表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

不死の兵士のおはなし

 最後の記憶は、相棒に7.62mmを投げた瞬間。うまく届いただろうか。

 目覚めてすぐ、リザルトを開く。今回のキルレシオは……5か。珍しく高いスコアだ。2回分はペイできる。次は少し豪華な装備を持っていけるかもしれない。相棒が生還すれば装備も帰ってくる。僅かな希望だが。

 せっかく高い金でわざわざマグプル時代のMASADAを手に入れたのだ、あれを失うのは勘弁願いたい。

「起きたかね」

「またあんたか」

 見慣れた顔、見慣れた白衣。いつもの、あの憮然とした仏頂面。気むずかしいという訳でもなく、気がついたらそんな顔になっていたらしい。何年か前にそう聞いた。

「酷い言い草だな」

「見たくない顔……ってほどでもないか。死んだら確実に会うからな、俺らにとっちゃ死神みたいなもんだろ」

「言いたいことはわかるがな。俺はあんたら兵士を蘇生しとるんだ。死神とは逆の存在だよ」

 こいつが居なければ、俺はここでリザルトに一喜一憂すことすらできなかった。ネクロマンサーなどとはよく言ったものだ。が、世間一般で忌み嫌われるコイツらは、俺らにとっちゃ唯一の救いの神だ。

「ああ、君の相棒だがね。無事に戻ってきたよ。君のACRも「MASADA」……マサダも持って帰ってくれたそうだ。会ったら礼を言うんだな」

 あの生存能力が低いアイツが、まさか生き残るとは。たいてい、俺が先に死ぬと死んで戻ってくる。気を抜けばあからさまな地雷原に突っ込んで行ったり、クリアリングもせずに狙撃地点を確保したり、おおよそ戦争に連れて行きたくない、戦闘で相棒にしたくない人間ランク1位を独走しているような馬鹿だ。

「どうやって?」

「知らんさ。そんなの見てる暇なんてないからね」

「こうして悠長に話してる時間はあるのに?」

「今は休憩時間。君のところなら休憩が終わるまでだらだらしても文句は言われないだろ」

「移動時間をケチったか」

「もっと前向きに解釈してくれ。時間の節約だ」

「で、いつまで付き合えばいい? 報酬とか支払いとかしたいんだが」

「たったいま休憩が終わった。特に問題なし。退院していいぞ」

「そうか。じゃあ商売の話だ」

 せっかく借金もない上に5人も殺せたんだ。少しは贅沢をせねば。

「強化は採算が合わんと、前に言っとったが」

「生身で強化歩兵を相手にするのは、な」

「向こうの正規軍か。よくまあ、生きて帰ってこれたな」

「いや、キツかったがどうにか殲滅した。気が抜けたところにスナがいたんだよ」

 綺麗にヘッドショットされたようで、負傷の記憶すらない。後でじっくりリザルトを見ておこうか。

「それで、何をするのだね?」

「強化ナノを少し突っ込んでくれ。気休めだけど。一応次死んでも身体構造に反映はされる、って聞いたからな」

「どこで聞いたのか知らないが。密度が上がるから、躯の単価は上がるぞ」

「どれくらい?」

「強化の度合いによる。あんたの持ってる金じゃ、全部つぎ込んでも精々誤差レベルだがね」

「どれくらい強くなれる」

「単に筋力があがる、と言えば強そうに聞こえるだろうが。現実はそう甘くはない。難しいぞ」

 知っている。卵を潰さずに持つことすら難しくなるのは、よくあることだ。

「覚悟のうえだ。やってくれ」

「承った」




 目が覚めると、相棒がいた。

「はいこれ、忘れ物」

 忘れ物。一応ここは病院で、剥き身のMASADAが何でもないように差し出される。

「ああ、助かった。これだけは失いたくなかった」

「大事にしてたもんね」

「命に代わりがあるがこれはそうそう代わりはないからな」

 ベッドのわきに立て掛けられる。EMP対策のためにアイアンサイトしか載ってない上部レール。銃剣付。

「銃剣くらい外しても良かっただろ」

「外したら文句言うでしょ」

「なんで」

 いやまて、もしかして。

「スコープと銃剣じゃ扱いが違うだろ」

「え? 違うの?」

「お前みたいに評定射撃数回で精密狙撃できるような化物はいないんだ。調整いじられたらキレるのは当たり前だ馬鹿野郎」

 戦争を勘で生き残る。こいつは当に天才だった。だが、才能だけで訓練もしない人間が生き残れるほど戦場は甘くはない。はずなのだが。

「で。どうする? 暫く娑婆で遊んでいくか?」

「いいねーいいねー!」

「金は無い。お前持ちな」

「えー」

 スコアは俺より多く、死亡回数は俺よりちょっとだけ多いくらい。躯にも訓練にも金を使わない。武器は安物。コイツを量産すれば、今の戦争はあっさり終わる気がしてならない。そうなったら、俺は食いっぱぐれてニートに逆戻りだ。心に秘めておこう。

 ともかく、稼いでも金を使わないから、コイツはかなりの金持ちだ。苦労代として俺の飲み代くらいは出してもらっても罰は当たらないと思う。

「よし、行くか」

 政府から支給されている服、通称『初期装備』にさっさと着替えてMASADAを背に病室を出る。

「ちょ、まだ払うって言ってないんだけど!」

「どうせいつも通りお前持ちだ」

「そんなぁ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ