不思議な生き物たち
この世界には、リリアナの前世と違い、一定数の不思議生物がいる。魔力をもっている生き物で、魔獣と呼ばれている。大抵の場合は、大して害はない。いわゆるダンジョンのような場所に棲息しているものは別として、ただ不思議な生態をもっているだけである。
この離宮の庭師が飼っているのも、そういった魔獣のひとつだ。見た目としては、手のひらサイズの白い毛玉である。庭師を飼い主と認識しているのか、よく足元に転がっていて、ふわふわ君と呼ばれている。ふわふわ君は、大人しく、たとえうっかり踏んづけられても吠えたり噛みついたりしない。庭師が指で摘まんだ害虫を与えると、大きく口を開けて食べる。餌を与えなくても文句は言わず、逆に与えすぎるのはよくないそうだ。大きくなりすぎると膨張して、一瞬だけ火を吐いて、もとの大きさに戻る。火を吐いても、どこかに燃え移ったりはしないらしい。
燃え移ったりはしないが、白い毛の先が、ちょこっと焦げる。庭師によると、白い毛がもとに戻るまでは、ちょっぴり元気がないのだという。
ちなみに魔術師は、ふわふわ君に手ずからマナを与えてみたところ、火を吐かれて手に火傷をしたことがあるらしい。この男は、こういった子供じみた行動の逸話だらけである。
不思議な生き物と言えば、キラキラさんというものもある。ごく軽い虫の一種らしく、突然大量発生して風に乗ってひたすらキラキラしている。キラキラしているだけで、特になにも起こらない。聖性魔力に親和性があるとかで、いわゆる聖女様が近くにいると、引き寄せられるように寄っていく。見た目には非常に美しい。捕まえても1日と生きてはいないので、偶然に聖女候補が発見されるのに役立っているくらいがせいぜいで、それ以上は利用のしようがない。
もっと獣らしいものもある。銀色ウサギは、まんま銀色のウサギらしい。異様に足が早くて防御結界が張れるらしく、追い付けないし、ビックリするほど矢が当たらない。死んでしまうと、毛がごっそり抜けて消えてしまうらしいので、銀色の毛皮を得ることはできないのだそうだ。しかし、肉は普通にウサギ肉なのだという。普通のウサギより遥かに捕まえにくいのに、肉はより筋張っていて食べにくいから、わざわざ捕まえて食べるものはいないようである。
不思議な世界だとリリアナは思う。いつか契約を終えたら、世界をどこまでも旅してみたいものだと。
ところで、リリアナだけしか知らないことだが、ふわふわ君は、時々ご機嫌そうに歌をうたっている。人間には聞こえないのだ。子供みたいに単純な歌である。
『るっく、るっく、かっこいい~♪』
庭師の名前はルークだし、リリアナの目には普通の壮年の男性に見える。少しがっしりしているだろうか。その後には、出鱈目に誉め言葉を並べていたようなので、あまり意味は分かってないのかもしれない。ふわふわ君は、庭師のそばにいると何だか楽しそうで微笑ましく感じるリリアナだった。
なんか少し手が滑ったような。そして、アドリアンの方向性がおかしいような。