第三十一話
その日。
スメラギより大海を隔てたはるか東の果て地は、はるか西方より飛来した紫と黒の入り混じった禍々しき光。
それが、彼の地に襲いかかったその時、水晶版越しに笑う男の姿に、円座を囲む者達はただただ呆然とする以外には無かった。
そして、次の瞬間。その地は眩い光に包み込まれると、巨大な茸雲を生み出して永遠にこ地上から消滅したのであった。
後に残ったのは、その光景を水晶版越しに見送った一人の男の不敵な笑みだけ……。
◇◆◇◆◇
水晶版に映し出されていた光景は、激しく瞬いたかと思うと、次の瞬間にはノイズ混じりの映像へと変わっていた。
「ふん……。ウジ虫どもの最後にしては、中々派手なモノになったか」
「……どういうつもりだ?」
「どうした? 死に臨んで、貴様を苦しめ続けた連中は消滅したのだ。心置きなく逝くことが出来よう?」
「そんなことはどうでもよいっ!! 貴様、いったい何を考えているのだ?」
相変わらずの不敵な笑みを浮かべたまま、口を開くシオンを睨むミオ。
先ほど負わされた傷の痛みは激しく、息も荒くなってきていたが、取引相手でもある黒幕たち……、各国に跨がって世界支配を目論見、ヤマシナ一族を利用してきた者達を虐殺した理由までは読み切ることが出来なかった。
「何を? 俺はより良い報酬のために動く。こいつの新しい買い手が見つかった。ただ、それだけのことだ」
「なに? ……っ!?」
そんなミオの問い掛けに、肩をすくめながらそう応えたシオン。
新しい買い手。つまりは、黒幕たちと同様に“女神の檻”による支配を願う者達の事であろうか。
だが、黒幕たち以上の資金力を持ち、加えて世界支配をもくろむほどに大きな視野を持った人間が果たして存在するのかという疑問もある。
この時代、大陸を跨がっての大戦争は起こっていたが、かつてのパルティノンを持ってしても挫折したことを考えれば、荒唐無稽でしかないとミオでなくとも考える。
だが、そんなミオの考えを断ち切るように、ミオとシオンの間の空間がゆっくりと揺らめきはじめ、最後には大きく歪みをみせながらゆっくりと等身大の光が浮かび上がってくる。
「シオン殿。お迎えに上がりました」
「ああ。ようやくか」
光が消えると、赤を基調とした装束に身を包んだ一人の男がそこに立ち、シオンに対してゆっくりと頭を下げる。
その姿に、思わず押し黙ったミオであったが、それでも驚きはそこまで大きくはない。むしろ、可能性の一つが当たったというのが正しいだろう。
「聖堂騎士の装束……。つまり、教団が?」
眼前に立った男の装束に、ミオはそう口を開く。彼の纏った“赤”それは、ベラ・ルーシャ教国を支配する“教団”の象徴たる色。
“巫女”なる存在を頂点に、女神を信仰対象とする宗教組織であり、国民に対する信仰の強制や異端者への残虐な処罰で知られる組織。
その中で赤は、“信徒”と呼ばれる信者達による女神への献身の際に流れる血を表すと言われている。
大戦期に台頭した軍部との冷戦状態が続いているとも言うが、現状の事実上の最高指導者である教皇とその直属の信徒達によって構成される“信徒兵”。
膨大な戦力を誇るベラ・ルーシャ軍の中でも、精強とされている集団であった。
端から見れば、死を恐れぬ狂信者集団であるが、戦場にあって死を恐れぬ集団がどれだけ強力になるかは、戦いに携わる人間にとっては考えずとも分かることであった。
そして、そんな信徒兵の一人が眼前に立っている。
転移法術を使役してきたと言う事と身に着けた装束から、信徒兵達を指揮する聖堂騎士なる地位とそれに見合う能力を持った人物であることは理解できる。
「おや。ヤマシナ卿も御一緒でしたか、中々壮健……というわけではございませんな」
「誰がヤマシナだ。私はツクシロだっ!!」
「ははは、嫁ぎ先はそうでも実家には変わりあるまい。まあ、そこまで驚く話でもなかろう? 元々、女神の檻を生み出したのは、教団の信仰対象たる白の女神。元鞘に収まると言うだけのことだ」
そんな騎士の言に、ミオは声を荒げるも、深い傷のためにそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。
そして、そんな彼女を挑発するように口を開いたシオンの言に、ミオは苛立ちをともに首を振るう以外には無かった。
「そのような事を……、私が許すとでも思ったのか?」
「満足に動けぬ身で何を言う? まあ、改心して再び慰み物にでもなるのであれば、教皇の力で助かるかも知れぬがな」
「ふざけるな……。そのような事を」
「ふ、ならばそれでいい。母子ともども、ここで最後を迎えることも一興であろう」
「っ!? 貴様、どこへっ!?」
そして、声を荒げたミオをさらに煽るように口を開いたシオンは、ミナギの囚われている檻の前から離れ、壁際へと立つとその一角をゆっくりと押し込む。
すると、人一人が通るには十分なほどの通路が開かれ、奥へと通じていることは見てとれる。
脱出のための隠し通路であろうが、それでは“女神の檻”を放置する形になり、彼らの目的を為すことにはならない。
「逃げさせてもらうだけだ。見ろ。愛娘を」
「何? っ!? ミ、ミナギっ!?」
シオンの言に、檻に囚われたミナギへと視線を向けたミオ。
先ほどまで、激痛に襲われ泣き叫ぶような表情を浮かべていたミナギを、ミオはただただ見つめる事しかできなかったのだが、今のミナギは、瞳を消し去り、赤く染まった眼をはじめとして憎悪に支配されたかのような表情を浮かべている。
そして、彼女が囚われた“檻”は先ほどまでの薄紫色の光から、血を混ぜたかのような赤紫色の光を灯しはじめているのだ。
「……ま、まさかっ」
「ああ。自分を追い詰め、自分を破滅させようとしているのであろうな。この島もろとも、消滅するために」
そんな檻の様子に、ミオの脳裏に浮かび上がった一つの結論をシオンはゆっくりと肯定する。
それまで、“女神の檻”は動力源たるミナギの力を刻印などの技術を用いて最大限に強化し、強大な破壊力を生み出していた。
とはいえ、元になる魔力を生み出すのは動力源たる彼女の意志。それを外部からの衝撃によって強引に生み出していたのが、彼女を襲う激痛の類だったのだが、今のミナギは、自身の意志で破滅を呼び込もうとしていた。
それによって、永遠とも言える苦しみから解放されるために……。
「そうか……。だが、貴様等の目論見は」
一瞬、それによってミナギが苦しみから解放されるのならばそれでよいと思ったミオであったが、眼前の鬼畜どもがただで起きるような人間ではないこともまた分かっていた。
だからこそ、引っかかることもある。
「安心しろ。理論は確立され、教団の力のみでも再現は可能だ。動力源にも宛てはある」
「っ!? で、では……っ」
「ふむ。やはり、聡明な御方にございますね。後察しの通り、ここにおられる彼女が産みだしたもう一人の自分……。カスガの地よりこちらへと向かっている彼の御方に協力を願うのですよ」
「お前が協力してくれるのであれば。ミナギを苦しめることはないのだがな」
そして、ミオの懸念は最悪の答えとして彼女へと帰って来た。
騎士とシオンの言の通り、今、こうして動力源に取り込まれているミナギは、このまま自身を滅ぼすことになる。
だが、そんな事を許すのは、一重に彼女が自身を苦しみから解放するために産みだしたもう一人の自分。
すなわち、今も戦い渦中に身を置いているもう一人のミナギの存在を認識しているからでもあった。
「ま、待てっ!! 協力しよう。だから、だから、もう、ミナギには手を出すなっ!!」
そして、二人の言に激痛の走る身体に鞭打ち、二人の元に迫る。途中、力尽きて思わず倒れ込むも、さらに腕を伸ばして懇願するように口を開いたミオ。
誇り高い彼女が、怨敵に対しここまでするのは、一重にミナギのためであった。
しかし、そんなミオの姿を満足げに見つめたシオンと表情を動かすことのない騎士は、必死に懇願するミオをいたぶるかのように口を開くだけであった。
「内腑をさらけ出した女が何を言う? 物好きなら良いが、俺はごめんだな」
「そういうことですよ。閣下」
「外道が……」
「何とでも言いなさい。それでは、シオン殿。後のことは我々……っ」
そして、無情にもそう言い放った両者であったが、直後にその場に轟いた空気を斬り裂くかのような乾いた音に、騎士はは目を見開きながら崩れ落ちる。
目を見開いた両眼の間。ちょうどこめかみに穿たれた穴からは、彼らの信仰の象徴も言える赤き血が、留まることなく流れ出ている。
「っ!?」
突然のことに、それまでの悠然とした態度から、はじめて表情を引き締めて砲筒を構えるシオン。
予想外の状況にはなったが、その直後に現れたその人物の姿に、シオンは逆に口元を綻ばせる。
「ほう? もう戻って来ていたのか。聖堂騎士を呼び寄せただけの価値はあるな」
「……そう。やはり、貴方がすべての黒幕だったのですね。シオン」
「はっはっはっは。はじめから気づいて事だろう? ミナギよ」
そして、シオンの言に応えた少女ミナギは、シオンの手にある砲筒を一睨みした後、自身の砲筒をシオンに対し、ゆっくりと突き付けたのであった。
◇◆◇◆◇
振り下ろされた剣を受け止め、返す刀を横に払う。しかし、すでにスザクの姿は無く、剣は無常にも空を切るのみ。
だが、それに嘆く暇もなく振るわれてくる剣を、顔を向けることなく受け止め、互いに激しく剣をぶつけ合う。
ミナギが去って後、繰り返される剣と剣の応酬。
ヒサヤとスザクにとっては、教団幹部同士の決着の場であると同時に、皇国の皇子と裏切り者の一族という、決して相容れない関係がそこには存在していた。
ヒサヤの母、サヤとスザクの母であるミスズ。
学生時代の同窓でもある両者は、とある一人の女性を介して対立する関係にあり、その因縁は血を別けた息子たちの代になっても因果として続いている。
もっとも、スザクは双子の兄であるトモヤと同様に、ミスズとの血の繋がりはないのだから、血で繋がる因果というモノは存在していないことが実情であった。
とはいえ、和解した後も、サヤがこの世を去ってもなお、ミスズ・カミヨという女性が背負った業は、血の繋がらぬ、さらに言えば顔もまともに見たこともない息子へと降りかかっているというのが正しいのであろう。
閤家が一つ、カミヨ家にあって、双子の兄の影として生きることを強いられたスザク。
“血の式典事件”を契機に、スメラギは血で血を洗う動乱の時代を迎え、当主ミスズが皇国へと裏切りを働いた以上、スザクの役割も終わりを告げていたはずであった。
しかし、こうしてヒサヤに対して彼が増悪を向けるのは、双子の兄トモヤと同様に、母から受ける事の無かった愛情への飢えが、次第に激しい増悪へと変化し、その矛先がスメラギそのものへと向いた結果が故。
そして、眼前にあるヒサヤこそ、スメラギの象徴たる皇族であり、時期神皇たる男である。
彼にとっては、生まれ落ちた時より育まれ続けた増悪の矛先としてはこの上ない存在でもあった。
しかし……。
「うぐっ!?」
「掛かったなっ」
激しい剣と剣のぶつかりあいの最中、体術による応酬も繰り返されていたが、ほんの一瞬、ヒサヤが見せた隙。
それは、誘いであったのだが、憎悪に支配された剣を振るうスザクにはそれが見抜けなかったのだ。
重い一撃を腹部に受け、一瞬、動きを奪われたスザクに、ヒサヤは躊躇うことなく剣を振り下ろす。
それは何とか受け止めることの出来たスザクであったが、互角の勝負では、一度でも先手を受けた側の負けはほぼ確定していた。
「これで、終いだっ!!」
動きの鈍ったスザクに対し、ヒサヤは足を払って体制を切り崩すとそこから躊躇うことなく縦横に剣を振るう。
一撃一撃は軽いモノであり、身体を両断するほどの威力はない。だが、全身に振るわれたそれは、完膚無きほどまでにスザクの身体を斬り裂いたのであった。
「こ、こんなことが……っ」
全身に傷を負い、倒れ伏したスザク。彼に対し、ゆっくりと歩み寄ったヒサヤは、その眼前に剣を突き付ける。
「俺を恨んでいるようだったが、そんな気持ちじゃあ、勝負には勝てないぞ。お前らしくもない」
「……ほざけ。さっさと殺せ」
「ああ……。もちろん、そうさせてもらうさ。皇族であっても、お前みたいなヤツに情けをかけてやる理由はない」
そう言うと、ヒサヤは倒れ込んだスザクの胸ぐらを掴んで引き起こし、手にした剣をその胸元へと突き付けた。
「っ!?」
その刹那、ヒサヤの周囲に光が灯ったと思うと、突然突き付けられてくる無数の白刃。
何事かとヒサヤだけでなく、スザクも目を見開く中、白刃を手にした赤き装束に身を包んだ一人が口を開く。
「スメラギ皇太子、ヒサヤの尊……、女神様に害なす獣どもの首魁……」
「な、なんだっ!?」
その感情のほとんど存在していないかのような声とともに、どす黒い殺気を久屋へと向けてくる集団。
個人個人の技量は、ヒサヤには圧倒的に劣っていたが、彼ら聖堂騎士達に、死への恐怖というモノは存在していない。
彼らの元にあるのは、ただただ眼前の敵種たるヒサヤを討つという狂気だけであった。
「殿下っ、目をっ!!」
「うおっ!?」
そんな狂信集団に囲まれ、当惑していたヒサヤに耳に、聞き覚えのある男の声が届く。
白刃を突き付けられた状態で目を閉ざすなど自殺行為でしかなかったが、ヒサヤは即座にその声の意図を悟ると、慌てて瞼を閉ざす。
周囲に目を眩ませる閃光が炸裂したのはその刹那のことであり、一瞬にして弱まった光を確認すると、動揺する聖堂騎士達の包囲からヒサヤは後方へと跳躍する形を持って脱出した。
「殿下、遅くなってしまい、申しわけございませんでした」
「ミツルギっ、他の連中も……」
そして、即座にヒサヤの周囲を取り囲む者達。全員が白い衣装に身を包み、少数ながら、一片の隙も見出せない構えを敷いている。
皇国神衛。
総帥たるカザミ・ツクシロの死後、その妻たるミオ・ツクシロの指揮下に入り、神皇リヒト、皇女フミナを守護する精鋭集団は、今一人の守護対象たるヒサヤの元にようやく馳せ参じることが出来たのであった。
特に、ミツルギは、血の式典に際して、シオンによるヒサヤ誘拐を防ぐ事が出来ず、一次は自裁を願い出たほどの失態をようやく取り戻す形になったのだ。
「殿下っ!!」
「っ!? お前達、無事だったかっ」
そんなヒサヤたちの元に馳せ参んじてくる新たなる援軍。
声とともに、ヒサヤの周囲に駆け込んできたのは、サキ、アドリエル、リアネイギスの三人娘。
そして。
「っ!?」
声にならぬ声を上げつつ、上空へと舞い上がる聖堂騎士達の首。
風とともに彼らに吹きつけられた刃は、そのままにミツルギ等神衛達の眼前に舞い降りると、夜の闇の中でも、さらに濃さを見せつける漆黒の翼がゆらゆらと舞っている。
「殿下。遅くなって申しわけございませんでした。ミツルギ殿達もご無事で」
「ああ。ハヤトも……。あの時と同じだな。姿形は変わっても、その力量に衰えはないか」
そう言って、ヒサやらの眼前にて翼をはためかせるのは、ハヤト・ツクシロ。ミナギ・ツクシロの兄にして、フィランシイル皇族に名を連ねる男。
だが、彼にとっては、その出自よりも、養父カザミ・ツクシロより受け継いだ神衛としての責務の方が重きを成す。
ヒサヤにとっては、自身の生命の危機を救ってもらったのはこれが二度目。あの時もまた、彼の漆黒の翼は、今のように美しく風に靡いていた。
「無為な数年間ではございましたが……。ただ、他の者達は……」
「っ!? そうか……」
「殿下……、シロウとミナギは?」
ただ、再開の喜びもそこまでのこと。
“女神の檻”による砲撃により、艦艇は消滅。そして、彼らを除いたすべての者。キラーやゲブンを含めた暗殺者達も島からの脱出を臨んでいた同志達や民間人たちは、かの光によって海上に散ってしまったのだった。
そして、サキからの問い掛けに、ヒサヤは一瞬顔を落とし、それから眼前を見据えたまま、ゆっくりと口を開く。
「ミナギは、自身に決着を付けに向かった。シロウは…………、ミナギを守って……」
「っ!? そんなっ」
あえて、自分をとはヒサヤは言わなかった。
結果として、シロウは自分とミナギが脱出する時間を稼いだが、それは空くまでもミナギを……、長く思い続けた女を守るために散ったのである。
だからこそ、自分にはシロウとの約束を果たす義務もあると、この時のヒサヤは思っていたのだった。
「みんな、こいつ等を抑えきれるか?」
「殿下?」
「さすがに、ミナギを一人にして置くわけにもいくまい。ミオさんのことも気になるしな。ただ、あの連中に追われたのでは、さすがに厳しい」
「問題はないですよ。……聖堂騎士。一族の宿敵が相手だ。八つ当たりにもちょうどいい」
「そうね……。自分の不甲斐なさをぶつけるにはちょうどよい相手」
そんなヒサヤの問いに、真っ先に応じたのはリアネイギスとアドリエル。
リアネイギス自身、ティグ族というかつてのパルティノン中枢にあった民族の皇女。つまり、眼前にあるベラ・ルーシャ教国聖堂騎士達は、歴とした宿敵と言う事になる。
そして、アドリエルは、自身が救うと決めていた民間人たちすらも救えなかったという自責の念をぶつける相手を欲していた。
「殿下……」
「サキ。行くとしようか」
「え?」
「ミナギを助けるのに、お前がいなくてどうする? 本当はハルカもいて欲しかったが、シロウとユイがいない今、あいつ等の願いは俺一人では背負えんぞ?」
そんなリアネイギス等の言を頼もしく思いつつ、ヒサヤは声をかけてきたサキに対してそう告げる。
お互い、自身の感情を整理しきれていない両者であったが、それでも、二人にとって、ミナギ・ツクシロという少女の存在は、何物にも代え難いモノであるのだ。
となれば、サキの返答も当然のモノと言える。
「ええ。おともいたしますっ」
「よし。それじゃあ、みんな、頼んだぞっ!!」
そして、力強く頷いたサキに、満足げな笑みを浮かべてヒサヤは、ミツルギ等に対してそう告げると、サキとともに再び地を蹴る。
その眼前にあるのは、いまだに炎を灯す組織本拠地。
二人にとっては、長き屈辱の時を過ごしたその場であったのだが、今となっては、その事実すらも消え去ろうとしていた。
「ミナギ……、無事でいてね」
そして、その本拠地最上部に灯りはじめた赤き光を目にした両者は、彼の地にて戦いに赴いた少女の身を案じつつ、件の地へと急いだのであった。




