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とある準備のおはなし

 人の多くがナノマシンを入れている。情報処理に便利なのもあるが、もしもの時のために、傭兵のように新しい躯へと受け継ぐときのために。そしてこのナノマシンのお陰で、俺達は娑婆で銃を持ったままウロウロできる。

 銃砲刀剣類所持法が改正されて、強盗などは劇的に減ったという。そりゃそうだ、店員に銃を突きつけて脅せば、周囲の客や店員が揃って撃ってくるとなれば割に合わない。人質が死んでも蘇生できるからと本当に躊躇いがない。強盗の成功例は、最近では滅多に見なくなった。

「銃……」

 新兵が銃砲店でウロウロしている。俺はこの前の戦場でぶっ壊したMASADAの修理が終わるのを待つ。相棒は珍品が並べられたショーケースを飽きもせずべったりとへばりついて眺めている。

「先輩、俺も銃がほしい」

「自分で買え」

 初期装備の89式ではかなりの不満があることだろう。悪いものではないが、アンダーバレルグレネードやら光学サイトとかをつけるのは難しい。

「そうじゃなくて、どんなのがいいのかって」

 銃なんて人それぞれ、趣味や実用性や撃った感覚で決めるものだ。少なくとも俺はそうしてきた。

「だったら適当に撃たせてもらえ。あっちのレンジで試射できる」

「はい」

 シューティングレンジに向かう新兵を見送り、相棒を見て、これを見ててもつまらんと悟る。何が面白いのか、微動だにしない。視線の先にはデザートイーグル.50BMGカービンなるよくわからないものが置かれている。それを買うくらいなら.50AEの14インチか、バレットライフルあたりを買ったほうがいい。戦場にロマンは要らない。

「これとかどうです?」

「どんな感じですか?」

「精度も良くて遠くまで届きます。反動も軽めで初心者でも大丈夫。堅実な構造で確実に動作します」

 あの店員はダメだ。どこに三八式歩兵銃レプリカを傭兵に売りつける馬鹿がいるのか。

「おい」

「おや、こんにちは。久々ですね、今日も鹵獲品を売りに?」

「いつまでもハイエナじゃねぇよ。俺の銃の修理だ……というか傭兵にそんな旧世界の遺物を売りつける気かよ」

「え? 傭兵? 二人のお子さんじゃなくて?」

「俺、ガキがいるように見えるか?」

「徴兵初期からの歴戦の傭兵となれば、結構なお年かと」

「さすがにこんなでかいガキがいる歳には見えんだろ」

「第一次ウォーベビーブームから数えたらちょうどくらいじゃないですか」

 傭兵に子ができたとして、それが育てられるか。否。

「…………」

「先輩?」

「どうしました?」

「いや。俺の子がいれば、たしかにこれくらいだな、とな」

「もしかしたら、もしかするかもしれませんよ?」

 子を捨てれば、未来でそうと知らず子と出会うこと、その可能性は高くはないが、ないとも言えない。だが俺と、我が子とが出会える可能性は。

「いや、ない」

「ああ、なるほど」

 察したらしい。店員がどういう結論に至ったかはわからないが。

「?」

「いや、ちょっとした昔話だ」

 不思議そうな顔で、言葉もなく問う新兵に、それだけ伝えて誤魔化す。聞かせたくない過去を、敢えて自ら晒すなど。

「AK辺りを撃たせてもらえ。さすがの狙撃銃でも三八式はありえん」

「あぁん、せっかく不良在庫が売れると思ったのに」

「阿呆」




 新兵は筋がいい。鹵獲品のSVU-Aで中距離狙撃ができるくらいには。相棒ほどではないにせよ、なかなかのもの。

 だがL85を選ぶのは許しがたい。

「タボールにしとけ」

「グローザとかどう?」

「あ、ミニガンとかありますよ」

 この店員はどうにかした方がいいだろう。重量といい弾薬消費といい反動といい、サイボーグ連中でさえ敬遠する重機関銃だ。まだM2あたりの大口径重機の方がマシだ。火力に不安があるからと、バレットライフルの代わりに使っている馬鹿もいないではないし。

「そこらにあるの、適当に撃って好きなの選べ。相棒、ついてやってくれ」

「はい」

「了解です」

 相棒はそこらに立て掛けてある銃を手当り次第に掴んでレンジに持ってゆく。それに続く新兵。

「ちょ、勝手に撃たせないでくだだいよ〜。いいですけどさ」

「だったらもっとまともな提案をしろ」

「いえいえ、今度は真面目ですって。山口に行くんじゃないんですか?」

「そのつもりだ」

「最近、派手な連中が山口入りしてますから。どっちの政府も動きは怪しいですし、正規軍もそれなりに動き始めてます。この前なんて企業軍が店にある弾ぜーんぶ買い占めていきやがりまして、しばらく常連さんに文句言われまくって大変でしたよ」

 政府が動くと全部が動く。外交の最終手段たる戦争が、国対国のチェスの賭け試合のようになったのは今に始まったことではない。デカく儲かる戦争しかしないグループ系の企業軍が動くということは、山口全域での戦闘か。

「で、派手な戦闘があるなら、と思いまして」

「あいにく、デカいドンパチには手を出さん主義でな」

 戦争が巨大になるほど、戦力の数は増える。つまり人間が増えるという事であり、戦争に使う予算は増えても分母はそれよりはるかに多くなる。敵の投入する戦力も相応で、死ぬ可能性もより高くなる。

「じゃあ、なぜ山口へ?」

「久々のハイエナさ」

 新兵に汚れ仕事を教えるにはちょうどいい。生きるのに善も悪もないのだから。

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