない。そして、いつも兄はつらそうにする。それがわたしには、つらい。
今日だって、本当はもう起き上がれるはずだったのに、身体を起こしていられない。心配かけたくないのに。
やさしい指が、前髪を整えて、わたしの頭をなでた。
「そばにいられなくて、悪いな。しばらく出張で戻れないんだ。土産は何がいい?」
「気にしないで。兄さんが無事にただいまって来てくれるのが一番。無理しないでね」
「莉奈こそ、無理はするなよ、後生だから」
「後生だからなんて、兄さんは古いこと言うのね。お爺様みたいよ。わたしはへいき。おとなしくしてるわ」
動きようにも、身体がついていかないけど、という言葉は秘めておく。これ以上、兄を悲しませるのはナシだ。わたしのせいで、このひとは無理をしている。わたしの様子を見るために、余分に帰ってきてくれている。兄の部下の人にも、この間、仕事を邪魔していると言われてしまった。
でも、それも、あと少しだろう。もう身体がもたないことは分かっている。お医者様には無理を言って、少し黙っていてもらっている。だってもう、多分、打つ手なんかない。兄が知ったら、それでも必死になって仕事を抱えたままで駆けずり回るだろう。それでは兄の方が参ってしまう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
兄は出掛けていった。わたしは、兄の帰りを待てるだろうか? 待てるかもしれない、それとも、もう保たないだろうか? 待てるとして、それは、あと何回だろう?