EP 003 遭遇
三機の灰色の輸送機が、午前の太陽に照らされていた。
機内は『BTMA(戦闘型機動アーマー)』に身を包んだ隊員たちのピリピリとした緊張感が蔓延している。
「特殊先攻自衛隊」通称「特自」、陸自・海自・空自とは別で、日本の領土がテロや他国の侵略により不法占拠された場合の先攻部隊として創設された陸海空すべての能力を持つ部隊で、熱海・弁天崎・ 留萌・新潟・浜田・佐世保・田辺の7カ所に基地をかまえている。主な内容は敵の兵力と占領地の状況を把握し、敵に見つからないよう敵の指揮系統を潰すこと。
そして、今回は特先史上初めての実戦だった。が、その内容は誰もが予測しえないぶっ飛 んだものだった。伝えられた内容は以下の通りだ。
『熱海特殊先攻自衛隊への出動要請を要請する。場所は江戸前市をはじめとする東京都全域。敵の詳細不明。高層ビルの倒壊及び損傷がある模様。内陸部と湾岸部から挟み撃ちにせよ。目標は民間人の救出を最優先、敵に関する情報を集めること。』
挟み撃ちにせよ。つまり上も相当切羽詰まっているようだ。湾岸部からの進行がなにを意味するかは、誰もが察しがついた。
そして、湾岸部隊に分けられたものがこうして輸送機で運ばれている。
ようは高高度降下低高度滑空「High Altitude Low Glide:HALGだ。簡単に言うと目的地に高度10,000mからダイブする、とても愉快なものだ。100mでウイングクロスを張り、だいたい高度50m前後を維持しながら巡行速度150km/hから350km/h、戦闘時となれば500km/hを下らず最高857km/hで滑空するのだ。アクティビティで使うようなウイングスーツとは違い推進装置付きで、どちらもBTMAの脱着式オプションのひとつだ。
『よっ、レノックス。』
『だれ?』
聞き返したのはみんな同じヘルメットで、無線越しだから声の判別がつかない上に隊員期別表示を切っていたからだ。
『同期で親友でライバルの河上 淳ですよ〜。』
『淳か。なんだよ。』
『おまえさあ。今東京を襲ってる奴ら、なんだと思う?』
『は?』
『敵の正体だよ。だって姿も何もかもわからない敵とたたかうんだぜ?気になるだろう?』
『どうせ中国だろ?この部隊だってそのために作ったようなもんだろ?』
『バーカ‼︎中国ならなんで日本海じゃなくて太平洋側にくるんだよ。俺は絶対宇宙人だと思うね。』
『おまえこそバカか。今日本が戦争する相手はせいぜい中国ぐらいだろ。にしても宇宙人はないだろ、俺オカルトとか興味ないんだよね。』
『でも、そうでもないんだよね。』
急にブザーがなりハッチが開き始める。目標地点に到達したのだ。正午の日射しが青い空を照らしている。
『どういう意味だ?』
『つまり、もし中国まで攻撃されていたとしたら?』
『これは上層部のお友達から聞いた話なんだが、中国軍に動きがあったのは確かだが向かった先は北京なんだ。陸軍、海軍、空軍がなぜ北京に兵力を向けたのか?それだけじゃない、アメリカかやオーストラリア、イギリス、ロシア、世界中の先進国が首都を攻撃されている。ほぼ同じ時刻にだ。』
『待てよ。それじゃあ仮に宇宙人だとしたら俺たちのことを調べ尽くしているみたいじゃないか。』
『まあ聞け。宇宙人だと思う理由はそれだけじゃない。ホール・アース知ってるだろ。国連がやっきになって調べてるやつ。』
『ああ、調査隊に護衛にしてはあまりにも大量の兵力をつぎ込んだから問題になったやつだろ。』
『そう、その大量の兵力が、首都が攻撃を受けるほんのちょっと前に消滅したんだと。』
『なんだって⁉︎科学技術の結晶だぞ。つい最近装備をリニューアルしたばかりだろ?その時まで未公開だった最新型のレールガンとミサイル、船、戦闘機。』
『役に立ったか。効果はあるのか。全ては神のみぞ知るだ。』
『全員整列‼︎』
隊長が叫ぶと。
『それじゃあ、その宇宙人とやらの顔を拝みにいくか。』
『かけるのは今度飲み行くとき全額おごりな。』
先頭が飛び降りた。鎖でつながれているかのように次々と、一定の間隔で飛んでいき。3つの列が降りてゆく。
『美味い酒が飲みたかったら生き残んなきゃな。』
『怖気付くなよ。』
『おまえこそ。』
『それじゃあお先に‼︎』
淳はそういうと飛び降りた。
そして、間隔を開けて飛び降りた。
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荒れ果てた街を渡はひとり海を背にして歩いていた。あれだけ救いそこなったものがあるのに、それでも恐れ、正体の知れない恐怖から逃げ続ける自分に失望していた。
途中標識を見ると5kmも歩いていない。それは瓦礫の上を歩いていたからでもあるし、気分もあったと思う。
埃っぽい街には真夏の太陽に蒸された血生臭い匂いが立ち込めている。
この短時間で死体には見慣れてしまった。
つまりそれだけ酷かったってこと。
最初はそうとしか思っていなかった。
だが、次第に異変に気付いた。
まず、ビルの壊れ方が変わってきた。
沿岸沿いのビルはどれも戦艦の艦砲により木っ端微塵だった。
しかし、それは沿岸から10kmほど、それより内陸側はビルの破損が小規模なのだ。飛び抜けて高いビルは上層部が崩壊しているものもあるが、それ以外はせいぜい戦車の砲撃ぐらいの損傷なのだ。
昼過ぎ、とりあえず近くのコンビニから食料を失敬しようとしたときだった。
悲鳴が聞こえてきた。一人じゃない、複数の悲鳴がこだましている。
自分以外にも人がいる。
聞こえた方に無我夢中で走ると、大きな交差点を横切る人たちがいた。
だが、俺は自分以外にも人がいるという認識に呑まれて、彼らが悲鳴をあげている理由を考えもしなかった。
まさに声を掛けようとした瞬間、後ろの方を走っていたひとりの頭が弾けた。
軽く渇いた破裂音がもの凄い速さで鳴り続け、赤い短い光の線が彼らを貫く。
紅い飛沫を散らしながら、身体を貫かれ引き裂かれた人々は、断末魔の叫びをあげて崩れ落ちていった。
訳も分からず、ただ立ち尽くす。
すると何が走ってきた。人だ。少なくとも人型の何かだ。
全部で3人。全身は金属で覆われ、顔の位置にモノアイのようなものが光っている。特自のBTMAに似てなくもないが、違う気がした。
すると、ひとりが気づいた。表情はないが冷酷さが伝わってくる。
殺られる。
思わず背を向けて走り出した。
奴らは遊びのつもりらしい。
一足後ろの地面が弾けている。
走っているうちに見覚えのあるビルが目に入る。
スポーツクラブ「big bang」。バスケ、フットサル、バドミントン、テニス、卓球、水泳など室内競技を中心としたスポーツクラブで、日本全国に144店舗、会員数は世界一である。
競技場のスペースもあるのだが、実際は15階相当の高さがある。
やっとの思いで屋上に飛び出す。
下を覗くと、奴らちょうど入り口の前にたどり着いたところだった。こちらに気がつき、ビルに入ってくる。一人足りなかったが気にしてる暇はない。
人には必ず、平均より飛び抜けた特技がある。俺は絵と、テニスだった。フットワークは普通もしくはそれ以下だが、打つことに関しては「テニス界のゴルゴ13」と呼ばれていた。
奴らが屋上にでてきた。が、辺りを見回しても誰もいない。となると、やはり飛び降り自殺を考えるらしい。下を覗くと、何もない。
渡には、技があった。「ダブルスナイプ」と、周りが勝手に名付けた。
2つボールわ同時に、別々の場所に、誤差25㎜以内で打つことができるのだ。ただ残念なことに、テニスの試合中に球が二つになることは絶対に書いてめ、役に立つことはない。そう思っていた。
屋上の入り口の上、素早く立ち上がり、ボールを2つ宙に放る。そして、渾身の一振り。
2つのボールは、それぞれ振り返った奴らの頭にヒットし、そして、落ちた。
パァーーン‼︎
渇いた音が響いた。
下を覗くと、片方は仰向けで地面にめり込み、アスファルトがひび割れている。
もう片方はトラックの荷台に落ちたらしく、荷台の天井に穴が開いている。
俺ってやるじゃん。
ラケットを回しながら振り返ると、消えたはずの三人目が銃口を向けていた。
そして、ラケットを見ると顎を上にしゃくった。
意味を察してラケットを後ろへ放る。
そして腰のあたりから黒い球体を手にとり、投球姿勢をとった。どうやら仲間やられたのと同じ手段で殺すつもりらしい。
腕が回りだすと同時に、黒い影がBTMAモドキに突っ込んだ。
吹き飛ばされたBTMAモドキはそのまま変圧器に突っ込んだ。
そして、青白いアークが走る。
助かった。状況は飲み込めないが、それだけは確かだ。
そう思った。
カラン
足元から音がした。
見ると、さっきBTMAモドキが投げようとしていた黒い球体が、赤く筋を点滅させていた。