表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/29

『死神』

■回想


 それは最初、ぼんやりとした黒い塊にしか見えなかった。空気に滲むような黒い、何か。見えたり、見えなかったりを繰り返している。家政婦や看護師は見えているようではないので、多分わたしにしか見えないのだろう。

 そして、ある時はっと思い付いた。

(死神……。)

 わたしにしか見えないのなら、死神かもしれない。そう思ったとたん、それはハッキリとした姿をあらわしたようだった。

 それは、黒いマントで顔を覆い隠した人の姿だった。もう空気に滲んでいるようには見えない。

「意味付けが終わったか」

 ばさりと音をたててマントの下からあらわれたのは、まさに白皙といっていい、おそろしく白くうつくしい顔貌だった。病人そのものの、わたしの青い顔とはまったく似て非なる、白い、肌理(きめ)の細かい肌。黒々とした長い癖のない髪が、絹糸のようにさらさらと(こぼ)れて黒衣の肩を飾っている。人種の違いを感じさせる彫りの深い顔で、落ち窪んだ目元は鑿で削ったようにくっきりとしている。うつくしいが、女々しくはない。顔の輪郭は男らしくしっかりとしている。秀でた額の真ん中には、赤黒い刺青で、大きく第三の目が紋様のように描かれていた。焔を宿した瞳が、闇のなかからこちらを見ている。

 わたしの口から絶望の溜め息がこぼれた。あぁ、この部屋はこんなに暗かっただろうか? 先刻までは、その窓の外には明るい日差しが届いていたはずなのに。もう、ここはこの世ではないのだろうか?

「わたしは、もう死ぬのかしら」

 呟くような、小さな声には(いら)えがあった。低い滑らかな声、そして意外な答え。

「近いであろうが、今ではない。娘、名を名乗れ」

 戸惑いながら、ちいさくフルネームを名乗ると、さらに要求があった。

「では、私は何に見える? 答えよ」

「死神……」

 それを聞くと、相手はふっと口許だけで微笑んで言った。

「では、私は『死神』だ。リナ、私のことは『死神』と呼ぶがいい」

 そうして『死神』は、わたしに思いもしなかった提案を持ってきたのだった。

回想は、ここまでです。迷走系小説は、細切れなのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ