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第十六話

web拍手にてコメントをくださった方。ありがとうございます。

コメントに何とか応えられるよう頑張ろうと思います。

 それが起こったのは、ヒサヤ様と形の上での手打ちを果たした直後のことであった。


 本拠地最上部に灯った禍々しき深紫と漆黒の光。それは、その島揺らめく光によって照らし、目にした者すべてを慄然させていた。



「わざわざ、私の前にさらけ出してくるか。舐められたものだ」


「ですが、これで……」


 ちょうど、隠し船渠へと戻った私は、光を目の当たりにして静かな怒りを灯すお母様の言に頷きながらも、標的がわざわざ目の前に現れてくれたことに安堵していた。


 ヒサヤ様との再会を果たした以上、残された任務はかの超兵器の破壊。

 眼前にて禍々しき光を灯すそれを破壊すれば事はなるのである。



「幸い、島中この話題で騒然となっています。今のうちに、最終確認といきましょう」



 サレムさんの言に、私達は急ぎ船渠へと戻る。

 今日のこの日が勝負の一日となる。皆が皆、そのことを共通の元に認識していた。



「作戦の概要か……。まずは、巫女の暗殺に同行し、彼女と接触する者だが……」


「沙門天のシリュウ、地獄天のスザク。この両名を相手取り、巫女を守れるだけの戦力が必要になってくる。とはいえ、巫女とてただでやられるとは思えぬ以上、助力はあると考えていい」



 サレムさんとお母様の会話に、周囲の者達は口を閉ざしたまま耳を傾けている。


 昨日、姿を見せたのがはじめてだったが、その存在感の為す業と言うべきか、誰もお母様の介入に反発する様子は無い。

 単純に戦力として見た場合、アドリエル、リアネイギス、ケーイチの三名が素直に命令に従うという意味合いも大きいと言う事だろう。

 加えて、お母様に同行してきた手の者達の助力。そして、協力者たちの恩赦も約束したことは大きい。


 少なくとも、今上神皇の側近たる人物の口から出た約束事であるのだ。無碍に扱うような愚か者はさすがに出なかった。



「私としては、ミナギ、サキ、そして、ケーイチの三名を同行させたい。もっとも、ケーイチ殿は別行動になるが」


「三名か……。さすがに厳しいのでは?」



 そして、シリュウ――ヒサヤ様とスザクの暗殺行に同行する人間。すなわち、巫女様に目通りを願う人間であったが、当初の予測を裏切り、アドリエルとリアネイギスは選ばれず、私とケーイチさんが選択されたことは正直驚きでもある。



「同志達は出来れば島に残しておきたい。巫女の真意は読めぬが、貴公等の人数が多ければ、不信感を持つかも知れぬ」


「ニュンとティグの姫君たちは……」


「お二人は、スメラギの民と言うよりも同盟者と言った位置づけだ。巫女を動かすとなれば、私の名代たるミナギとサゲツ公の名代たるケーイチ殿が相応しかろう。サキは、シリュウの女である以上、同行は当然と言える。シロウとユイまで行けばこちらの戦力が落ちすぎるしな」


「攻撃はあると?」


「無いと考えるのはさすがに楽観的すぎる。必要があれば、私達だけでも残らねばなるまいしな」


「それは……」


「少なくとも、私達だけでは手詰まりになるところであったのだ。貴公等の脱出を助力することは当然のこと。それに、手練れは一人多く欲しいのだ。それに、刻印の関係上、私達の方が長く島に残れるしな」


 

 そう言うと、お母様はアドリエルとリアネイギスの両名に視線を向ける。


「刻印を操られることは、私が責任を持って防がせてもらう。ニュン族の誇りにかけてな」


 アドリエルの表情や声も、普段の凛としたそれ以上に語気が強い。

 彼女なりに、今回の任務に賭ける覚悟は大きいのであろう。


 この辺りを踏まえても、話の主導権はサレムさんからお母様へと完全に移っている。

 有無を言わさぬだけの説得力はあるし、向こうとすれば毒と刻印の存在がどうしてもネックになる。

 となれば、法術の行使を防げるアドリエルの存在は大きいだろう。この島には木々や自然の類も多く、彼女の助けには十分になる。



「では、人員は良いでしょう。深夜0時に、暗殺部隊は出立する予定とある」


「到着は明日の明朝。二人の性格を考えれば、昼間からでも巫女に襲いかかるだろう」


「そこで、私達が巫女様を守護。加えて、協力を取り付ける」


「正直なところ、これが一番読めぬ。万一、巫女の協力を取り付けることが空振りに終わった場合、我々は持てるすべての手を打って、超兵器の破壊に向かう」



 私の言に頷いたお母様は、一瞬瞑目し、そう口を開く。


 たしかに、巫女様がどう動くかまでは、私達には読めない。彼女がジェガ等に協力していたという事実はあるが、単純に身に宿した魔力を使役されていただけという可能性もある。


 そうなった場合、私達は玉砕覚悟で超兵器の破壊に向かわざるを得ないであろう。



「その際には、我々も腹を括る。出来うることならば、避けたいことではあるが……」


「仕方ないさ。その時は、ジェガの義手ぐらい壊してみせる」


 サレムさんやシロウもまた、表情を引き締めてそう答える。元々、私達が巫女の協力を取り付け、解毒や刻印の除去法を探らねば彼らは救われないのだ。

 それが不可能となれば、せめて島からの自由な出入りぐらいはかなえたいというのが本音であろう。



「それでサレム。一時的な解毒薬は?」


「ある程度は完成している。サキ達にも持たせるから、万一の場合、スザク等の持ち分が無くなるまで粘っても良い」


「……分かりました。ですが、今は最悪の事態を避けられることを祈るしか」


「無いですね。では、他のことを」



 お母様の問いに、サレムさんはそう言うと、地下道を模した絵図を机の上に広げる。


 あまり見る機会は無かったが、この船渠をはじめ、島内には無数の地下道が存在している。

 元々か火山島であるため、ガスの通り道としてあいたものであろう。実際に危険区域として印のしてある箇所も方々に見受けられる。



「うむ。民間人などの脱出は?」


「閣下はご存じの通り、この島には複数の地下水道が通っています。それらを連結した地下道はすでに両の出入り口を開ければよい所まで来ています」


「ガスや薬剤、毒の確保なども済んでいるか……さすがの手腕だ」


「ありがとうございます。今日から明日にかけては、その総仕上げとゆきたいところです」



 そう言うと、お母様はサレムさんに対し、不敵に笑いかけるも、サレムさんはあくまでも表情を引き締めたまま、それに応じる。



 お母様があのような表情を見せる時は、相手の油断を誘っている時であるのだが……。今はその意図を察することは出来なかった。

 ただ、頼りなさげに見えるサレムさんが、お母様のあの表情、遊女としての位を極めたあらゆる者を籠絡するほどの視線に耐えるだけの精神修養を持っていることだけは分かる。


 だからこそ、皆をまとめていられるのであろうが。



「ではまとめるぞ。午前0時を持って、暗殺部隊は出立。巫女の協力締結とシリュウ、スザクの撃破に全力を尽くす」


「失敗の場合、私が全力を持って法術を天に放ちます。超兵器の影響か、風雨は晴れ、遠きカスガの地からでも閃光は確認できるはず。なれば、逆にこちらからでも」



 サレムさんの言に、私は前もって取り決めのあったとおりに口を開く。


 実際には、ヒサヤ様に協力を要請してあるため彼の手による火炎法術であるが、それでも上空へ向けて放てばかなりの高さを確保できる。


 大地からでは無理でも、飛空部隊であれば確認は可能なはずだ。



「よかろう。成功の場合、島内各所に設置した刻印球を用いて各所を陽動爆破、ヤツ等の目を背けた所で、島から脱出する」


「失敗の場合も同様、陽動爆破は行う。その後、全員で本拠地へと突入。かの超兵器“女神の檻”を破壊する」


「すべてが上手くいって、ようやくか。しかし、あんなばかでかいモノをどうやって?」



 内容自体は簡単な話であったが、大半は願望込みの計画でもある。


 短期間かつ縛りの大きい中でなんとか光明を見出そうとして生みだした計画であるのだから致し方なかったが、皆が皆、相応の覚悟を求められるだけの大小は生みそうでもあった。

 その最たるモノ。女神の檻の破壊が求められた際の行動も、リアネイギスの言の通り、見通しがないというのが実情なのだ。



「それは私がどうにかする。無茶な話かもしれんが、貴公等は、道を開いてくれるだけでよい」


「でも、閣下に万一の事があったら……」


「私に万一があるとでも思うのか? ティグの姫よ?」


「……そりゃあ」


「リア、やめておけ。娘と同じで、この方も一度言いだしたら聞かぬ」



 そんなリアネイギスの言に、お母様は強硬な態度で応じる。


 何か、お母様なりに見えている手段があるのかも知れなかったが、アドリエルの言の通り簡単に話してくれることではないだろう。


 しかし……。



「ふふ、言うではないか」


「私ってそんなに頑固ですか??」



 口元に笑みを浮かべ、余裕めいた様子でそう応じたお母様と困惑気味に応じた私の言がほぼ同時であったことはやはり親子だからであろうか?

 その様子に、一瞬張り詰めた空気になったその場が和らいだことだけは安心したが。



「まあ、良いでしょう。今は、出来うる限りの事を……他に、何かありますか?」


「一つ、よろしいですか?」



 そんな中、柔らかな笑みを浮かべていたサレムさんが再び表情を引き締めて皆を見まわす。


 他には特に意見はない様子であり、サキと目をあわせ、口を開く。



「ミナギさん。なにか?」


「実は、協力してくれる者が一人おります。紹介させていただけますか?」


「それはかまわないが……」


「分かりました。…………入ってきてください」



 皆、何事かとでも言うような表情で私達を見ている。そんな中で、お母様やシロウ、ユイといった面々は事情を悟ったのであろう。


 得心したように頷く様子が見て取れる。


 機会として良いのかどうかは何とも言えなかったが、それでも、この場で同志達に顔を見せておくことは問題ないとも思う。

 正体を明かすかどうかは、この際お母様に任せるしかない。



「…………」



 そして、扉が開かれる前にお母様と視線が交錯すると、お母様もまたゆっくり頷いてくれた。



「……紹介します、彼は……あら?」


「ミツルギっ!? 無事であったか」


「はっ、すまんなミナギ殿。邪魔をしてしまって……それから、こちらは」



 そして、扉が開かれたと同時にその場に立っている一人の青年、それは……、幹部の一人にしてその正体はスメラギ皇子ヒサヤである沙門天のシリュウ……ではなく、皇国神衛の一人にして、今はお母様の側近でもあるタケル・ミツルギ。


 そして、その背後には外套を深くかぶった長身の男とヒサヤ様が困惑した様子で佇んでいる。




「なっ!? シ、シリュウっ!?」




 そして、私の紹介が遅れたためか、ヒサヤ様の姿を目にした同志達が、一斉に色めきだつ。予想された状況ではあったが、思わぬ所でのミツルギさんの登場に動揺したことも事実だった。



「落ち着け。お前らを討伐しに来たわけじゃあない」


「……ミナギさん、彼らが?」



 そんな状況に、ヒサヤ様はやれやれといった様子で肩をすくめる。協力するつもりであったのだが、いきなり殺気を向けられては苦笑するしかないのであろう。


 自身のこれまでの行為は理解しているのだろうが。



「ええと……、シリュウはそうです。それと、ミツルギさんは、お母様の側近で、もう一人の彼は」


「…………ミナギ。大きくなったな」


「え?」


「その声。そなた……っ!?」




 そして、困惑しつつも、私はヒサヤ様とミツルギさんに対して言及するも、もう一人の男に関しては情報がまるでなかった。

 だが、そんな私に対し、ゆっくりした口調で声をかけてきた男。その声は、決して忘れる事の出来ない声。



「お兄様……?」



 その声に、私は静かに口を開く。記憶にあるその声が正しいものならば、今外套によって外見を隠すその青年の正体は、“血の式典”の際に別離した兄、ハヤト・ツクシロその人であるというのだろうか?



「ミナギ、それから、ミオさん。他に、彼の姿を知っている者は、少し、覚悟をしておいた方が良いかも知れん。まあ、俺は格好良いと思ったが」



 しかし、外套を羽織った青年はそれには応えず沈黙するのみである。外套の下がどうなっているのか、それが原因のような気がしていたが、お兄様であるとすれば、無理にそれを晒させるというのも気の毒であるように思える。

 そして、ミツルギさんと共に傍らに立っていたヒサヤ様の言に、外套の青年はわずかに顔を上げる。



「殿下、お戯れを」


「殿下??」


「あ、えっとその…………」



 そして、外套の青年が発した言葉に、他の者達が皆、訝しげな表情を浮かべている。


 さらに予想外の状況になってしまい、どう取り繕うべきか悩んでしまったが、そんな状況もある人物の一言ですぐに静まることになる。



「この者の言は本当だ。沙門天のシリュウ……教団幹部であるこの男の正体は、五年前のケゴンにおける“血の式典”に際し、消息を絶ったスメラギ皇子、ヒサヤの尊。そして……」


「あ、母上っ!!」



 いったん言葉を切り、外套に手をかけたお母様は、思わずそう口走った青年の言を無視して外套をはぎ取る。


 すると、外套の下からは、神衛の衣服に身を包み、背には漆黒の6枚の翼。そして、頭部の大半は白と黒の美しい毛並みに覆われ、臀部から同様のふわりとした毛並みの尾を持った青年の姿が晒し出される。



「っ!?」



 私もまた、皆とともに息を飲むも、よくよく見れば、その顔立ちは、記憶にあるお兄様それである。

 そう思うと、衣服に隠れぬ部分から見て取れる、全身に刻まれた傷痕の方がはるかに気になりもする。



「っ!? …………姿は変われど、顔の作りに変化はないではないか。皆、この男もまた、ケゴンにて消息を絶った我が息子、ハヤト・ツクシロ。皆々、突然の登場に困惑するかも知れぬが、二人の身元は、このミオ・ツクシロの名を以て保障する」



 そして、私と同様、一瞬息を飲んだお母様は、すぐに表情を引き締めると、いまだに困惑する者達に対し、凛とした口調でそう告げたのであった。

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