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第二十六話

昨日は投稿できず、申し訳ありませんでした。

 甲板での戦いはなおも続いていた。


 相手は教団幹部4人を含む精鋭揃い。如何にリアネイギスやシロウが幹部を抑えていても、地力に差は出ていく。


 だが、それ以上に海上に出てしまった以上、今は船の航行を止め、島に戻ることの方が先決であった。



「ふっ!! ――ふう、そっちはどうだ?」


「出来るだけのことはやってみるが……。とりあえず、動力部を止めぬ事には」



 船内にまで入りこんできた暗殺者達数人を、ひとまとめに射抜いたアドリエルは、険しい表情で作業に当たる壮年の男と寡黙な雰囲気の女性に対して向き直り、声をかける。

 

甲板での戦いをリアネイギス等に任せ、アドリエルは船室に避難していた造船技師や刻印師を伴い、なんとか船の航行を回復させる手段を構築を計る。

 動力部分は、造船技術の他に法術や刻印学も関係してくるため、刻印師の力も必要になってくるのだ。



「慌てる必要は無いが、出来るだけ急いでくれ。そなた等は、二人をなんとしても守れ」



 そして、技師と刻印師に対してそう告げ、護衛に伴っていた同志達と頷きあうと、アドリエルは再び甲板に向かって走る。


 甲板での戦いには一人でも多くの戦力は欲しいが、今のままでは、“女神の檻”の射程に飛び込んでしまい、待っているのは民間人たちをはじめとする全員の消滅しかない。

 セオリ湖に落ちた閃光によって、天津上の大半が水に飲まれたのだ。この船を直撃すれば、散り一つ残らないであろう。

 一応、船の動力源にある刻印球への魔力供給は止まっているが、海上に出れば“暗車”と呼ばれる推進装置が自動で作動する仕組みになっており、ゆっくりとではあるが船は進んでしまう。

 舵こそは生きているが操縦桿なども壊されてしまっているため、波の少ない今は最初に示された方向だけを目指して進む。


 少なくとも、女神の檻からの攻撃が無ければ、スメラギ本島へと辿り着いてはくれるのだが……、それは到底叶わぬであろう願いでしかない。



 そんな時、甲板から船内へと通じる通路に飛び込んでくる暗殺者達。


 獰猛な笑みを浮かべ、美貌のアドリエルに対して飛び掛かってくるが、アドリエルは冷静に一射で一人の眼球を射抜いて脳漿を破壊すると、床を滑るように通り抜けた残った二人の背後に回り、躊躇うことなく両者の頭を射抜く。


 いかな精鋭であろうとも、自身の欲望に身を委ねては隙も大きくなる。それはこちらも同じであったが……。



「苦戦しているな……ふっ!!」



 甲板に走り出たアドリエルは、ジェガとともにユイたちへと襲いかかっていた暗殺者へと矢を放つ。


 しかし、隙を突いたはずのそれは瞬時の動きで躱され、暗殺者の傍らを抜けていく。

 先ほどのように油断を誘えば状況は異なるが、戦いそのものを楽しむ人間達にあっては、目先の情欲より闘争心が勝っている時はより手強いのだ。



「リアっ!! 状況はっ!?」


「見ての通り…………どきなっ!!」



 そして、矢を放ちつつ、つばぜり合いをしていた暗殺者数人を手にした二種類の剣で構成された双剣にて両断したリアネイギスの背後へと歩み寄ったアドリエル。


 側にいるシロウもそうだが、二人は返り血で衣服を真っ赤に染めている。


 他の者達が一進一退な状況の中、敵の大半を二人で減らしたのだろう。

 さすがは、尚武の一族の直系であるとアドリエルは思ったが、同時に距離と窺っている二人の男の姿が目に入る。


 両手に大型のナイフを手にした銀髪の男キラーと肥満した体躯に大型の砲筒を抱える男ゲブン。


 両名ともに組織の幹部であり、その身体は返り血で赤く染まっている。どうやら、いまだに決着はつかず、その時を待っている様子であった。



「ふん。わざわざ、エルが戻るのを待っていたか」


「へへっ、お互い、コンビで戦うってのが良さそうじゃねえか。それにな、美女を斬り刻むならまともな方がいい」


「俺は生きたまま相手をしてもらう方がいいんだが……。ま、死んですぐならあったけえだろ」



 そんな両者に対し、リアネイギスが鋭く視線を向けると、両者の狂気はさらに増し、口角がつり上がって見えている。




「はあ……、最後ぐらい真面目になったらどうだ? 島を出るのを恐れる余り、狂気演じるのは滑稽であるぞ」



 だが、そんな二人の下卑た発言をそのままに不快になるほど、呑気でいられる状況ではない。

 戦や欲望に狂ってはいるが、結局の所、この者たちも組織という枠に依存しなければ生きてはいけない人間達。


 だからこそ、狂者や色情を演じて殺しに走る狂気を演出しているとアドリエルもリアネイギスも戦いを通じて悟っていた。


 現に、アドリエルの言を受けて、それまでの二人の笑みが凍りついている。




「ふっ、へへへ……殺してやるっ!!」




 そして、そう言って地を蹴ったキラーの行動を合図に、アドリエルとリアネイギスは距離を取ってキラーとゲブンの攻撃に備える。


 互いに近接と遠距離を相手取るべきであったのかも知れないが、そこまで上手くモノでもない。

 キラーの接近に、アドリエルは足を止めることなく矢を放っていくが、さすがに幹部だけあり、躱すのではなく叩き落としながら確実に距離を詰めてくる。



「ヒョウっ!!」



 そして、一風変わった声を上げて迫り来るキラーのナイフを躱したアドリエルは、崩れた体制からそのまま引き絞った矢を放ち、さらに体勢を立て直してまるで舞を踊るように次々に矢を射ていく。


 すべてが必中距離であったが、わずかに頬や身体を掠めながらそれを払いのけるキラー。


 お互いに、攻撃の正確さと身の軽さは似たようなものであり、キラーも普段の狂気めいた姿が嘘のように、表情を引き締めてアドリエルとの舞を楽しむかの如く剣を振るってくる。

 少なくとも、血塗られた道を歩んできた男にとって、戦いに対する姿勢だけは純粋であったのかも知れない。


 だが、この場にあっては、それは許してくれないこと。


 別の場から感じた殺気に、双方ともに後方へと飛び退くと、先ほどまで二人が舞を舞っていたその場が、甲板に用いられる木材ごと抉りとられていく。



「どっせええええええっっっっ!!」




 そんな突然の破壊を生みだしたのは、その巨体に見合った大型の砲筒を構える男ゲブン。


 本来、砲筒とは優れた法術の技能と豊富な魔力に裏打ちされた者だけが使役しうるそれ。“女神の檻”の供給源になる程のミナギがそれを駆使できるのがその証明とも言えるが、この猛獣の如き男もまた、通常のそれ以上の砲筒を笑みを浮かべて駆使している。


 だが、破壊力とは巨大な消耗を産む物。


 巨体であるが故の体力も、その消耗によって削り取れた、ほどなくその場の一方的な破壊は消え失せていく。



「邪魔をするなっ!!」



 そして、銃弾の放出が停止したその時を逃さずにアドリエルがゲブンに向かって光を纏った無数の矢を放つ。


 それは、見事にその巨体を次々を穿つも、大型の砲筒は同時に盾の役割を担い、急所を狙い討つことは敵わぬまま。



「ヒュウゥッッ!!」



 そして、隙を狙って飛び掛かってくるキラーに対し、アドリエルはその場を飛び退くようにして攻撃を躱し、次射に備えるも、それが澄んだ時には彼女の視線の先にて鮮血が舞い上がっていた。



「ぐうぉっ!? て、てめえっ!!」


「ちっ、しぶとい。エル、悪かったわね」


「リア、来るぞっ!!」



 その隙を狙い、キラーに傷を負わせたリアネイギス。


 恐らく、ゲブンの砲撃に攻撃の機会を掴めなかったのであろうが、それよりも彼女の先にて砲筒を構えたゲブンの姿に思わず声を上げるアドリエル。


 だが、リアネイギスは即座にキラーを蹴飛ばすと、音速を超えて迫り来る銃弾をその場において身体に受ける――その前に高速の剣伎でそれを叩き落としていく。



 砲筒の銃弾は、速度もさることながら、威力も下手な弓矢よりも協力である。叩き落とすだけでも、巨大な衝撃がもたらされ、仮に落とせたとしても得物を弾き飛ばされるのがオチである。


 だが、リアネイギスはそんなことお構いなしとばかりに、歯を食いしばりながらそれをすべていなしきると、待っていたとばかりに身を翻す。


 銃弾を落とされたばかりでなく、彼女の背後にて狙いを済ませていたアドリエルの姿に驚愕するも、即座に放たれた風と光の力を纏った矢――アドリエルが両の手に刻み込んだ刻印の力が矢に宿っての攻撃がゲブンへと襲いかかっていく。



「ぐおおっ!!」



 そして、ゲブンの執れる手段は、重厚な砲筒を持ってそれを受け止めるのみ。激しい攻撃であり、思わず仰け反りかけるも、元々の体重を生かしてその場に留まる。


 しかし……。



「油断大敵」



 ゲブンの耳に届く抑揚に乏しい少女の声と、目の前を横切る白き影。

 次の瞬間には、砲筒の周囲には黒みがかった紫色の球体が浮かび上がっていた。




「うおっ!?」



 そして、即座にそれが何であるかを悟ったゲブンは、砲筒を放り出して自身の丸い身体をまるで球のように転がしながらその場から離れた直後。

 球体は紫色の閃光を発して拡散し、周囲にいた暗殺者もろとも砲筒を飲みこんでいった。


 そんな恐るべき攻撃を彼に対して加えたのは、先頃までジェガと対峙していた少女ユイ。


 同志達がジェガに吶喊することで時間を稼げたため、アドリエルとリアネイギスに対して助力に回ったのだ。


 しかし、そんな時間稼ぎも、長く通じる相手ではない。




「成功」


「そうか。それは、おめでとう」


「えっ!? ごふっっっ!?」




 そして、甲板に転がったゲブンに対して、優越感から来る笑みを浮かべたユイであったが、束の間の勝利は彼女から警戒心を確実に奪い去っている。


 彼女の声とともに、耳に届いた男の声。


 その声とともに、腕とどうかした間広い刃がその身を赤く染めながら、彼女の身体をゆっくりとつらい抜いたのであった。




「ユイっっっ!?」




 目を見開らき、口元から地を流す少女姿に、アドリエルが、リアネイギスが、シロウが声を上げたのは同時のこと。

 そして、目に映ったのは、自身の身体の半分しかない少女に剣を突き立て、不敵な笑みを浮かべる巨躯。



「油断したな。あの程度で俺を出し抜けると思うなよ?」



 冷徹にそう言い放った巨躯の男、ジェガの言が、その場の雰囲気を凍りつかせる。


 いかな暗殺者達と言えど、敵とは言え、外見はまだまだ少女の幼さを残し、それが美しさも伴っているともなれば、思わず手を止めるモノ。

 同時に、男の冷厳さに対する寒々さが、周囲を凍りつかせるのは十分だったのだ。



「何をしているっ!! 反逆者どもを殺せっ!!」



 そして、凍りついた周囲を一瞬にして融解させるだけの怒声が周囲に響き渡ると、凍りついていた暗殺者達は我に返って、敵の主力が潰えたことに笑みを浮かべはじめる。

 一方、同志達は、実力者であると同時に、歳年少として守るべき存在であると皆が無意識のうちに共有していたユイを襲った凶行に対し、いまだに動揺し続けていたのだ。


 こうなってしまえば、戦況は一気に組織側に傾く。


 冷静なアドリエルやリアネイギスがそう思ったその時、思いがけない状況が再びその場の空気を変える。




「油断したのは……、あなたの方」



 再びの剣戟の音と喚声や断末魔に支配された場に轟く、冷たい声。


 同時に、部下達を鼓舞したジェガの周囲に、黒紫色の光を放つ方陣が浮かび上がったのである。



「な、こ、これはっ!?」



 その状況に、今度はジェガが驚愕する番であった。


 慌ててユイの身から剣を引き抜くも、すでに時遅く足が地に縫い付けられたかのように動かずその巨躯は一瞬にして自由を奪われたのである。



「っ!? ま、まさか……、ユイっ、そなたっ!!」


「そっ、私もろとも、闇の……永遠の中へ落ちてもらう……、ジェガ、いや、アークドロフっ!!」


「な、なんだとっ!? ユイ、やめろっ!! そんなヤツを道連れにして何の意味があるんだっ!!」



 そんな光景に、再び硬直していたアドリエルは、脳裏に去来する法術を思い返し、思わず声を荒げる。


 そして、アドリエルの言を肯定するかのように、息も絶え絶えになりながらそれに頷いたユイは、それまでのどこか無気力な態度から、鋭い言葉をジェガへと向ける。

 しかし、それはジェガを動揺させるだけでなく、シロウや他の同志達にとってもまさかの事態でしかない。


 だが、すでに状況は彼らにはどうすることも出来なかったのだ。



「それは……、どういうっ!?」


「忘れた、とは、言わせない……。私の、お父さんを、お母さんを……っ!!」



 そんなユイの言に、それまでの横暴とも言える態度を一変させたジェガに対し、ジェガはさらに語気を強めて彼を睨み付けた。




 その刹那、黒紫色の光の灯る甲板に、それとは対照的となる白き光が瞬き始める。


 そして、それが周囲に霧散し、黒紫色の光の禍々しさを幾分だけ和らげたその直後、光に中心には五人の男女が立っていたのだった。




「ここは……? えっ!?」



 そして、その中の一人の女性。ミナギ・ツクシロが周囲を見まわしながら口を開くと、彼女の目に映ったのは件の黒紫色の光景。


 そして、彼女の姿は、その黒紫色の光の中にあるユイの目にも映っていた。




「ミナギ、サキ姉……。最後に、会えてよかったよ」



 その声の意味を、ミナギとサキ、それに、ヒサヤやハヤトが理解するまでには、ほんの僅かな時間を要するのだった。





 そしてそれは、散りゆく一つの命に対する一つの餞にしかならなかったのである。

もっと上手く書けるようになりたい。

こういうキャラクターの最後を書く時というのは、こういう思いが強くなりますね。


一応予告として、出来るだけユイというキャラとミナギの関係を掘り下げられたらなと思っています。

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