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 誠司と綾香、そしてフレイと4人で歩きながら先ほどの試合について話しながら今現在、俺たちは我が家に向かっている。と言うのも、俺がフレイと契約したことを祝おうと綾香が言い出したのだ。確かに、初めて契約召喚獣の召喚に成功した時にはお祝いをするものだ。しかし契約精霊との契約は少し違うような気もするのだが。

 それでもお祝いをしてくれると言う気持ちは素直に嬉しかったし綾香だけでなく誠司も乗り気だったため家でひっそりとだがお祝いをすることになったのだ。フレイはと言えば「宴か?ご馳走か?」と目を輝かせていたので喜んでいるようだ。フレイが食べ物に目がないというのは今初めて知ったが、よく考えれば朝も大量の食パンを頬張っていたし昼も凄い速度で平らげていた。そんな訳でフレイも乗り気のようだった。

 近道である例の廃墟はなんとなく避けて一般道を通って家に着くとすぐに誠司と綾香は買い出しに出かけた。俺も一緒に行くと言ったのだが、「二人は今日の主役なんだから大人しく待ってて!」と言われて大人しく待っているというわけだ。そこで俺は先ほど試合中に疑問に思ったことをフレイに聞いてみることにした。

「なぁ、試合中に何か唱えてただろ?詠唱が必要なほど大規模な魔法を使おうとしてたのか?それにしては俺の消耗が感じられなかったんだが」

「ああ、そのことか。アレは精霊魔法の対魔力術式と言われる類のものでな、人の魔力を必要としないんだ」

「必要としない?でもこの前人間の魔力を核にしないと効力を発揮しないって言ってなかったか?」

「それは普通に実体に影響を与える場合だ。精霊魔法は普通の魔法とは違うんだ。対象は魔法や召喚獣、精霊のみを対象とする魔法でその魔力に直接的に作用するんだ。だから物理的なダメージを与えることはできない。代わりに相手の魔力を乱したり、魔力を根こそぎ奪ったり、そういったことができる術式なんだ。だからこの世界に顕現してるものに作用しなくていい。そのおかげで人間の魔力が必要ないんだ」

「なるほどなぁ・・・」

実は半分くらい理解出来ていない気がするのだが、この世の魔法全てを理解しようとしたら一生あっても足りないと諦める。

 そんな話をしながら待っていると思ってたよりも早く二人が帰ってきた。綾香は嬉しそうにスーパーのビニール袋を見せながら言った。

「お肉特売だったから今夜のメニューはすき焼きよ!」

肉という言葉にフレイは目を輝かせている。そしてそれは俺も同じだった。にも関わらず誠司がゲッソリしていたので理由を聞くと「スーパーで修羅を見た・・・」とだけ答えその後しばらくは放心状態だった。綾香に聞くとどうやらスーパーの特売を体験したことがないらしく、その特売と言う名の奪い合いに巻き込まれ結果としてこんな状態になったらしい。どれほど激しい特売の取り合いだったのだろうか。

 それから綾香がサクサクと料理を進め目の前には既にグツグツと良い匂いと音を立てる鍋が鎮座している。この綾香、実は定食屋の娘だったりするため料理に関してはとても手際がいいのだ。そしてこのすき焼きの味もきっと普通の家庭のものより美味しい味付けになっているはずだ。フレイは目をキラキラと輝かせ、さっきまで放心状態だった誠司はこの匂いに一瞬で正気に戻り、俺の腹は普段なら恥ずかしいくらいに鳴っている。しかしそんな事も気にならない程の料理が目の前にあるのだ。そして綾香は最後に全員のコップにジュースを注ぐと自分の分を持ち上げる。それに倣い全員がコップを掲げる。

「紫縁の契約成功を祈って、かんぱーい!」

綾香の音頭に合わせて乾杯すると少し飲み物に口をつけた後、皆鍋に向かって箸をのばした。綾香は「そんなに慌てなくてもなくならないって」などと呆れたように笑っていたが目の前にご馳走があるのに止まることなど出来るはずもなく、すぐに完食してしまった。

 食後の余韻にしばらく浸った後、俺たちは飲み物を片手に少し落ち着いて話をしていた。

「にしても紫縁が契約召喚獣どころか契約精霊と契約することになるとはなぁ」

苦笑しながら言う誠司は少し悔しそうだった。実は、学年で契約召喚獣がいないもう一人というのは誠司のことである。ただし誠司はその特殊性故に劣等生としては扱われていないのだが。

「本当よね〜。しかもこんなに可愛い子と契約するなんて!」

言いながら綾香はフレイに抱きついている。フレイは目を白黒させながらも綾香を受け止めていた。目をトロンとさせる綾香はまるで酔っているかのようだった。

「・・・これって酒じゃないよな?」

一応手に持った飲み物を指して誠司に聞くも返事はもちろん違うというものだった。

「これは多分料理の反動だな」

「料理の反動?」

誠司の発言に思わず聞き返してしまう。

「ああ、紫縁はしらなかったか。綾香は料理をする時、魔力を使って集中することによってプロの料理人も驚きの腕前を発揮するんだ。まあ所謂『固有魔法』というやつなんだが。問題はその反動で暫くすると酒に酔ったみたいになっちまうんだ。こんな感じに」

誠司は綾香を指差しながら言う。なるほど、固有魔法かと俺は納得し放っておくことにした。ちなみに固有魔法とはその人特有の魔法であり、発現する人は稀だ。固有魔法持ちは全体の5%〜10%と言われている。中には代々受け継がれて行くモノもあるらしいが、これは固有魔法ではなく継承魔法という分類に今は判別されていたりする。

 その後、綾香の酔いが醒めるまで4人でだらだらと過ごし、そのまま解散というようになった。当初のお祝いというよりはただの夕餐会のようになってしまったがそれで良かったような気もする。



 それから暫く経ってフレイがシャワーを浴びてる間俺は部屋で今日のことを考える。負けたことに対して悔しいとかそういう思いはない。なぜなら自分は何もしていないからだ。殆ど他人事のように思っていたかもしれない。しかしフレイは負けた。きっと表面には出していなくても悔しいと思っているだろう。それに対しては申し訳なさで一杯だった。自分がもっと魔力を持っていれば、とか何か出来ることもあったのではないか、とか考えればいくらでも反省点は出てくる。

 不意に扉をノックする音が部屋に響き渡る。フレイだろう。

「入っても構わないか?」

「いいよ」

フレイは少し遠慮がちに部屋に入ってくる。格好はピンク色のパジャマである。これは綾香が着なくなったものを譲ってもらったのだ。少し窮屈そうな胸の膨らみに一瞬目が行くがすぐに逸らす。フレイは近づいてくると床に座った。二人の距離は1mも離れていないのではないかと言うほど近い。

「昼間は、みっともない姿を見せてしまったな」

フレイが話し出すと同時に、やはりその話かと思う。

「いやいや、フレイは頑張ったよ。むしろ俺のせいで不便をかけるな」

不便というのは魔法に関することだ。

「だが氷の精霊に対して遅れを取ったのは完全に私の不覚だ。本当は、あの時勝っておきたかった」

「そりゃ勝負だもんな、勝ちたいに決まってる」

「それだけじゃないんだ。私は紫縁の、紫縁に対する皆の意識を変えたかったんだ。自分の契約者が落ちこぼれとバカにされているのは許せなかった。何年も、何十年も、もしかしたら何百年かもしれないほどの時を待った、ようやく巡り会えた自分の主を認めて欲しかった。だから勝てば周りの見る目も変わると思ったのだ。それなのに、私は結局勝つことができなかった」

フレイは悔しそうであると同時に悲しそうだった。フレイが自分に対して何を思っていたのか。そんなこと気にしてすらいなかったが彼女はそんな自分に対してこんなことを思っていたのだ。

「ごめんな、フレイ。俺が落ちこぼれって言われてるのは、俺の責任だ。だからフレイが気を張る必要はない。任せてくれ、必ず汚名を返上してみせる。フレイには俺がどうしょうもない時にそばにいて助けて欲しい。だから、これから一緒に頑張ろう」

俺は思ったことを整理もせずに言う。少し間を置いてフレイは頷き何故か一度軽く俺に抱きついてから部屋から出て行った。それから俺はその意図を理解できず間抜けにも暫く動くことが出来なかった。

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