妖精リリアナの食料(?)事情
リリアナの食料(存在力を丸ごと取り込んでしまうので、人間がいうところのそれとは少々違うのだが、便宜上そう呼ぶことにした。)は、公的には角砂糖と、花びらと、蜂蜜である。聞かれたのでそう答えただけで、本当は他にも色々摂取できる。現に王子さまに見つかるまでは、地面に落ちた枯れ枝や枯れ葉を、自分の手のひらほど折り取って摂取し、五分とかからず姿を消していた。他にも、庭の大樹から分けてもらった落ちたばかりの葉や、落ちたばかりの花びらなども摂取したことがある。木についている葉や実をとることはできない。意思や魂のあるものから妖精が存在力を得ることができないようになっているのだ。
食料とは言っているが、リリアナが味を感じることはない。ただ、ある程度は姿をあらわしていないと、自我が崩れて消滅する危険があるのだ。なので、ずっと義務的な摂取はしていた。しかし、ある時気がついたのだ。味はないが、ものによっては香気というのだろうか、香りのような、そうでもないような何かを感じることがあると。それが、花びらであり、角砂糖であり、蜂蜜であった。どこで、その香気を知ったかと言うと、角砂糖と蜂蜜は、この離宮の家付き精霊から頂いたおすそ分けである。でなければ、どこかから盗んだことになってしまう。そんなことは、していない。断じてしていない。ちなみに花びらは、落ちたばかりのものを運よく見つけたのだ。
ここの家付き精霊は、小さな子供のような姿で、身体はリリアナとそう変わらないくらいだが、とにかく長く居ついていて、精霊のくせに人格や魂らしきものもある。彼が機嫌がよいときには、習慣で調理場に供えられているミルクや砂糖、蜂蜜などを分けてくれることがあるのだ。彼は、この離宮を久しぶりに活気づけてくれた王子さまを、それはそれは気に入っていて、お優しいの賢いのとまるで身内のように自慢してくるのだ。孫を自慢するお爺ちゃんのようだ。見た目こどもなのに。喋りも心なしかじじくさい。
そんなわけで、望めば必要なだけ角砂糖や花びらがもらえる今の状況は、リリアナにとっては過ぎるほど贅沢といってよかった。なんだか飼われているようで、心情としては微妙であるが。末端の使用人に至るまで、誰ひとり彼女を捕らえようとはしないし、ほぼ客分の扱いなので、リリアナとしても逃げる理由がない。何より純粋に慕ってくるウィリアム王子が可愛くてしかたない。
この王子さまときたら、驚くほどに純粋培養で可愛らしいのだ。思い通りにお喋りに興じられるお茶の時間を心待ちにしていて、嬉しそうに今日習ったことを教えてくれる。……リリアナも、八割ぐらいのお勉強は室内で眺めているのだが。とにかく、リリアナとお話しできるのが楽しいようであった。