第十八話
激しい閃光が消えた後、その場にあったのは静寂だけであった。
「ぐっ……、うう、なんとか、立てるか」
カザミたちを見送った後、彼から渡された治療薬を口に含んだミスズは、ようやく自由が効き始めた身体を起こし、祭壇の間へと通じる通路に視線を向ける。
回復効果よりも、痛みを止める左様が強い薬品であり、過剰な投与は生命の危機をももたらすモノであったが、鍛え抜かれた彼女等にとっては常人の半分ほどの量でも十分効果が期待出来た。
「アイナ。これを……」
そして、傍らに倒れる友人の口にそれを含ませたミスズは、その先にて倒れる老女へと視線を向ける。
意識を断つ直前、せめてもの思いをこめて彼女の目を閉ざしたのだが、状況を見るに無駄に体力を使ってしまっただけだったようだ。
「いつも、私の行動は無意味だな。あの頃も……」
何とか身を起こしつつ、過去の学生時代の事を思い返すミスズ。
今となっては、恥ずかしい過ぎると同時に取り返しの付かない過ちを犯すところであったあの頃。
だが、そんな行動も二人の男女の思いを阻むことは出来ず、自身の愚かさに気付かされる結果を生んだだけであった。
「その通りですよ。母上、いや。ミスズ・カミヨ閣下」
「っ!?」
そんなことを考えていたミスズだったが、それが彼女にとっては想定外の状況を生んでいる。
普段であれば、接近すらも許さなかったであろう状況。にもかかわらず、彼女の背後には自身と同じ色をした外装に身を包んだ少年と彼に率いられた漆黒の装束に身を包んだ影達の姿あったのだ。
「トモヤ……。貴様っ!!」
「ふ、息子に裏切られるというのは如何なものですかな?」
「何を言うか。貴様……、カミヨ家の、名を継ぐ者が、反逆者どもに、組するというのか?」
そんな少年。ミスズにとって、本人が口にするとおり、“息子”に当たるトモヤは、苦しげに言葉を紡ぐミスズに対し、影達が手にした砲筒を向けさせる。
満身創痍の彼女にとって、向けられる砲筒の数は十分に致命傷になる程のもの。
そしてそれは、無慈悲にも彼女に標準を合わせて、そこに並んでいた。
「カミヨ家、ですか……。所詮、私は種馬と売女の間に生まれた男。あなたのように、カミヨ宗家の血を継ぐ人間ではございません」
「っ!? 貴様、なぜ、それを……?」
「なぜ? 生まれてこの方、あなたに抱かれたこともっ、息子としての愛情を受けたことも一度もなかった。そして、ツクシロ。あなたが大事にしている友人の娘が口にしましてね。ヒサミ。と言いました。父上が懇意にしていた女性の名です」
「っ!?」
「まさかとは思いましたが、父上の部屋に行った際に見かけた名を告げられて思うところがあったのですよ。なんと言っても、父上との関係を拒んだ母上によって、私の本当の母親は殺害されていたと言うのですから」
いっきにそう捲し立てたトモヤに対し、ミスズはわずかに目を見開いたまま反論できずにいた。
その様子に、トモヤは彼女が自身の後ろめたさを感じたのだと理解し、口元に笑み浮かべる。彼にとって、生まれてこの方、愛情を向けてくることの無かった眼前の女性を母親と思ったことなど一度もない。
そして、それは当然でもあったのだ。彼女は彼にとっては、母親でも何でもないのだから。
「それにしても、まさかあなたが親しみをもって接していた女の口から、事実が語られるとは。愚かにもほどがある」
そして、黙ったままのミスズに対し、トモヤはさらに先ほど彼女が親しくしていた少女の姿を思い浮かべながらさらに口を開く。
思えば、自身を挑発してきたミナギの言がなければ、このような真実に辿り着くことはなかったであろう。
それぐらいのことはトモヤにも分かっている。
そして、真実が知られたことで卑屈になるほど、ミスズもまた甘くはなかった。
「ふん。やはり、種馬と売女の血か。剣以外に脳のない男と身体を売る以外に脳のない女。そして、その子は家と国を売る。見事な血筋よ」
ミスズの脳裏には、親同士の間で決められた夫であった男とその男に媚びを売る女の姿。両名ともに湯治の際の事故死と言う事になっているが、直接手を下したのはミスズ自身である。
このことは固く隠蔽していたはずだったが、実のところ、それが行われたのはミオが売り飛ばされたばかりの遊郭に近接する施設で、ミオは一部始終を目撃していたのだ。
そして、ミナギが白桜へと入学する際に知ったトモヤの素性と素行。
そこから、ミナギにとって、彼が害になる行動をとると見たミオは、何気なしにその事実をミナギに話していたのである。
実のところは、ミスズの所業に対しても思うところがあったのも大きい。ただ、それがこのような危機を招くと言う事までは、神ならざる身であるミオにとっても予想外のことであったのだが。
「ほざけ……。国を売るのは貴様だっ!!」
「私が? 冗談はあの世で言うのだなっ!!」
そんなミスズの言に、表情をゆがめ、顔を紅潮させたトモヤ。
すでに、両者の間に母子という感情はなく、そこにあるのははっきりとした憎悪だけ。そんな状況の中、傷ついた身体に鞭を打って地を蹴ったミスズ。
途端に、砲筒から放たれた弾丸が一斉に彼女へと向かっていく。
だが、それを意に返すことなく、彼女は跳躍してそれを躱すと、さらに発射された次発を物理法則を無視するかのように躱して行き、ついにはトモヤと影達の元へと肉薄していく。
「ば、馬鹿なっ!?」
動揺するトモヤと影達。
躊躇うことなく剣を横に一閃、影達を両断する。しかし、トモヤはそれを何とか受け流し、後方へと突き飛ばされるだけで難を逃れる。
「ほう? 剣伎に関しては、史上でも上位の才覚と言われるだけのことはある」
「ふん、貴様が男から受け継がれた才よ」
「精々誇るがよい。味方殺し譲りの才覚をな」
「なに?」
その様子を目にしたミスズは、立ち上がって剣を構えてくるトモヤに対し、一瞬感心したような表情を向けるも、何かを思い返すかのように口を開く。
そんなミスズの言に、今度はトモヤが眉を顰め、さらには驚愕する番であった。
「知らなんだか? 我が夫は、その剣伎を見込まれて当家に迎えられた。もちろん、卓越した力量はあったが、いつしかそれを味方にも向けるようになった。自身の才に溺れ、戦いではなく殺しを味を求めてな」
「……う、うそだっ!!」
「事実だ。そうでなければ、父が私を許すはずも無かろう。妾との同衾など、咎め立てするほどの事でもないのだからな。まあいい、汚れた血は、相応の最後を迎えるに限る。跪け、精々楽に殺してやる」
そして、なおも狼狽し、構えを崩すトモヤ。
それを目にしたミスズは、なおも砲筒を向けてくる影達を一閃。動くこと無き骸へと変えると、再びトモヤの眼前に立つ。
トモヤはいまだに驚愕から立ち直っておらず、空ろな目をしながら身体を震わせるのみ。それに対し、侮蔑の視線を向けたミスズは、無言で剣を振り上げる。
そして、迎える決着。
だが、そのまま床に倒れ込んだのは、トモヤではなくミスズの方であった。
「な、に……?」
突如として背に感じる激痛。
倒れ込んで背に手を回すと、小型のナイフが背に突き立っていた。そして、じわりと広がってくる奇妙な感覚。
全身が震え、思考が遠退き始める。
(な、なんなのだ……?)
かろうじて、今の状況にそう問い掛けたのを最後に、彼女の思考は闇に包まれていった。
◇◆◇
月明かり受けて光り輝く白刃を弾くと、躊躇することなく剣を振るう。
腕に肉を斬り裂く感覚が伝わってくると、そのまま手首を返して脇から斬り込んできた敵を斬り裂く。
もんどりを打って倒れ込んだ周囲の兵士を横目に、ミナギは背後から感じた気配にそのまま後方へと飛び退き、背後の人物を突き飛ばす。
「な、なんだっ!?」
「ぐっ!!」
驚きとともに声を上げたその人物、スメラギ皇国皇孫ヒサヤの皇子。
だが、それに応えることなく、彼の盾になる形でミナギの身体に白刃が届き、激痛とともに衣服がちで赤く染まっていく。
なおも追撃を加えようとした敵兵達であったが、彼らは連続した乾いた音とともに額を穿たれ、その場に崩れ落ちる。
「ミナギ、大丈夫かっ!?」
今だ刻印の光を燻らせる砲筒を片手に、ヒサヤは空いた手をミナギにかざし、法術による止血を行う。
以前の誘拐騒動の後、彼もまた法術の腕を磨き、応急法術などは中流段階ぐらいならば楽に使役できている。
「ツクシロ。こっちを」
「ヒムロ?」
「殿下。今は、法術の使役で肉体の消耗は避けるべきです。こちらも、痛みと止血ぐらいしか効果はありませんが、我らの身体ならば大きな問題はございません」
そんな二人の元へ駆けつけ、ミナギに対して丸薬を飲みこませてくるヒムロ。
ヒサヤの法術で傷は塞がりつつあったが、それにも増して痛みが消えていく感覚。丸薬の正体は分かったが、ミナギ自身は負傷していた手前、それを使用する余裕がなかったのだ。
「う、うむ」
「申し訳ありませぬ」
「なに、これだけの数だ。よくやっている」
そう言うと、ヒムロは口元に不敵な笑みを浮かべながら、迫ってくる敵兵達を睨む。
彼らが敵兵達に襲われたのはおおよそ一刻程前のこと。キルキタを目指し、ひたすら道無き道を駆けていた彼らに対し、突如として射掛けられた膨大な数の火矢。
豊かな原生林が燃え盛り、そこに生きる動物達が悲鳴混じりの声を上げるなか、ミナギ等の眼前に立っていたのは、完全装備の赤き軍団。
即ち、ベラ・ルーシャの正規兵の姿であった。
ベラ・ルーシャは主にホクリョウ地方を中心に住民の強制移住を進めており、民族構成はほとんどがベラ・ルーシャ本国民となっている。
この辺りが、スメラギ現地人を徴兵して自軍に組み込んでいる各国とは異なる状態であり、混血の者を除けば反乱の危険は少なくなる。
スメラギ人ならともかく、ベラ・ルーシャ人にとっては、スメラギ皇室等は、亡国の残滓。奴隷たちの頭目。差別階級の象徴という認識しかない。
それ故に、今もこうして躊躇うことなく剣を向けてきているのだ。
「ぐっ……」
「さすがに数が多いな」
そんな中、ベラ・ルーシャ兵の中心に躍り込んでその数を削ってきていた四人の神衛がヒムロとミナギと並ぶようにしてヒサヤの前に立つ。
既に彼らの姿は返り血で赤く染まり、ところどころか斬り裂かれて血が滲んでいる。また、回復役も兼ねているトモエなどは肩で息をするほどでもあった。
「離宮を攻撃してきたのは、洗脳されたスメラギ人でしたが、まさか埋伏に正規兵を使うとは」
「はじめから、脱出させることは前提だったのだろう。斬り抜けるしかないぞ」
そんな状況に、互いに全身に傷を負ったミツルギとミロクの両者が口を開く。ミツルギは、ハヤトともに正門付近での戦闘に加わっていたため、離宮に攻め上ってきた敵の正体を知っている。
そして、その様子がただ事ではなかったことも。
年長のミロクもまた、それらの状況から現状を冷静に見つめ、鋭い視線で武器を構えるベラ・ルーシャ兵を睨む。
「ちいっ、煩わしいっ!! 殿下、徐々に後退してください。ですが、今はまだ駆けぬように、背を見せれば、途端に襲いかかってきます」
「わ、わかった」
「ツクシロ、殿下の絶対に離れるなっ!!」
「承知っ!! ヒサヤ様行きましょう」
そんな状況の中、森林の中からやや森の開けた方向へ向かって後退する一向。
ミツルギの言の通り、先ほどまで集団の内部に入りこまれて暴れ回られたベラ・ルーシャ兵達は、今のところは様子を窺うように距離を取りながら歩み寄ってきており、時折射掛けられてくる火矢に煩わされる一向の隙を窺っている。
ここで一気に距離を取り、ヒサヤだけでも逃がすというのも一手であったが、キルキタに達する前にどれだけの埋伏があるのかも分からない状況なのだ。
これだけの兵がいったいどうやって? という疑問もあったが、今はそれを問うている暇はない。
「ミツルギ。行けるわ」
「……よし、殿下。ツクシロ。合図で一気に駆けてください。この先に崖がありますので、そこまで」
「っ!? そう言うことか。分かったっ!!」
そうして、互いに睨み合いが続く中、一人、目を閉ざしていたセイワが静かに口を開く。
それに頷いたミツルギは、ヒサヤとミナギに対してそう告げると再び敵兵達を睨む。
背後が崖。
通常であれば、逃げ場無き所に追い込まれたことになる。しかし、力強く答えながら頷いたヒサヤにミナギも笑みを浮かべて頷く。
そして、セイワが目を見開くと同時に、その長き黒髪と衣服を風に揺らしながら、前方にかざした手に濃緑色の光を灯す。
同時に、ミツルギが剣を虚空に振るうと、一向はヒサヤを先頭に後方へと駆け出す。
それを見た敵兵達も一斉に地を蹴るが、その多くが目的を果たせぬまま、望まぬ接吻を余儀なくされることになった。
何かに躓くように、駆け出したベラ・ルーシャ兵達が転倒し、後続の兵もそれを買わすことなく次々に転倒していき、それを逃れた兵達には、地より現れて木の刃。そして、無数の蔓たちがまるで鞭のように彼らに襲いかかっていったのである。
“森の刻印”。
文字通り、大地に根ざす木々達の力を使役する刻印であり、このような深き森にあっては、木々達も喜んで協力してくれる。
何しろ、攻撃対象となるベラ・ルーシャ兵は、先ほどから無造作に火矢を周囲に放ち、森を焼き尽くさんとしているのだ。
「何をやっているか。前の者が死んだら、その武器を取って標的を追えいっ!! 後退するモノは死あるのみっ!! 貴様らの命に、価値があると思うなっ!!」
だが、それでもなお、生き残ったベラ・ルーシャ兵の数は多く、後方から指揮官の怒声が聞こえたかと思うと、その声の通り、木々や蔓によって倒された兵の武器を手にしてミナギ等の後を追っていく。
広大な領土と膨大な人口。それらを背景にした、人権を無視した数の暴力。
それが、世界帝国パルティノンを倒したベラ・ルーシャの、その支配者たる教団が採用する戦術であるのだった。
「くっ。人でなしどもめっ!!」
「ミツルギさん、今は怒っている場合ではっ」
その様子は、森の切れ目に差し掛っていたミナギ達の耳にも届き、皆が皆顔をゆがめてそのような暴言に非難の視線を向ける。
だが、ミナギの言の通り、今はこの状況を脱する方が先であった。
「ツクシロはミロクとともに。殿下は私とヒムロがお連れする。行けるかっ!!」
そうして、崖に差し掛かりミナギはその高さをのぞき見る。
おおよそ、捕まる所など無いように見えるほど滑らかな岩盤面が、眼下の深き森に向かって伸びている。
吹きつける風の強さが、その高さをさらに強調しているように思えた。
そんな崖の様子に、ミツルギたちは、手首につけた籠手から細い金属紐を引き出し、互いに頷き合う。
ミナギやヒサヤもそれに倣い、以前神衛の修練にて学んだことを思い返す。
降り方自体は、ほぼ飛び降りる者と変わらないが、そこに仕込んだ熊手状の鉤を岩盤に引っかけて降下速度を減速する。
着地に関しては、個々人の受け身に頼るしかなったが、それらの訓練は嫌になるほど学んでいる。
なにより、時間を稼ぐことの方がよほど重要なのだ。
「私は大丈夫だ。お前達も」
「殿下。私どもが優先するのは、殿下の御身の安全にございます。お聞き届けをっ!!」
しかし、そんなミツルギの指示に対し、ヒサヤ様は異を唱えるように答えると、手際よくそれを準備していく。
自分を補助すれば、彼らがそれだけ危険になる事を察してのことであったが、この状況に、そのような気遣いは不要であった。
ミナギをはじめとする神衛達にとって、ヒサヤと比べれば自分の命など鴻毛が如き軽きもの。
当然、はじめから自身の生還などは考えていない。とはいえ、護衛任務に際しては、途中での脱落ほど無様なことがないことも事実。
それであっても、彼らにとってはヒサヤとミナギの補助などは問題ない事例であるが故の指示でもあった。
しかし、そんな彼らの気遣いも、宵の闇中から吹きつけてきた一陣の風によって不要なモノとなる。
突然の突風に、思わず目を閉ざしたミナギ。何事かと、風の行くえへと視線を向けると、そこには宵の闇の中を悠然と羽ばたく飛竜の姿。
そして、飛竜はそのまま大きく羽ばたきつつ、上空にて大きく身を捩ると、向かって来るベラ・ルーシャ兵に対して、口から吐き出した膨大な炎を浴びせかけた。
途端に、悲鳴と膨大な熱。そして、何かが焼け焦げる匂いに包まれる森林。
それはまさに、強大な力による一方的な蹂躙であった。
「待たせたな。遅くなってすまなかった」
「師範っ!?」
そうして、飛竜を駆りながら声をかけてきたのは、ミナギやヒサヤにとっては、白の会における修練の師範であるシオンであった。
普段であれば、冷淡な表情で状況を見つめている彼も、緊急の事態にやや気持ちが高揚しているのか、普段以上に声が高い。
「シオンっ、姿が見えないから何事かと思ったぞっ!!」
「すまんな。哨戒任務に出ていて、帰還が遅れた。この先にも埋伏があり、それを駆逐してもいてな」
「では、キルキタ方面には?」
「大分数は減った。飛空部隊が牽制しているため、移動を開始しているからな」
「分かった。では、ヒサヤ様とツクシロだけでも先につれて行けっ!!」
「えっ!? しかし、私も」
「半人前に頼るほど我らはなまくらではない。行けっ!!」
そして、思わぬ援軍に状況は変わる。
ヒサヤにとって、危険な崖移動をするよりは、飛竜によって一気に脱出する方がよい。ミツルギ等がそう判断するのは至極当然のことでもある。
そして、あいにくと飛竜もまた万能ではない。
全員が載れぬ事もないが、ベラ・ルーシャにもまた強力な飛空部隊は存在しており、空中での格闘戦になった場合には、人数の多さが仇となってしまう。
加えて、今の彼らにとって、学生の身分に過ぎないミナギもまた、護衛対象の一部分と言える存在である。
もちろん、自分の身ぐらいは守らせていたし、戦闘の補助には十分になっている。だが、彼らの性分として、正式任官前の少女に対しては、無意識のうちに保護意識が向くのである。
残念ながら、ミナギの意志とは関係無しに足を引っ張る形になっていたのだ。
「では、参りますぞっ!!」
「頼んだぞっ!!」
「承知っ!!」
そして、飛竜に乗り込んだヒサヤとミナギを胴体部分につけた甲に掴まらせると、シオンは飛竜に指示を出して夜空へと舞い上がる。
それを見て、五人の神衛達は一斉に声を上げつつ、崖から身を投じる。
後は、彼ら自身も生き残らねばならないのだ。
「師範……あっ!?」
その様子を見つめつつ、シオンに対して口を開き駆けたミナギ。
そんな彼女の目に、宵の闇の中で激しく燃え盛る森とその先にある離宮の姿が映りはじめた。
「お祖父様、お祖母様、父上、母上…………」
ヒサヤの弱々しい声が二人の耳に届く。
皇族達の別れは、ほんの僅かな時。それも、祖父にあたる神皇、父たる皇太子とは顔を合わせぬままの別れであったのだ。
「お母様……みんなも」
そんなヒサヤを抱きしめつつ、ミナギもまた残してきた家族や友人達の姿を思い浮かべる。結果として、ヒサヤと行動を共にしていたことが、こうして自身を安全圏まで運ぶ形になった。
しかし、ハルカやヨシツネをはじめとする候補生達もまた、あの場にて戦いに身を投じているはずであった。
「すぐに会える。心配するな」
それを見つめつつ、先ほどまでの昂揚をどこへとやったのか、普段通りの冷たい声色で答えるシオン。
そんな彼の手が、不意にミナギの元へと伸びてくる。
「えっ?」
「もっとも、ミナギ、お前は、冥土にての再会だがな」
そして、冷然とそう言い放ったシオンの手に握られているのは、先ほどまでミナギが使役していた砲筒の片方。
白塗りに塗装された砲身と黄土色の金具部分が、月の光を纏って普段以上に輝いて見えている。
そんな、ミナギにとっては愛用している武器が、今なぜ自分に向けられているのか。
その問いの答えは、夜空に響いた乾いた音のみが知っている。
不意に、誰かの叫び声が聞こえたかと思うと、ミナギは全身が浮遊感に包まれると同時に、急に強くなり始めた風に全身が抱かれているかのような、奇妙な感覚に襲われていた。
(なんなの? これは…………)
そんな状況に身を置きながら、そんなことを考えていたミナギの思考は、やがて宵の暗がりの中へと消えていった。
web拍手にて、名前が似ているキャラが多いと言うご指摘がありましたので、この章が終わったら簡単な登場人物一覧を用意しようと思っています。
何かご意見等がございましたら、よろしくお願いします。




