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コンチェルト。アゲイン  作者: 煮込みハンバーグ
14/51

14【茅花流し】

  【茅花流し】


「ええっ!? お兄ちゃんテレビに出るの?」

「聖雪、うるさいぞ。それに俺が出るわけじゃなくて、うちのサッカー部が出るんだ」

「でもでも、テレビに映るかもしれないんでしょ?」

「あのな、正規の部員で無い上に雑用係がテレビに映るわけないだろ」

「まあ、確かにそうだよねー」

 何故か上がった聖雪のテンションを下げさせ、俺は晩御飯のハンバーグを箸で一口大に切って口に放り込む。

 今日、部活終わりに、明日の部活に地元のローカルテレビ局が、夏のインターハイの代表校を取材するというシリーズ企画で、男子サッカー代表のうちを取材する事になったらしい。

 俺は、聖雪に説明した通り選手でもなければ正規の部員でもない、ただの雑用係だ。今回の話にはまったく関係ない。どうせ取材を受けるのは、キャプテンの佐原、顧問の先生、後は十五歳以下の日本代表という話題性のある神崎くらいだろう。

 しかし、やっぱり何処にでも目立ちたがりは居るもので、うちのサッカー部でもテレビ出演に異様な期待と興奮を持っている奴もいる。結局は数分間のコーナーなんだから、話題性のない奴は集合時の映像くらいにしか出番はない。

「ごちそうさま」

「お兄ちゃん、今から香織ちゃんに電話?」

「ん? ああ、何か言っておく事あるか?」

「ううん、自分でメールか電話するからいい」

「じゃあなんで呼び止めて確認したんだよ……」

 二階に上がって部屋の扉を閉めて内鍵も掛ける。聖雪の不法侵入に対するせめてもの対策だ。

 机の上に置いてあったスマートフォンを拾い上げ、電話帳に登録された香織の番号をタッチしようとして、その指を止める。

「先にメールしておくか」

 もしかしたらいきなり掛けても出られない状況かもしれない。俺は香織に『今大丈夫?』と簡単なメールを書いて送信する。そして、一度机の上にスマートフォンを戻そうとした時、手の中でスマートフォンが震えた。

「もしもし香織?」

『優一さん、こんばんは』

「今大丈夫?」

『うん、待ってたし』

「待たせたのか、ごめんな」

『えっ? ううん、全然大丈夫! それに私が待ちたかっただけだから』

 電話の向こうから、少し照れた少し慌てた香織の声が聞こえる。

『もう七月なんて早いね』

「そうだな、もうすぐ夏休みだと思うと……憂鬱だ……」

『なんで憂鬱なの?』

 笑う香織の声が聞こえて、その笑い声を聞いて俺は電話越しに口元が緩む。

「だって夏休みなのにほとんど休み無しだしさ。まあ、全国大会を控えてるから仕方ないけど」

『今年は夏合宿もインターハイがあるから無いしね』

 うちのサッカー部は、毎年夏休みにはちょっと遠方へ泊まり掛けの合宿があるのが伝統だ。俺も一年の時に参加したが、あれは地獄だった……。

「合宿って言っても、俺は毎日洗濯と買い出しに追われてた覚えしかないな。部で、予備にって持って行ったタオルフル活用だったし。まあ、今はそこまで大変じゃないとは思うけど」

『私は去年の合宿嫌だったなー』

「なんかあったのか?」

 少し暗い香織の声に不安が湧いて出る。

 男ばかりのサッカー部で、もしかしたら香織は少し嫌な思いをした経験が――。

『だって、四日も優一さんのお見舞いに行けなくて。聖雪ちゃんには、部活ならしょうがないってお兄ちゃんも許してくれるって言ってもらったけど』

「なんだ、そんな事か」

『そんな事って、私にとってはすごく重要な事だったの』

 ホッとする。良かった、何も無かったんだ。そして嬉しくなる。その頃から、香織にとって俺は一番だったんだ。

『明日のテレビ取材ちょっと緊張するね』

「俺は適当に仕事作って逃げておくから問題無し。それに、佐原と先生のインタビューくらいだろ、撮られるのって」

『だよね。…………私は、優一さんが頑張ってるの知ってるから。今日だって一年の子にベッタリくっつかれてニコニコデレデレしてたし』

「褒めてるのか怒ってるのか、どっちなんだよ。それに聞かれたら教えるのが普通だろ」

『優一さん変に優しいし丁寧だから、みんな優一さんに何でも聞いちゃって、二ノ宮先輩は楽できるって喜んでたけど……。優一さんの彼女としては不安です』

「なるほど、だからキスしてる時、今日はなかなか手を離さなかったのか」

『だ、だって……』

 少しからかってみると、照れて拗ねる香織はやっぱり可愛い反応をした。何度言えば分かるのかとは思うが、不安なのは俺も一緒だ。

 香織は可愛い。最近、なんだかますますその可愛さが激増したように思える。ちょっとでも気を抜いたら、いつの間にか他の誰かに奪い去られてしまいそうな、そんな不安を感じている。

『優一さん』

「ん?」

『実はね。今日、別のクラスの男の子に告白されたの』

「えっ……」

 聞こえた言葉に頭が真っ白になる。

 懸念していた矢先に、香織が告白された。

 相手は? 別のクラスって言ってたから同い年か。

 どんな奴だ? 部活をやってるスポーツマンタイプか? それとも勉強の出来る優等生タイプ? もしかして、ちょっと悪い感じの不良タイプ?

『ねえ、優一さん? 聞いてる?』

「あ、えっと、告白されてどうしたんだ?」

『どうしたって、断わったに決まってるよ。でも、隠してるとなんかやましい事したみた いで嫌だったから報告』

「そうか、ちなみにどんな奴だったんだ?」

『気になる?』

 少し、香織の声が嬉しそうになった聞こえた気がする。

「ま、まあな」

『一年の頃同じクラスで、委員会が同じだった人だよ。確か部活はやってなかったと思う』

「へ、へぇー」

 一年の頃に同じクラスで委員会も同じ。だとしたら、一年の頃からそいつは香織の事を好きだったんだろうか。

『優しい人だけど、印象はそれくらいかなー』

「そうか、やっぱり香織はモテるな。俺も彼氏として不安だな」

『ちょっと不安になった?』

「大分、不安になった」

 彼女に誰かが告白したと聞いて、不安にならない彼氏が居ないわけがない。

『優一さん』

「ん?」

『大好き』

「おう、俺も香織が好きだ」

『…………電話、切りたくないなー』

 あまり遅くまで電話をしていると、両親から注意されてしまうらしく、そろそろ電話を切らなければいけない時間になってきた。

「明日もまた会えるだろ?」

『そうだね』

「お休み」

『うん…………』

「じゃあ、また明日」

 俺は思い切って電話を切って机の上に置き。目を瞑ってベッドにうつ伏せに倒れ枕に顔を埋める。

 俺だって電話を切りたくはない。でも、どっちかが思い切らないと、ズルズルと引き伸びてしまう。

「明日また会える」

 自分に言い聞かせるようにそう復唱し、風呂に入って早く寝るためにベッドから勢い良く立ち上がった。


 ふざけるな。俺から出た感想は、たったそれだけだった。

 その問題が分かったのは、七月になってすぐ。そして、俺を見ている佐原は俺の肩に手を置く。

「跡野、気持ちは分かる。俺だって悔しい。だが、今はどうする事も出来ない」

 事の発端は、数日前にあったインターハイ代表校に対するテレビ取材。そのテレビ取材を受けたうちの部の映像が、地元ローカル番組の一コーナーで放映された。そしてその映像が話題となったのだ。

『○○高校サッカー部の女子マネが可愛すぎる』と。

 昼休み、佐原に呼ばれて部室棟の裏に行くと、佐原の他に別のサッカー部の三年が何人かその場に居た。そのうちの一人が、画面が見えるように俺にスマートフォンを差し出した。

「インターネットの掲示板で話題になったみたいで、これはその書き込みをまとめて記事にしたまとめサイトってやつだ」

 そいつが表示したスマートフォンの画面には、動画が埋め込み表示されている。どうやらテレビのインタビュー映像でマネージャーが映っている場面を切り出したもののようだ。そしてその下には。

『やっべぇ、超可愛いじゃん!』

『金髪の子も黒髪の子も、他の子もレベル高!』

『俺、ちょっと○○高校に転校してくる』

 そこまでは特に問題になるような事ではなかった。でも、ページを送るにつれて、その書き込みは胸糞悪さを増していく。

『マジ、黒髪ロングの子、俺の好み』

『初々しくエッチなご奉仕とかしてくれそう』

『胸も結構デカイな』

『○○高校の知り合いに聞いたら、名前は駿河香織だってさ』

 笑顔で選手達にドリンク入りのコップを配る香織の画像を見ての感想だ。そして問題なのは、その書き込みの内容もだが、その画像の場面はインタビュー映像には無かった事だ。映像からキャプチャーした画像ではなく、別に撮られた画像だという事。紛れもなく、隠し撮りされた画像だった。

「駿河だけじゃない、二ノ宮も音瀬もやられてる」

「ありがとう」

 俺は持っていたスマートフォンを持ち主に返した。これ以上持っていたら、衝動的に叩き付けて壊してしまいそうだった。

『金髪の子、ヤベェー、めっちゃエロいじゃん』

『ちなみにこの金髪は二ノ宮江梨子。男子の中ではヤリマンだって評判らしい』

『俺、今からやらしてって頼みに行ってくる』

『こっちの大人しそうな子もなかなか良いな』

『そっちは音瀬侑李。大人しくて結構押しに弱そうだってさ』

『あー、香織ちゃんと江梨子ちゃんは無理でも、こっちの子なら俺でも頑張ればヤレそう』

 拳を握り、振り返って走り出そうとする。その俺の肩を、後ろから佐原が掴んだ。

「これが分かったのが今朝。すぐに先生には報告した。学校側も慎重に対応するそうだ」

「慎重って、それ以外にもやる事があるだろ!」

 隠し撮り、いわゆる盗撮は犯罪として取り締まれる。でも、それには警察が情報を集めて、撮った奴を特定し、そいつが犯人であるという確たる証拠が必要だ。それが揃うのに一体どれだけの時間が掛かる? それまで香織達はどうなる?

「俺達が守らなきゃ、誰も守ってくれない!」

 俺は佐原を突き飛ばし、俺は職員室まで走る。

 ふざけるな、香織も二ノ宮も音瀬も、マネージャー陣全員があんな薄汚い奴らに穢されていい存在じゃない。


 職員室にノックをする事も忘れて入り、まっすぐ顧問の先生のところに行く。先生の前に立ち、すぐに本題を出した。

「事態が収束するまで、マネージャーを全員休ませましょう」

「お前もインターネットの件を聞いたのか。だが、まだ学校側としての対応を決めかねている」

「学校とか警察とか、そんな組織の対応を待ってる暇なんてないでしょ! 実際にあいつらは隠し撮りされてるんですよ!」

「バカタレが! 声が大きい!」

 近くにあった椅子の上に引っ張られて座らされ、先生が顔を近付けて小声で話す。

「事がインターネットの事だからもう生徒には広まっているかもしれん。だが、今は職員しか知らん事になっている。あまりでかい声を出すな」

 先生は腕組みをして俺を見据えて何も言わない。だから俺が口を開いた。

「実際に盗撮されてます。しかも多分、いや、確実に撮ったのはうちの学校の関係者です」

 香織達の写っている画像の背景には、どれも学校敷地周りに張られているフェンスが移り込んでいた。フェンスの隙間からとかフェンス越しにならまだしも、背景にフェンスは”学校敷地内”から撮影しないと写りこまない。

 学校の敷地に部外者が堂々と入って撮影したかもしれないが、そんな目立つ行動をしていればすぐに見つかるはずだ。そういう話がないという事は、学校の関係者以外にはあり得ない。

「……マネージャーの仕事はどうするつもりだ」

「俺がやります。それにこんな状況です。みんなもきっと協力してくれるはずです」

「……分かった。部活前に俺がマネージャーを集めて話をする。事態が収束するまでどれくらい掛かるか分からんぞ」

「大丈夫です。俺が一年の時は全部一人でやってたんですから。それを考えれば数段楽に出来ます」

「すまんな。負担を減らすためにお前に頼んだが、お前一人に負担を増やす事になった」

「いえ、大丈夫です。では、出来るだけマネージャーが動揺しないように、よろしくお願いします」

「難しい頼みだが、善処する」

 先生に頭を下げて職員室を出ると、目の前に佐原が立っていた。

「今日ならマネージャーは休みだ。仕事は全部俺がやる。選手はいつも通り練習に集中してくれ」

 俺は佐原にそれだけ言って立ち去る。先生にはああ言ったが、俺がやると決めた事だ、選手達には迷惑を掛けられない。


 放課後、練習開始前にドリンクキーパーの水洗いを始める。ドリンクを作る前に、一旦中の埃等を予め落としておくためだ。普通はマネージャー陣で練習開始後にぼちぼちやり始める仕事だが、一人でやる分、先に出来ることは済ませておかないと終わらない。

「次は、マーカーとボール出しを――」

「なーに、一人で寂しくやってんのよ」

「二ノ宮!?」

「優一さん、マーカーとボールはさっき出しておきました」

「香織!? お前ら……今すぐ帰れ」

「何で帰んないといけないのよ。それには二ノ宮先輩でしょ、二ノ宮先輩。敬語も忘れてるし」

「二人とも、何も聞いてないのかよ」

「聞いたわよ、マネージャー陣全員ね」

 俺の手からキーパーの蓋を奪い取った二ノ宮は、蓋を閉めて流し場の脇に置く。

「結構、ショック受けてたわ。特に撮られた枚数が私と香織みたいに多かった侑李はね。撮られた枚数こそ少なかったけど、他の子もショック受けてたし、一年は泣き出す子も居た。だからみんなで一緒に固まって帰ったわ」

「帰ったんなら、何でここに居るんだよ!」

「私はみんなと分かれた後に引き返してきたの。先生は部員に協力してもらうって、あんた言ってたなんて言ったけど、あんたの性格なら全部一人でやるに決まってるからね。そしたら、途中で香織に会ったのよ」

「私は、やっぱり二ノ宮先輩と同じで優一さん一人に仕事をやらせるなんて出来なくて」

「分かった。選手にもちゃんと手伝ってもらうから二人は帰れ」

「いくらあんたでも、あの人数の仕事を捌けるわけないでしょ」

「香織! イテッ!」

 隣においてあったドリンクキーパーを香織が洗い始める。それを止めさせようとすると、香織に伸ばした手の甲をペシっと叩かれた。

「ダメ、優一さんだけにはやらせません!」

 香織はドリンクキーパーの水洗いを始めてしまい、二ノ宮は歩き出してすぐに行ってしまった。

「何かあってからじゃ――」

 後ろから、ギュッと体を締め付けられる。俺の胴には、細く白い二本の腕が巻き付いている。

「優一さん……」

「何で帰らなかったんだよ……」

「優一さんの側に居たかったの」

 俺を抱き締める香織の腕がフルフルと震えている。俺はその両手を解き、香織の方を向いて正面から抱き締めた。香織の震えが止まるように強く。

「優一さん、怖い……」

「だったら、すぐに」

「優一さんと一緒じゃなきゃもっと怖いの!」

 俺は流し場のすぐ近くにある体育用具倉庫の裏に香織を引っ張り込む。そして、壁に押し付けて唇を奪った。

「ンンッ……」

 いつもの優しく互いを確かめるキスじゃなかった。一方的に、ただ乱暴に、俺の気持ちを押し付けるだけのキス。初めて、舌が触れ合うキスをして、頭が熱に沸騰してクラクラする。

 香織は、必死に受け入れてくれた。俺に応えるように、香織と気持ちが絡み合う。

「プハッ……香織……」

「はぁ、はぁ……優一さん、激しい……」

「ごめん……」

 息が苦しくなって唇を離してからやっと、俺達は息継ぎもせずにキスをしていた事に気付く。

 香織は体の力が抜けているのか、俺が腰を支えていないとまともに立っていられない。そして、上気した頬と湿った唇は、色っぽかった。

「優一さん、ありがとう。元気がすごく出た」

「そうか」

 俺は頭が冷めてきて、香織へぶつけた一方的な気持ちに嫌悪した。でも、それに香織は笑顔で応え、そして受け入れてくれた。

「行こっか、二ノ宮先輩だけにさせるわけにいかないし」

「香織」

「ん?」

「いや、何でもない」

 キーパーを持って歩き出し、前にいる香織の背中を見詰める。

 さっきはごめん、なんて言うべきではないだろう。嫌だったら拒絶されたはずだ。

 でもやっぱり、香織の気持ちを考えずに求めたのは俺の独りよがりだ。

「今は、香織達を守らないと」

 俺の気持ちよりも、今はみんなの身の安全が最優先だ。


 練習が終わり、俺は二ノ宮と香織と一緒に校門を出た。もちろん、佐原や他の部員も一緒にだ

「ちょー可愛いじゃん!」

 練習をしている時から、既に野次馬が出来てきた。堂々と他校の制服を着てスマートフォンで撮影するやからも居れば、ただ見ているだけの奴もいる。でも、どっちにしても不愉快には変わりないから二人をずっと部室棟の陰に隠れさせていた。

「お前ら! 何処の生徒だ!」

 校門に生徒指導部の厳つい先生が出てきて怒鳴り散らす。それに野次馬は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「大したことないわねー。私の事狙ってるならもうちょっと根性見せなさいよ、情けない」

「二ノ宮はあまり気にしてないな」

「当たり前よ。あんな遠くからスマホで撮るしか出来ないやつに怯えるかっての」

 二ノ宮が逃げて行った野次馬を見て言うのを聞いて、佐原が苦笑いを浮かべる。

 香織は、周りを知っている奴にガードしてもらっているからか、さっきのように震えてはいない。ただ、俺の手はしっかり握ってる。

「お! キタキタ!」

 正面から、いかにも不良という金髪でピアスを付け、更にガムを噛みながらというおまけ付きの男が三人歩いて来た。

「ヤッベェー、生で見ると顔ちっさ!」

「すみません。下校途中なので道を空けてもらえませんか?」

 佐原が穏やかな声で、三人に道を空けるように促す。しかし、佐原の足元にガムを吐き捨ててガンを飛ばす。

「男に用はねぇーんだよ。さっさと失せろ」

「彼女達に何の用だ」

「だからお前に用はねぇーって言ってんだろがッ!」

「私らもあんたらに用無いんだけど?」

 佐原の後ろから二ノ宮が正面の男に言い放つ。

「江梨子ちゃーん、俺達と遊ぼうぜー」

「あんたらに名前で呼ばれるとか虫酸が走るんだけど?」

「俺、気が強い女好みなんだ。そういえば、江梨子ちゃんってナマが好きなんだって? 大丈夫、俺そっちも上手いからさー」

「ハァ……全く、まだ分かんないの? あんたらみたいなクズには興味ないの。何回言えば分かんのよ」

 遠慮なく罵詈雑言を返す男の脇から少し大柄な男が前に出る。

「俺はこっちの子だなー」

「キャッ!」

 男が香織の腕を掴もうとする前に間に割って入る。

「俺の彼女に手、出さないでもらえる?」

「んだよ、男居んのかよ。……そういうの、そそるねー。寝取りっての? 興奮するわー」

「さっさと退けってんだよッ! イデデデデッ!!」

 大男の手を捻りあげ、スマートフォンをこちらに向けていた、三人目の男の方に押す。体格がいい割りに案外簡単にバランスを崩し倒れた。

「君達、ここで何をしているのかね?」

 三人組の後ろから制服を着た警察官が地面に倒れた三人を見渡す。

「女性への卑猥な言動と恫喝の通報があった。少し事情を聞かせてもらおうか」

 警察官に頭を下げると、後ろでニヤニヤ笑ってスマートフォンを俺に見せている二ノ宮と視線が合った。どうやら、二ノ宮が警察を呼んだらしい。

「二ノ宮、あんまり相手を挑発するのはやめてくれ」

「だって、マジムカついたんだもん」

「何かあったらどうするんだ。相手が刃物を持ってたら? 自分だけ怪我するわけじゃないんだぞ」

「ごめん……」

「ったく」

 その後、二ノ宮は佐原が送ってくれる事になり、俺は香織を家まで送るため手を繋いで香織の家に向かっていた。

「香織、明日からは部活を休――」

「いや」

「香織の事が心配なんだよ。さっきみたいな奴らは稀かもしれないけど、また同じような事が無いとも限らないだろ? 次はさっきみたいに上手くいくとも限らない」

「優一さんは私と一緒に居たくないの?」

「一緒に居たいよ。一緒に居たいに決まってるだろ。でも、それで香織が危ない目に遭ったら俺は嫌だ」

「せっかく優一さんが部活に戻ってきたのに、いつまで続くか分からない活動休止なんて嫌」

 妙に頑固な香織に困っていると、香織が立ち止まる。

「優一さん」

「ん?」

「いつもの場所に来たよ」

 いつもの場所。等間隔で設置された街灯が途切れ、明るい道に出来た、たった一つの暗闇。その暗闇の中心にある電柱の下。そこは、俺と香織が一日一回ずつのキスを交わす場所。

「えいっ!」

「ンッ!?」

 香織が飛び付きながら俺の唇に触れる。しかし、それは一瞬で終わって唇が離れてしまう。何時もよりも、短い。

「優一さん、残念な顔してる」

「えっ?」

 目の前で香織がニコニコと笑っている。

「私のキスが何時もよりも短かったから?」

 図星を突かれて反論が思い付かない。押し黙っていると余計、香織がニコニコして嬉しそうにする。

「部活前のキスはカウントに入れないからね。あれは勝手に優一さんがしたんだから。人が来るかもってドキドキしちゃった」

「ごめん、やっぱり学校内はマズかったよな」

 ニッコリ笑う香織に上手く謝らせてもらえた。俺はそんな気がした。

「ここなら、誰にも見られないよ?」

「香織?」

 ワイシャツを掴まれて引っ張られ、前屈みにさせられた俺の顔が香織の顔の目の前にいく。

「さっきの、キスがいいな」

 暗がりの中、俺は理性と欲望の境界線を歩きながら香織を求めた。まるで、崖っぷちを歩いているように危なっかしい。でも慎重に歩く事は出来ず、激しく走り出した。

「ハァハァ……」

「はぁ、はぁ……」

 息の上がった香織が胸に手を置いて深く息を吸い込んで息を整える。

「優一さん、好き」

「俺も香織が好きだ」

 香織が俺の手を握り、ギュッと締め付ける。

「どうしよう……」

「ん?」

「帰りたくない」

「いや、帰ってもらえないと安心して俺も帰れないんだけど?」

「だって帰ったら優一さん、居ないもん」

「居たらマズイだろ」

 なかなか歩きだそうとしない香織を引き寄せて、今度は優しく抱き締めた。

「やっぱ、香織は柔らかいな」

「優一さんは硬いね」

「悪かったな、筋肉無くて」

「ううん、硬くてしっかりしてて、いつでも私を支えてくれる」

 手を解くと、香織はやっと歩き出した。

「優一さん、後でまた電話してもいい? 寝るまでお話しよう」

「いいけど、長電話してて大丈夫なのか?」

「うーん、布団に隠れてするから大丈夫。寝るって言えばきっと部屋の中に入ってこないし」

 香織の家の前に着いて、俺は手を離そうとする。でも、香織は握ったまま離さない。

「香織?」

「じゃあ、また後でね」

 香織の手が離れ、俺の手は宙にぶらりと投げ出される。その手が体の隣で止まる頃には、香織は家の中に駆け込んでいた。


 ここ数日、野次馬はまだ居るものの、この前の三人組のような輩は現れていない。ただ、毎日のようにネット掲示板には香織達の画像が連日アップロードし続けられている。

 特に、香織の画像の枚数が一気に増えた。部活だけではなく、校舎内で撮影されたものもあり、その悪質さに、今すぐにでも犯人を見つけ出して、八つ裂きにしてやりたい。

「跡野さん?」

「えっ?」

 一年のマネージャーに声を掛けられて現実に引き戻される。そう言えば、コップ洗いの途中だった。

 ここ数日、一年に対する盗撮画像のアップロードは無くなり、音瀬を含めたマネージャーの全員が部活に復帰してきた。俺はまだ早いとマネージャーに言ったが、マネージャー陣で話し合って決めたらしい。そう決めたと言われてしまえば、もうどうしようもない。

 ただ、三年二年の選手達に協力してもらって、マネージャーを家まで送ってもらうようにしている。それはマネージャー陣に俺から提示した部活復帰の条件だ。まあ、条件と言っても一番下っぱの俺にはそんな権限もないから、そうしてほしいと頼んだだけなんだが。

「跡野さんがボーッとするのって珍しいですね」

「駿河先輩の事が心配だからよ。駿河先輩と二ノ宮先輩は、盗撮された写真がネットに上げられるの収まってないし」

 別の一年が元気のない声で言う。自分自身ではないにしても、身近な人が盗撮され続けているのは、やっぱり女の子にとっては恐怖でしかない。

「跡野、そっち終わった? ってあんたにしては進み遅くない?」

 自分の仕事を終わらせてきた二ノ宮が、俺の手元を見て驚いた顔をする。

「悪い、ちょっとボーッとしてた」

「いや、私がやるのとそんなに変わんないからいいんだけど、あんたにしては遅いなって思っただけ。……やっぱ、香織の事心配よね」

「ああ、香織自身は平気みたいな顔してるけど、早くなんとかしてやりたい」

 ついコップを握る手に力が入り、コップが手からスポッと飛び出す。そのコップを二ノ宮が受け止め、俺にジーッと視線を向ける。

「私は香織よりあんたの方が心配だわ」

 片付けを終え、マネージャーにそれぞれ二、三年を付けて帰宅を始める。俺は毎日香織と一緒に帰っているから、今日も香織と一緒だ。そしていつもの場所で、俺達はキスを交わす。

 あの、俺が香織を強く求めた日以来、一日置きに香織があの日と同じキスを求めるようになった。その度に、俺は理性と欲望の境界線を、いつ足元が崩れて欲望の崖下に落ちるのかと恐怖しながら、俺は危なっかしく走っている。

 今日も、俺は何とか崖下に落ちる事無く走り抜けた。

「優一さん、また明日」

「おう、また明日」

 手を振る香織に手を振り返し、香織が玄関の中に入るのを確認して歩き出す。

 香織を無事に送り届けると、毎日ドッと疲れが押し寄せてくる。香織が無事に家に帰った安心感で緊張の糸が切れてしまうのだ。

 家までの道をいつも通り歩いていると、通りの向かい側に見慣れた顔を見付けた。

「二ノ宮?」

 二ノ宮はミニスカートに半袖のTシャツという格好で、薬局に入っていく。別にそれ自体には全く問題無いが、盗撮の件が二ノ宮も収まってない事を考えると、このまま帰るわけにはいかない。

 横断歩道を渡って二ノ宮が入った薬局に入る。店内を歩いて陳列棚の間の通路を確認すると、三つ目の通路の奥で二ノ宮が商品をカゴの中に入れているのが見えた。

「二ノ宮、何してんだよここで」

「うわっ! びっくりしたー」

 後ろから声を掛けると驚いた二ノ宮が目を丸くして俺を見る。

「夜、買い物に出ないといけないんだったら、俺にメールでも電話でもしろよ。危ないだろうが」

「何で彼氏でも何でもない跡野を、わざわざ呼びつけないといけないのよ。香織に失礼過ぎるじゃない」

「香織なら分かってくれる。事態が収まるまであまり夜に出歩くな。もしどうしても必要だったら連絡しろ」

「うるさいわねー、分かったわよ」

 唇を尖らせて不満を垂れる二ノ宮はカゴを持って会計を済ませる。俺はそれを出入り口の方から見守り、二ノ宮が来るのを待った。

「跡野、家まで送る気?」

「当たり前だろうが、このまま放って帰らせられるか」

 薬局を出て二ノ宮について歩く。もう二ノ宮の家まで送り届けないと落ち着いて寝れやしない。

 隣を歩く二ノ宮が持っているビニール袋をサッと奪い去る。

「あんた、買い出し行くといっつもそうだったよね。絶対に女子に荷物を持たせない」

「気になるんだよ」

「流石、私が惚れてた男だわ」

「コメントに困るお褒めの言葉をどーも」

「跡野、ありがと」

「んだよ、いきなり」

 俺の方を見ず、少し上の夜空を見上げた二ノ宮が、唐突にお礼を行った。

「香織の事だけでも大変なのに、私の事も心配してくれてさ。あー私も彼氏作ろっかなー」

「相手は選べよ。選り取りみどりなんだから」

「そーいう事言うから彼氏見つかんないんだけど。そうやって優しい男は滅多に居ないし」

「居るだろ、二ノ宮に優しくしてくれる男なんて沢山」

「まあね、でも優しさで怒ってくれる奴は、今まであんた以外に出会った事無いわ」

 チラリと見た二ノ宮の視線は夜空の先にある、遠い何かを見ているような目だった。

「ここでいいわよ。荷物返して」

 十字路に差し掛かり、二ノ宮が右手を差し出す。

「バカ、家まで送るに決まってるだろうが」

「なに? 親が居ないの知ってて、家に上がり込んで私を襲う気?」

「んな事するか!」

「だよねー、跡野にそんな度胸無かったわ」

 パッと二ノ宮の右手がビニール袋を攫い、俺にしてやったりという笑顔を向ける。

「ホントにこの角を曲がって直ぐだし。あんたも知ってるでしょ?」

「分かった分かった。気を付けて帰れよ」

「言われなくても、跡野に襲われないようにすぐ帰るわよ。ありがと、じゃあ、また明日」

「おう、じゃあな」

 二ノ宮が曲がり角を曲がって行くのを見送り、俺は後ろを振り返って歩き出す。

 数歩進んだ時、ふと頭に玄関に入っていく香織の姿がフラッシュバックした。それを見てから急に落ち着かなくなり、小走りで元来た道を戻り、二ノ宮が曲がった角を二ノ宮が曲がった方向に曲がる。

「なに? あんた私のストーカーなの?」

 付いてきた俺を振り返った二ノ宮が、そう言い放つのが予想出来る。そして俺が「ちげーよ、バカ野郎」そう言い返すのだ。

 俺は堪らなく可笑しくなってフッと笑い、正面に視線を向けた。

「イヤッ! 放して!」

「大人しく付いて来い!」

 気が付いたら、全力で走り出していた。

 白いワゴン車の隣で、男に腕を引っ張られる二ノ宮。その男の力に負けて、二ノ宮の体がワゴン車の方へ傾く。

 開け放たれたワゴン車の、スライドドアの向こう側に、二ノ宮の体が消える。その直前、伸ばした右手が二ノ宮の手首を掴み力一杯こっち側に引っ張った。

「クソッ!」

「逃げるぞ!」

 二ノ宮を引きずり込もうとしていた男が、俺を見て苦々しく叫びながらドアを閉める。

 ワゴン車は猛スピードで走り去り、暗闇の奥に消えて行った。

「二ノ宮! 怪我は?」

「や、ヤバかったわマジで。あー良かったあんな気持ち悪い男にヤられるくらいだったら舌噛み切って死ぬところだったわよ。それにしても跡野サンキュー。マジあんた来なかったら――」

「二ノ宮、大丈夫だ。もう大丈夫だから安心しろ。今すぐ警察を呼ぶ。お前の両親の連絡先も教えろ。どっちも来るまでここに居るから」

 俺は警察に通報し、覚えていたナンバーと状況を説明する。そして電話を切りすぐに二ノ宮を見た。

「二ノ宮、とりあえず家に入ろう。中の方が安心出来るだろ」

「何言ってんのよ、私だったら平気だっての」

「あんな怖い思いして平気なわけないだろ!」

 二ノ宮は尋常じゃないくらい体をガタガタと震わせて、右手で俺の左腕をガチっと掴んでいる。爪が食い込んで痛いくらい緊張で固まっている。

「……香織、ごめん……少しだけあんたの彼氏借りる……」

 そう呟いた二ノ宮は、額を俺の胸につけ、俺が放した右手で俺の体を引き寄せた。

「あとの……怖かった……連れてかれると思った。……あんな奴らに連れてかれて犯されるかと思った……。大声、上げられなかった……。簡単だって思ってたのに、いつも通り怒鳴り散らせばいいと思ってたのに……腕掴まれて引っ張られたら……」

「もう大丈夫だから」

「あとの……ありがと、ありがと……」

 すすり泣く二ノ宮の背中に手を回しゆっくりと優しく摩る。二ノ宮が落ち着くまで、俺は「大丈夫、大丈夫」そう言い聞かせながら背中を摩り続けた。


 あれからすぐに警察が来て、すぐに犯人が逮捕されたと教えてくれた。女性警察官から事情を聞かれている間も、二ノ宮は俺の腕から手を離すことは出来ず、ずっと隣で座っていた。

 警察から事情を聞かれている最中に二ノ宮の母親が飛んで帰って来て、二ノ宮の姿を見るなり涙を流して「良かった、良かった」そう繰り返しながら二ノ宮を強く抱き締めていた。

 それから数日後、マネージャー達の盗撮画像をネットに上げていた犯人も捕まった。詳しくは知らないが、二年の男子だったらしい。

 その後、何故かネットの掲示板に『○○高校のサッカー部には他校の不良や拉致犯も逃げるヤンキーが居るらしい。しかもその怖い奴は駿河香織の彼氏だ』という書き込みがあったそうだ。その後、その掲示板はネットの波の中に消えて行った。

「よう、ヤンキー」

「二ノ宮、からかうな」

 非常階段でボケーっとしていると、上から二ノ宮が下りて来て隣に座る。

 二ノ宮は流石に次の日は大人しかったが、今では元通り俺をからかって楽しんでいる。

「こいつの何処をどう見たら、ヤンキーなんかに見えるのかしらねー。どう見たって雑用係顔じゃん」

「雑用係顔ってどんな顔だよ」

 二ノ宮が無言で俺を指差しやがる。俺はその指を掴んで下ろした。

「人を指差すな」

「跡野、この前は本当にありがとう」

 二ノ宮が俺に頭を下げる。二ノ宮が俺に頭を下げて謝ったのは、あの一年の時の弁当ぶちまけた時以来だろう。

「二ノ宮が無事なら良かった」

「だからさ、ちょっとお礼をしようと思って。はい、これ」

「おお、サンキュー。……うわっ!」

 二ノ宮がポケットから小さな四角い箱を取り出して俺に差し出す。それを何気なく受け取った俺は、箱を見て驚き危うく何処かへ放り投げるところだった。

「バッ、バカ! なんてもん渡すんだよ!」

 とりあえず人目に触れないためにズボンのポケットに突っ込み、目の前の二ノ宮に抗議する。

「何よ、そんなに驚いて」

「普通驚くわ!」

「えっ? 保健の授業で見なかった?」

「見たこと無かったから驚いたんじゃねぇよ! 白昼の学校で普通にこんなもん手渡されたから驚いてんだよ」

「いやー、何あげようか迷ったんだけど、やっぱプレゼントって使える物がいいって言うし、恋人でも無かったら残る物って重いし」

「確かに使えるもので使ったら残んねえけど、別の意味でヘビー過ぎるわ!」

 ケタケタ笑う二ノ宮は、俺をからかう時の顔で見る。全く、元通りに戻ったはいいが、からかい方が酷くなった気がする。

「親友の背中を押してあげようかと思ったのよ 」

「二ノ宮のやり方は、押すんじゃなくて突き飛ばすって言うんだ。どういうエールの送り方だよ」

「そろそろ、何にもされなかったら、不安になってくる頃よ」

「は?」

「まあ、私の体感でだけどね。キスされるだけだったら、私、女として魅力ないのかなーって心配になって来るのよ。結構、女子同士で話してると話題に上がるのよ。彼氏とどこまでいった? えーまだキスしかしてないのー? ってね」

「やっぱり香織も?」

「マネージャーでも彼氏持ちの子はみんなヤってるからね。結構不安にはなってるんじゃない?」

「えっ? みんなってマジかよ!」

 どうしよう、部活で会った時に思い出して気まずくなりそうだ。

「タイムリミットは、夏ね」

「夏?」

「大体、夏休み前に彼氏がいる子はみんな夏休みに経験するわ。私は高校入ってすぐだったけど」

「バッ、二ノ宮の話はいいよ」

「うげっ、顔真っ赤! あんたってそんなに純情くんだったっけ?」

 どうしてこう、気まずくなる話をホイホイ話せるんだこいつは。

「一応、使用期限までには使い切っちゃってね。勿体ないし。あっ、不安だったら私が練習台になってあげようか?」

「せっかくですが、ご遠慮します」

「ヒド! 即答しやがったし!」

 二ノ宮は立ち上がり、俺を見下ろして真剣な表情になった。

「もう一つ注意。絶対に私が言ったからって理由でしちゃダメよ。そんなの、香織を傷付けるだけ。私は背中を押しに来ただけなんだから、ちゃんと雰囲気作って気持ち盛り上げてからしてあげて。女の子にとって、初めては大切で特別なものなんだから」

 二ノ宮が去って行って、ポケットに残された爆弾をズボン越しに触れる。

「雰囲気作って気持ち盛り上げてからって、めちゃめちゃ難しいじゃねえかよ……」

 タイムリミットは夏休み。そしてそのタイムリミットまでのカウントダウン開始は、もう、すぐそこまで迫っていた。

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